困ることなんだけど,拒否できないこと


 ときどき現われるんです。ちょっと困った人。
 探鳥会における「困った人」と言うのは,いくつかのパターンがありますが,案内する側が「これは困るなー」と感じるのは,こちらがお願いしたことを全く聞かない人とか,観察案内に変な横槍を入れたり,本題に関係の無い質問を延々繰り返す人とか,要するに,探鳥会/観察会の流れや趣旨を無視して,その場の雰囲気をブチ壊す人。この手の人が,いちばん困る人なのですが,大抵の場合,本人は迷惑をかけているという自覚が無いので,その対処もなかなか大変なのです。

 最近出会った「困る人」の例。
 メジロを観察していたら,急に,「あ〜,プロの人,いる?」(担当者を捕まえたいらしい)。我々は「プロ」ではないと,毎度毎度,念を押しているのに,何も聞いちゃいない……仕方が無いので,「ここには『プロ』でやっている人はいませんので……」と言い終わらないうちに,案内担当に向かって,「あのさー,プロの人,メジロのオスメスの見分け方知ってる? 知らないでしょ。あれはねぇ……」と,一気に喋り出す。

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 …その内容は,狩猟者や飼育者の間で伝承されている技術なので,割愛します。
 (しかも,内容に誤りも多かったので,本人の名誉のためにも,内容は伏せます)
 バードウォッチャーが野外識別でメジロの雌雄を確実に識別することは,事実上困難です。
 図鑑でも「雌雄同色」と表記されていると思います。
 メジロが禁猟鳥である以上,自然観察には,あえて必要の無い情報と考えられます。


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 ……さてさて,その人は,ひととおり喋ったら,「俺はプロでも知らないことを知っていたぜぃ!」と,意気揚々としていました。……ま,そんなことは,どうでもいいことだけど,その場の雰囲気を見事に破壊してくれましたね……。

 そのとき,担当者はどう対応したか。
 「放置」です。

 私も若い頃だったら,探鳥会では隠している「プロ」の顔のほうのプライドにかけて,きちんと説明していたかも知れません。この程度の知識なら,あっという間に論破できます。
 しかしそれは,何の解決にもならない。
 こういう横槍を入れてくる人は,大抵は,自己主張したいだけなのです。一つの知識を取っ掛かりにして,他人に認められたい。その鼻を折ったところで,また何かネタを引っさげて同じことを繰り返し,エスカレートするだけです。他の参加者には申し訳ないことですが,長い目で見て,御本人が満足する形に収めたほうが,担当としては得策なのです。

 このタイプの人,中高年の男性に多く見受けられます。明治神宮探鳥会は,担当スタッフの年齢層が若いので,年齢的に口出ししやすい面もあるようです。中には,観察している集団の後ろで,周囲の参加者を巻き込んで,独自に「観察会」を始めてしまう人も……。そこまで喋りたいのなら,もうちょっとポジティヴに考えて頂いて,探鳥会スタッフとして活躍して欲しいところなのですが,お誘いすると,十中八九,「自分には人に説明できるほどの知識が無い」と,いきなり弱腰になって逃げられてしまいます。

 責任は取りたくないけど,自己主張はしたい,誰かに認めて欲しい……そんな印象です。

 中には,責任も引き受けようと言う人もいて,そう言うタイプの人は,ちゃんと探鳥会担当者になって,鳥の名前を教えています(笑)。探鳥会担当者の中には,こういう,自己主張が強めでプライドの高い人もいるわけで,指導者側に立つことにステイタスを感じているような人には,この傾向があるのではないかと推測しています。
(注:自然観察指導者と言っても,ただのボランティアです。基本的には本人の「道楽」ですから,決して「偉い人」になったわけではありません)

 これと類似のタイプで,担当者泣かせなのが,自然解説した内容にあまり関係の無い,変な質問をひねり出して,次々に浴びせ掛ける人。一つ答えると,その揚げ足を取って,次の質問,と言う具合に,妙な問答が続きます。面倒になって,「そんなこと,分かりませんよ」とか「それはこの話題と関係ありませんから」と切り上げようとすると,不敵な笑いを浮かべ,「知らないんですかぁ〜……」と,「論破」した悦びを表す……イヤミですねー,こうなると。
 私は,「1回だけ答える」「本題に関係の無いことはすぐに打ち切る」と言う対応をしています。他にもたくさんの参加者を抱えている以上,1人のために時間を無駄に食うのはまずいですから,深入りは禁物。
 このタイプも,基本的に,自己主張と認められたい願望が強いようです。

 女性の場合は,知識をひけらかすような行動に出る人は少ないですね。女性で,担当者泣かせの最右翼は,自分の気に入った担当者にぺったりくっついて行動し,なんだかんだと話をする……それも,自分のことを喋りまくる……その結果,担当者を「話し相手」として独り占めしてしまい,担当者は他の人に十分な観察案内が出来なくなる。人によっては,担当者のことを根掘り葉掘り聞く人もいて,こういう人に捕まると,心の中で半分泣きながら,家に帰るとぐったり疲れが……。
 これって,ある種のストーカーではないかと……。

 男女に共通して見られるのが,「権威」を借りて主張する人。
 野鳥関係も,これだけ趣味人口が増えると,「有名人」「カリスマ」を何人も輩出します。そういう「先生」の受け売りをして,「あんた,○○先生のおっしゃっていることと違うよ!」と来るわけです。正直,「プロ」を自称するナチュラリストの先生にも,誤認事項はたくさんあります。一人で何でも網羅するようなスーパーマンは居ないですから。また,その「先生」の喋ったことをさらに誤認している場合も少なくないので,有名人の受け売りを妙に強く主張する人も,要注意です。また,野鳥関係の「カリスマ」の言葉が勝手に一人歩きすることもあり,本人が言っていないことまで,「○○先生が言っていた」と言う接頭辞がついて,信憑性の高い噂として流れていることもあります。

 ……そりゃ,確かに,我々は「素人集団」と言う断りを入れて観察案内をしていますしね。でも,あくまでも「自然解説で生計を立てていない」と言う意味であって,必ずしも「プロ」より見劣りのするものではないのは事実。探鳥会担当者は通常,平日の肩書きを黙っているから,私に向かって,私の専攻した専門分野の話を延々と説明して,知識を披露してくださった方もいらっしゃいます(そのとき私は,黙ってハイハイと聞いてました。私が何者なのか分かったら,ものすごく恥ずかしい思いをさせてしまうので,黙り通すしかない…周囲の私以外の担当者は苦笑してましたが……)。

 他にも,いろいろと困った人,苦笑せざるを得ない人など,いろいろと経験はありますが,まぁ,大体は丸く収まってます。もし,これを読んで探鳥会に参加するのが不安になった人がいらっしゃったら,それは間違いです。こうした困り事が発生するのは,探鳥会が,いろいろな人を分け隔てなく,やさしく受け入れていることの裏返しなのです。他の集団だったら追い出されてしまうような人も,柔軟に受け止めているのです。

 こうした話を,地方で探鳥会をされている方達としたことがありますが,探鳥会に「ちょっと困った人」と言うか,自己主張の強い人が来るのは,都市部に多い傾向のようです。人とのつながりが希薄になりがちな大都会。もし,誰かと「つながり」を求めて,誰かに自分の存在をアピールしたくて,探鳥会で自己主張してしまう人が居るのだとしたら,それを拒否しないほうが,良いのではないかと思います。探鳥会はCommunity of Interest ですから,野鳥を愛する,自然を愛する心さえつながっていれば,コミュニティは成り立ちます。もうちょっとポジティヴに考えるなら,探鳥会は,日常の他の場所でのしがらみから開放される場所でもあるわけですから,その役目について,担当者が十分に理解していれば,あえて「困った人」を追い出すような理由は無いのですし,上手く対処できれば,問題を大きくせずに済むわけですし。

 都会地の探鳥会で,自己主張の強い,探鳥会にとっては「困った人」が多いのも,都会に暮らす人々の寂しさを反映しているのかも知れませんね。



(2003年6月26日記)

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