IT時代の探鳥会運営を考える


 ここ数年でインターネットが爆発的に普及し,ネット上にもさまざまな自然観察情報が流れるようになりました。がしかし,探鳥会の現場がインターネットの恩恵を感じる場面は,まだ,それほど多くありません。明治神宮探鳥会の所属する日本野鳥の会東京支部では,公式には,定例探鳥会を中心に,niftyや日本野鳥の会本部などに探鳥会開催情報が転載されていますが,そこから情報を得て探鳥会に初めて参加してくださった人と言う事例は,明治神宮探鳥会での経験で言えば,現在までに,限りなくゼロに近い一桁です。インターネットは探鳥会の宣伝メディアには向かないのか,とも思われるような話です。

 ところが,そうでもないようです。

 東京支部内の探鳥会のうち,現在,明治神宮探鳥会と新浜探鳥会には,ネット経由で参加する人が,毎月確実にいます。その情報源として使われているのは,明治神宮の場合,この「明治神宮探鳥会ファンクラブ」であり,新浜の場合は「行徳野鳥観察舎友の会」(こちらと相互リンクしています)と言う,フィールド密着型のWebサイトです。
 新聞等のメディア経由で参加した人とネット経由で参加した人は,だいぶ雰囲気が違います。ネット経由の参加者は新聞経由の参加者に比べ,年齢的にかなり若い。さらに,野鳥のみならず,自然全般への興味が広い人が多く,自然保護意識も高い。それに,ありがたいことに,リピーターになってくださる確率も高く,リピーターになれば入会してくださる確率も高い。また,ネット上で初めて探鳥会の存在を知った人も多く,そう言う意味でも,上記2つのWebサイトは,新聞等のペーパーメディアとは別のマーケットを得ていると言えそうです。
 ネット経由でこうしたアクティブな参加者が得られる理由の1つは,ネットの場合,はっきりと目的を持って検索して,自分に合ったものを探し当てるわけですから,最初から目的意識が高いことが考えられます。Webサイト側も,そう言う目的に叶うだけの情報を提供していて,実際に探鳥会で提供される予定の観察内容も,閲覧者によって参加前に吟味されているわけです。そして,niftyや野鳥の会本部サイトと決定的に違う点は,情報の双方向性。niftyへの情報転載や本部発の探鳥会情報が集客力を持たない理由の1つは,情報の発信形態が従来メディアと同等に過ぎないからです。ネットでは掲示板やメールなどで,探鳥会参加前のみならず,参加後も,担当者と参加者,あるいは参加者同士で十分なコミュニケーションが取れることが特徴であり,それが探鳥会の魅力を大きくしています。それに加え,この2つのWebサイトに共通して言えるのは,Webサイトそのものが「野鳥ファン」をターゲットにしているのではない,と言うこと。ネット検索エンジン上では「自然観察」や「環境教育」「自然保護」と言うカテゴリに分類され「バードウォッチング」から検索される確率が低く,なおかつ,サイトの内容がネット上で十分な信頼を得ている点も見逃せません。野鳥の会の本・支部の発信する情報が,野鳥に興味のある人たちを取り込む力があるとすれば,行徳と明治神宮のWebサイトは,自然観察や自然保護に興味を持つ人全体に呼びかける力を発揮しているようです。言い換えれば,本・支部の発信している情報は,「探鳥会」を知っている人が探鳥会のスケジュールを得るために利用し,行徳のサイトとここのサイトは,「探鳥会」そのものを良く知らない人のための窓口として機能していると言えます。

 さらに2次的な効果として,ネット経由で探鳥会に参加し,探鳥会のファンになってくださった方が,さらにネット上のクチコミで新たな参加者を招いたり,新浜,明治神宮以外の探鳥会へと足を運ぶようになったりして,他の探鳥会にもネットの効果がじわりと浸透しています。

 しかし,すべての探鳥会がネット利用に向いているかどうかは,分かりません。
 ネットへの情報発信形態を間違えれば,主催者が予期しなかったようなタイプの参加者を集める可能性もあります。また,交通上の問題や環境へのインパクトの問題などの理由で,あまり参加者を増やしたくない探鳥会もあると思います。さらに気を使わなければいけないのは,希少生物の観察。希少生物の観察を謳ってネット上に観察案内を出すのは,極めて危険ですし,その観察記録がネット上を一人歩きすれば,観察目的以外の,いろいろな目的を持った人に情報を提供する結果となります。
 生き物の問題だけでなく,探鳥会中のトラブルであるとか,ネット経由の参加者にとって快くなかった探鳥会などに関しては,ネット上に悪評が飛び交う危険は十分に考えられます(逆に良質の探鳥会がどんどん選ばれるようであれば,それは良いことなのですが……)。
 また,探鳥会担当者のネットに対する認識度によっても,ネットの価値や危険度は変わります。

 ……こうした,ネットの特性も認識した上でのWebサイト運営は必須です。

 さて,現在の明治神宮探鳥会とネットの関係は……。
 最近の明治神宮探鳥会では,ネット経由で参加した人,ネット経由での参加以来リピーターになった人を含めると,こちらで把握している分だけで,少なくとも全参加者の10%以上がネット絡みの参加者となっています。Webサイトの効果の出始めた2001年の参加延べ人数は,前年の2割増ですから,この数字だけでもネットの力が想像できると思います。

 もちろん,これだけの参加者を得るためには,支持してもらえるだけの内容を持った観察案内を提供しなくてはいけません。前述のように,ネット経由での参加者には,野鳥を見せるだけでは満足してもらえない可能性は,十分に予想されます。探鳥会でどんな観察をするのか,概要をネットで公開し,納得してもらい,参加する価値を認めてもらわなければ,ネット経由での参加者は得られません。しかし,ひとたび支持されれば,ネット上に探鳥会の環を広げてゆくことも,それほど難しくはありません。

 ……明治神宮探鳥会とネットの関係は,ちょうど,ネット上に明治神宮探鳥会が市民権を得始めたところです。明治神宮探鳥会の運営方法,観察内容などを検討する際にも,ネットとの関係を意識した判断が必要になり始めたところです。探鳥会の新しい「アンテナ」としてのネット利用,これからも,ネットを巡る情勢の変化に柔軟に対応しながら,探鳥会と共に発展させてゆきたいものです。

 IT社会はこれから。明治神宮探鳥会の「IT時代」も,今,始まったばかりです。


(2002年3月20日記)

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