「案内文」は大事です


 明治神宮探鳥会も含め,日本野鳥の会東京支部の探鳥会は,支部報に開催案内を掲載する際,日時や交通案内や持ち物などの必要事項のほかに,「みどころ」と題して,案内文を少々掲載しています。300字にも満たないような,わずかなスペースですが,各探鳥会の担当者の「売り口上」が掲載されます。支部報は東京のマスメディアにも送られていますので,この記事を元に新聞に情報が転載されることもあります。スペースに余裕があれば,約300字の案内文が数十文字以下に圧縮されて,ちらっと掲載される場合もあります。また,日本野鳥の会本部にも,毎月2箇所ずつ程度ですが,東京支部の探鳥会の情報を出してもらっています(これは事務局から情報を別送しています)。本部で紹介している探鳥会情報は,Webでも公開されていますので,参考になさってください。

 案内文は,読者に探鳥会への参加動機を与えるものとしても,重要なものです。実際,良い案内文を書くことが出来れば,こちらの想定するような参加者層をがっちり掴むことも不可能ではない。明治神宮探鳥会の場合,夏場の探鳥会で,夏休みの宿題対応,昆虫観察に時間を割く,と言った予告をすれば,親子連れがたくさん参加しますし,春の探鳥会では花の観察をアピールすることで,同日開催の谷津干潟探鳥会(こちらはシギ,チドリのシーズンで,4月と5月は人気が高い)とは別の,野草観察に興味を持つ参加者層を引き出すことも可能です。さらに,寒い時期の防寒装備のヒントとか,夏場の虫除け対策法とか,定型的な「必要事項」のスペースを補足するような情報を載せることで,安心して参加してもらう,と言ったことも行っています。

 案内文の書きかたも,探鳥会の担当者によってかなり違ってきます。とにかく,人気の高い鳥や珍しい鳥の名前を並べて,「こんなすごい鳥が見られるぞ」と宣伝する探鳥会もあれば,季節の話題からアプローチする探鳥会,あんまり観察内容と関係無さそうなギャグネタに振っている探鳥会も……。それぞれの考え方で,人を呼び込む努力をしているようです。表現形はいろいろと考えられますが,最も基本的なこととして,きちんとマーケット戦略を考えて,自分達が来て欲しいなと思っている人の気持ちを動かすような案内文を書きたいものです。

 明治神宮探鳥会の案内文は,特に奇抜なものではありません。正直に,どんなスタイルの観察をするのか,あまり演出せずに書くのが基本。その理由は簡単です。初めて探鳥会に参加しようと思っている人に安心して参加してもらうことを,第一の目標にしているだけです。定例探鳥会ですから,集合時刻と場所が分かっているリピーターは,案内文など読みませんからね。例えば,明治神宮探鳥会でカワセミが観察される確率は5割ぐらいですから,「カワセミが見られます!」と宣伝して,実際に見られない場合が約半分(しかも,参加者全員が観察できない場合もあるので,初心者にとっては,カワセミに遭遇する確率はさらに低くなります)。こういう不確実性の高いものを宣伝文句の中心に使わないのが,明治神宮探鳥会の方針です。とにかく,正直に書くだけなんです。中身の解説内容が良くなれば,案内文も自ずと魅力的になる……はずですから。

 でも,まぁ,そう言う意思が伝わらないこともあるわけで,冬場の探鳥会でのこと,ある参加者の方が,「案内文を見たらオシドリとツグミとアオジしか書いていなかったから,3種類しか鳥が見られないと思っていた」と言われてしまいました(汗)。冬季に50種類以上の野鳥が観察できる某探鳥会だったら,どうするんでしょう?……ま,たまには,こう言うとんでもない読まれ方もするわけなのですが,そこまでフォロー出来ませんよね。
 また,本部の会報に8月の定例探鳥会の開催案内の転載があったとき(年に1,2回,明治神宮探鳥会の情報が転載されていて,それはWebでも確認できます),こともあろうに,「この時期,野鳥はあまり見られません」と言うコメントがつけられていたのには,ちょっと驚かされました。探鳥会をアピールするべき場所に,マイナスのコメントを出すって……。同じページに記載されていた他の探鳥会の案内を見たら,見られそうな鳥の名前を2,3挙げてる,と言う体裁のものがほとんど。これでホントに初参加の人が来るのかなぁ……(実際,本部の会報を見て明治神宮探鳥会に参加した,と言う人は,限りなくゼロに近いですが…)。
 初めての探鳥会は不安なもの。もし,あなたが明治神宮探鳥会のことを全く知らなくて,案内文に「今月はツバメとシジュウカラを観察します。カワセミも見られるかもしれません。」と書かれていたら,内容が把握出来ますか?不安は減りますか?

 珍しい鳥の名前で参加者を呼び寄せるようなことはしたくありません。探鳥会は見世物ではないのですから。それに,鳥を見せると言う行為だけで探鳥会が成り立っていた時代は,既に終わっていると思います。「野鳥観察を通じて何を伝えるのか」が重要なのです。観察案内する側も,野鳥を探し出して迅速に識別して名前を教えたり,どこでどんな鳥が見られると言った「珍鳥情報」を知っているだけでは,全く不十分です。参加者に自分の趣味を押し付けるのではなく,参加者のニーズに即して柔軟に対応しつつ,自然保護団体メンバーとしてのプライドを持ち,参加者に伝えるべきことをしっかり伝えて欲しいのです。では,具体的に,何を,どんな形で伝えたいのか?……それは,主催団体によって主張も違いますし,方法論については観察案内を担当する人のパーソナリティと努力と勉強次第,としか言いようがありません。もし,あなたが人に教える側に立つ人であるなら,「伝えたいこと」「伝え方」が分からない,と言う発言は,許されません。それが分からなかったら,参加者を惹き付けるような案内文など,到底書けないじゃないですか。参加者は案内人の姿を良く観察しています。いつもきちんと勉強しておかないと,すぐに見抜かれてしまいますよ。

 たった200〜300字の案内文。でも,その中に,初めて探鳥会に参加しようという人に,参加したいなと思わせるような内容や,読む人の心が動くようなメッセージを書き込むことが出来る探鳥会なら,きっと,参加しても満足度が高いと思いますよ。



(2004年5月14日記)

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