Monologue2001-26 (2001.4.30)

「2001.4.30(月)」雨・便利が不便に変わる時

 コンビニは僕の幼少時には無かった新しい文化であったが、今やスッカリ定着し生活の中で重要な位置を占めてくるまでに至った。
 コンビニは「コンビニエンスストア」の略で文字どおり便利な店である。

 しかし人生そう甘くはいかせてくれない。
 「天災は忘れた頃にやってくる」などと言うが、神は我々が便利という座布団にノホホンと胡坐をかいていると、強烈なしっぺを食らわせてくる。意地悪な御方である。

 コンビニには落とし穴がある。
 コンビニエンスが非コンビニエンスに変わる、全くもってバミューダトライアングルのような強烈な魔境の落とし穴が発生する時があるのである。
 それはコンビニにおける僕が「魔の時間帯」と称する時間に起る。

 それはコンビニの商品入換えの時間帯なのである。
 僕はいつもこの時間に偶然店に入っちゃったことに気がつくと「ああっーっ!!、まーたやっちゃったかっーっ!!」と大変な無念・怒り・絶望の感情に苛まれる。茫然自失、痛恨のミスである。
 明智光秀に裏切られた信長、本能寺の変、などという歴史系用語も浮かんでくる。
 人生数々のタイミングの悪さがあるが、この「コンビニの商品入換えの時間帯」にかち合ってしまうこと程、僕を幻滅させるタイミングは無い。
 些細なことで事の重大さが全く無いにも関らずダメージが結構大きい為、そんな不条理なチグハグさ自体に無性に腹が立ってきてしまうのである。

 僕も比較的良く利用する弁当・惣菜の類いは商品の回転率も良いためか一日数回に渡って、仕入れ・入換えが行われているようである。
 今回もコンビニに入ったら、運悪く店員が入換えの真っ最中であった。
 商品棚には全く在庫が無い。すっからかんである。
 まさにこれから、なのであった。

 こんなピンチを実に要領良く切り抜けていく方達などもいて、まことに羨ましいのであるが、いつぞやは、これから並べるという惣菜のケースを強引にこじあけ、中から好みの弁当を取り出して颯爽と去って行くオジサンを見かけたりした時もあった。
 僕にはとてもそういう大胆な行動は出来そうにない。
 すぐ自分の好きな品が見つかれば良いが、十数段と積み上げられた陳列前の新商品の入ったケースを強引に持ち上げこじ開け、一つ一つ吟味しながら、好みの製品を取捨選択していくという、ある意味店員の「邪魔」としかいえないような作業を遂行する芸当は、シャイな僕にはとてもできない。

 いつもならこういう場合、スッカリ諦めて無念のうちに退散してしまうのであったが、この日は何を血迷ったか幸いにも店内が閑散としていたので、店員の陳列作業が終わるまで、雑誌でも読んで時間をつぶすか、と安易に思ってしまった。
 とりあえず影響の無い飲料水やパン等の類いを先にカゴに入れた後、僕は時間調整の為の雑誌立ち読み時間に入った。

 まさに悲劇はこういう時に起るのである。
 「こういう時に限って」起るのである。
 全く今思い返しても不条理さに怒りが込み上げてくるのであるが、なぜか僕は閑散としたコンビニに入ると、途端に店内がすぐ混み出して来る、という運命に見舞われることが頻繁にあるのである。
 こういう時、一体神は何を考えているのか?何をしているのか?どこに行っているのか?といろいろと恨みたくなる。

 僕が雑誌を読み出して、ものの数分も経たない内に、何の帰りがけか知らんが、少年の集団が大挙して店内に入ってきた。
 少年共は口々に「おでん食いてえ」などと喚き散らし、たちまちレジ周辺を占拠してしまった。
 更に悪いことにはその後、普通の客も続けてバラバラと入ってきた。
 これで店内は急に混みだしレジは渋滞してしまった。
 少年共には店内の状況を考慮し、すぐにその場を辞すなどという社会的道徳観発達のカケラすら見られない。

 当然のことながら、商品入換え担当の店員は緊急事態発生に「いざ鎌倉」よろしくレジに駆け付け、商品陳列作業は敢え無く中断の憂き目に至ってしまった。
 僕は、恐る恐る惣菜の棚を確認してみる。
 案の定、全く作業は進んでいない。元のままである。
 落胆・絶望・無念・・・
 こんな時、僕の中には明日を担う子供を愛する気持ちなどが全く喪失してしまうからいけないと思うのであるが、この怒りの感情の噴出はどうにも止められず、思わず「このクッソガキャー」などと恨みつらみ満載で舌打ちしてしまう。
 ガキ共は店内を所狭しと縦横無尽に駆け抜け、僕の通行を疎外し、それが一層僕の神経を逆撫でする。
 普段こうした子供の傍若無人さなどは全く気にかからず、むしろ元気があってヨロシイなどと思うのであるが、人間勝手なもんで、いざ自分に災難が降りかかると途端に立場を豹変し、ヒネクレオジサン第二段階体に変化してしまうのであった。
 どうもそんな自分のともすれば偽善的な態度の噴出にも憤ってしまう。
 仕方ないので「神」を恨む。子供では無くとりあえず「神」という、ある種何でも屋的存在を恨んでおけば、差し当たっては誰にも被害は無い。
 
 ともあれ一旦気を取り直し、雑誌を立ち読みできる時間が出来たんだ・・・我慢我慢、などと怒りを静め、目の前にある雑誌を手に取ることにした。
 これで10分ほど経過するが、先程のガキ共はスッカリ駄菓子屋気分で、店から立ち去る気配が無い上、なぜか、さっきまであれ程閑散としていたのに客足が途絶えなくなってしまった。
 これでは店員が陳列作業をする時間が全く取れない。
 
 雑誌というのも、全ての雑誌が自分の興味を惹くとは限らず10分で雑誌黙読作業にも飽きてしまったが、仕方ないので女性誌の占いなどを見ようとしたが、怒りで頭が一杯になっている為、活字があまり頭に入ってこない。

 そうこうする内に20分ほどが経過してしまった。
 最初のガキ共は、さすがに店を出たようであるが、まだ店の前で屯を始めている。
 更にあろうことか、別の子供集団が、また入って来てしまった。
 どうやら何かの帰りの子供が定期的にやってくるタイミングにブツかってしまったらしい。
 こうなると、もはや陳列作業待ちは絶望的な状況になった。もう待っていても埒が明かないことが次第に確実になってきた。
 たとえ、店側がこの新しいガキ集団を処理し終えたとしても、それから陳列を始めれば、あと30分くらいはかかるだろう。この少しでも時間が欲しい昨今、なんでコンビニで、惣菜待ちに貴重な時間を小一時間も費やさなければいけないのだ?と更に怒りが込み上げてくる。

 そして僕の忍耐も限界に達し、例によってまたもや思考は哲学的に展開し始めた。
 一体この食料入手の為の待ち時間は、僕にとってどうしても必要な時間だったのか?
 こんなにコンビニに長居をしてまで続けるべきものなのか?
 食料入手に、これだけエネルギーを費やして良いのか?、只でさえ食べる為に不本意な仕事をし、更にその「食べる時間」の為にこれだけ労力をかけている。これではまさに食う為だけに生きているのと同じである。
 そんなことで良いのか?これじゃあ動物と同じではないか?だったら動物として生まれてきた方が、最初から食うだけで仕事で苦労する必要もないから、そっちの方がよっぽどマシなのでは無いのか?。人間でワザワザ生まれてくる必要があったのか?・・・
 ・・・などと思考はコンビニの片隅で最終的に「人間存在の意義」にまで飛躍していくのであった。

 既に飲料水の類いを選んでしまっているので、それを全部戻して別の店に移動しようかとも考えたが、それも馬鹿らしいので、とりあえず現時点で選んでしまった商品のみ清算することにして、その店を辞し、他の惣菜は結局別の店で購入することとした。不愉快な行列に並んでとっとと清算を済ませる。結局このコンビニに来た目的の半分も遂げることが出来ずじまいであった。
 こうして僕はスゴスゴと雨の中別コンビニを目指し退散するのであった。
 アホクサ。一体どこがコンビニエンスなのだ!!

 偉大なるビートルズのジョンレノンは、かつて怒り・絶望・無念などを、「ジョンの魂」「イマジン」などと言った歴史的名盤にまで昇華させたが、片やモテナイ独身エトランゼ(僕のこと)は、その行き場の無い怒りを、せいぜい「フザケンナヨッ!!」などと罵りながら「道端の石ころ強打」あたりに転化するくらいしか、今のところ芸当を持っていないところが、いかにも寂しいのであった。

 こういったタイミングの悪い時というのは、本当にうまい具合にタイミング悪く物事が発生していくもんである。
 これは考えようによっては、もし仮に「タイミング悪い世界」などというものがあるとして、そちら側から見れば実に「タイミングが良い」ことなのでは無いだろうか。
 これだけトントンとタイミング良く(悪く)物事が運ぶというのは、誰かの仕業としか思えない。
 だから僕は最近、こういう場合は「タイミング悪い世界の誰か」が「僕を怒らそうと」する為だけに、悪戯をしているんだな、と解釈している。
 スターウォーズ的に言うと「フォースの暗黒面」に僕を引きずり込もうとしているのである(やれやれ、今度はそうきましたか)。
 だから、もう「その手には乗らん」のである。
 なんてったって、ヤツらは僕を怒りの感情で満たし、ダークサイドに引きずり込むのが目的なのだから。
 怒ってしまったらそれこそヤツらの思うつぼである。
 それじゃああまりにも癪に障るのである。プンプン!。
 あれ?また怒っちゃた・・・。クソーッ!・・・いかん、フォースの力を信じるんだ!
 ん?これはどうもオカシナ方向に行きそうですな。
 たぶん天気が悪いからイライラが募っているんでしょうな・・・。

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