探鳥会なんて,嫌いだ!


 いま,野鳥の会の会員数が減り続けています。野鳥の会本部の会員数は,この2,3年の間に,約5万5千人から5万人まで減らしています。中でも東京地区の会員数は,本部の会員数より数年先行して減り始め,現在は6年前の2割減と言ったところ。

 会員数の減少については,不景気の影響とか組織への魅力を感じない人が増えたとか,さまざまな理由が考えられますが,もっと注目したいのは,これよりさらに顕著に人数が減っている,探鳥会の参加人数。

 原則的に,探鳥会は会員でも非会員でも自由に参加出来ます。野鳥の会の支部によって,探鳥会のアナウンス方法や参加費の徴収方法もさまざま(無料のところもあれば,会員の参加費を割安にしているところもあります)ですが,東京地区の探鳥会は会員/非会員の区別を全くしていませんから,非会員であっても,会員と同じ条件で,誰でも自由に参加できます。そのような条件では,会員の参加実績以上に,非会員の動向によって,参加人数が大きく変動します。

 明治神宮探鳥会に限って言えば,1980年代半ばには,年間のべ1500人の参加実績がありました。当時はバードウイークなどのイベントに合わせ,月例以外の日にも2,3回,探鳥会を開催していましたから,明治神宮探鳥会だけで2000人近くの人を動かしていたことがあったわけです。その中で,非会員の占める割合は全体の半分強。つまり,年間のべ1000人以上の非会員が,明治神宮で行われる探鳥会を訪れて,我々の観察案内で観察を楽しんだと言うことになります。現在は年間のべ600人前後で,非会員の参加実績は,全参加者の1割ぐらい。当時の支部会員数は,現在の約6〜7割(3000〜4000人ぐらい)でしたが,会員の参加実績は,現在よりも,ずっと多かったことになります。
 現在の明治神宮探鳥会の参加実績は,1980年代半ばに比べると,年間のべ参加者数ベースで6割減,非会員の参加実績で見れば,9割以上の減少と言う状態です。

 探鳥会が一般の人から見向きもされなくなってきている,とも読めます。
 さらには,会員であっても,探鳥会に参加しない人が増えていることも分かります。

 探鳥会に参加しない人の意見を探鳥会で聞くことは出来ません。
 そこで,数年前,とある野鳥関係のMLに,「あなたはなぜ探鳥会に参加しないの?」と言う趣旨の質問を投げかけ,意見を募ってみました。このMLには,鳥が好きな人が三々五々集まり,メンバーには探鳥会を担当する側の人も含まれていたり,個人ベースで活動している人がいたり,自宅の回りでの観察を中心にしている人がいたり,それほどマニアックな発言が行き交うようなMLではありませんでした。

 その結果,2桁に達する人数の方々から,さまざまな意見を頂きました。
 主要な意見の趣旨だけまとめてみますと,

◎探鳥会に参加しない人の意見としては…
・自分のペースで観察したい。
・団体旅行みたいで嫌だ。
・人と関わりたくない。
・大集団だと,鳥が見えない。自然環境へのインパクトが大きい。
・話の合う人がいない(高齢者ばかりでつまらないと言う,若い人の意見も)。
・すごくたくさんの種類の鳥を見ている人がいっぱいいて,気後れする。話の環に入れない。
・腕章とか旗を持ったリーダーが,威圧感がある。
・「探鳥会」と言う名称そのものに,古臭いイメージやプレッシャーを感じる。

うんと要約すれば,気分的に敷居が高くて行動を規制されがちになる点が,嫌われているわけです。

 こうした意見が交わされている間に,探鳥会で案内をしている側の経験者からも反省や意見が出てきました。探鳥会がマンネリ化していると感じている人,「常連さん」の溜まり場みたいになってしまったかな,と言う反省,「いや,探鳥会は人と人との対話が出来ることがメリットなのだ」と言う意見など……この論議は,探鳥会に参加する人,参加しない人双方にとって,興味深いものとなりました。

 それじゃ,なぜ探鳥会に参加したり,探鳥会で観察案内をしているんだろう?
 探鳥会に参加することのメリットについても,考えてみましょう。

◎探鳥会に参加することのメリット
・いろいろな人との対話が楽しい。友達作りもOK。
・そのフィールドの自然環境を,手っ取り早く知るのに役立つ。
・鳥を見つけるのが苦手でも,誰かが見つけてくれる。
・自然観察や自然保護などの情報が得られる。
・野鳥の会の活動への参加意識が高まる。

 探鳥会に参加しない人の言い分と,背中合わせになっている部分も少なくありません。
 ただ,お互いに食わず嫌いの部分があったり,思い込みで誤解している部分も,無いわけではないと思いますので,多少は割り引いて考えておきましょう。

 昔は探鳥会に参加していたけど,最近は探鳥会に参加していないという方の意見の中に,ちょっと興味深い意見がありました。

それは,現在,この野鳥関係の業界で名前の通っている人達がまだ若かった頃,その人の野鳥観察に対する姿勢やビジョン,人格などに惹かれて,その人の案内する探鳥会に足繁く通っていたと言うお話。
 ……なるほどな,と思います。
 私はたまたま,かなり昔から探鳥会との付き合いがあるので,現在では野鳥ファンの憧れでもある,この道の第一人者とか,有名な観察指導者や自然保護の担い手たちとも知り合いですし,既に故人となった伝説的指導者とも知り合いでしたし,昔,一緒にフィールドで遊んでいた人の中にも,今では「先生」と呼ばれるような人になった例も,中にはあるわけで……。これは特別な経験ではありません。昔はこの業界も,人口が少なかったので,大抵の「有名人」と面識が出来てしまったんですね。もちろん,彼らは有名になるだけの実力と見識と魅力を持っていたのも確かです(ちょっと変わり者も多かったけど……笑)。
 今,探鳥会に遊びに行っても,なかなか魅力のある人物に出会えないのも事実だと思います。この20年で,探鳥会は「大衆化」したのです。野鳥観察を楽しむ人口の増加とともに,探鳥会への需要も増加し,鳥を探して名前を教える能力に長けた人を中心に,観察指導者が増えてゆきました。探鳥会の規模も拡大し,イベントとしての体裁を整えるために,合理的な運営方法が必要となり,事務的,機械的な面も増えました。安全管理面も整備され,ボランティアと言えども事故についての責任が追及される時代になりました。大衆化,マスプロ化は時代の流れなのですが,多様な魅力ある指導者がコツコツと運営していた時代の空気は,もう,ほとんど残っていません。

 かつて,自然観察,野鳥観察,自然保護などは,ごくマイナーな愛好家のものでした。その時代のローカルヒーローが,現在もそのままの形で通用するとは思いませんが,かつての野鳥関係の有名人たちは,野鳥に興味のない人にも名前ぐらいは知られていました。今はそんな有名人,いませんよね。そういった意味では,今のほうが,愛好者人口が多い割には,「大人物」が出なくなっていると言えます。ある面では,野鳥観察趣味が,よりパーソナルな趣味になってきているとも言えます。探鳥会が敬遠されるのも,時代の流れであると言えましょう。
 しかし,野鳥観察の面白さや自然体験,そして,自然保護思想などを語り,伝える場所として,探鳥会はHow to本や雑誌よりも遥かに優れていると思います。今,探鳥会の利点を最大限に生かすとしたら,「人の魅力」とか,「友達作り」など,人と人をつなぐ力であったり,自然と向き合う際の姿勢(フィールドマナーや自然保護思想も含めて)を,肌で感じてもらうことだったり,ひとことで言えば,「人と人が向き合う場所」あるいは,もっと気楽に考えれば「溜まり場」みたいな機能を重視してゆくのも良いのではないかと思います。「自然の魅力」とともに,「自然と向き合っている人の魅力」が,探鳥会には必要です。

 探鳥会の参加人数が減っている今,かつてメジャー化する前の時代の探鳥会が持っていた魅力を取り戻すチャンスだとも考えられます。観察案内をする立場の人にとっては,マスプロ的な探鳥会のプログラム,代わり栄えのしない観察案内方法に,いろいろと工夫を加えてゆけるだけの余裕が手に入ったと考えてはいかがでしょうか。今は野鳥観察人口も多いですが,趣味嗜好も多様化しています。マスプロから少数多種類,多様化への転換が必要です。特に「マスプロ」の時代以降の探鳥会しか知らない人には,なかなかピンと来ない面もあるかもしれませんが,ぜひ,「自分磨き」も兼ねて,探鳥会の魅力アップを工夫して欲しいと思います。

 参加人数が減っても,80年代,90年代と同じことをしているようでは,「探鳥会嫌い」に拍車がかかっても仕方がないのではないかな,と言うのが,私の率直な感想です。ぜひ,これを読んでいる,探鳥会を作る側の人たちにも頑張って欲しいと思いますし,これまで探鳥会に参加した経験のない人には,探鳥会に新たな流れを作るべく,積極的に探鳥会に参加して,新風を吹き込んでくだされば,と期待します。


(2003年1月7日記)

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