何人を相手に喋りますか?


 自然観察の案内をしていると,自分の伝えたいことがどのくらい伝わっているのか,ちょっと不安になることがあります。特に大人数の集まった探鳥会では,後ろのほうまで声が届いていないんじゃないか?とか,つい,一方的に話してしまって,聞き手のレスポンスが掴みにくかったりして,どうしても1人で走ってしまう場面が出てきます。

 自然観察会や探鳥会では,1人の案内役は,何人ぐらいまでを案内するのが適正か?
 私の経験から言えば,1:10ぐらいの比率が,「血の通った観察案内」の出来る限度だと思っています。明治神宮探鳥会では,20人ずつぐらいのグループに分け,2人以上の案内役を配置,と言う方針で運営しています。案内役を2人配置にするのは,望遠鏡の数の都合だったり,安全管理の都合,案内役がお互いを補完する効果,万一,片方の案内役がどうしても気に入らないと言う参加者がいた場合のリスク対策など,さまざまな理由があります。

 1人の案内役が10人に語りかけるのは,50人に語りかけるよりは,はるかに参加者に近づけます。でも,本当は,話し相手を求めている参加者がいたり,質問を胸に秘めている参加者がいたりするのですから,ずーっと10人を相手にしているのでは,参加者の満足度は,そんなに上がらないのです。
 ときには1人を相手に,あるいは2,3人を相手に喋ることも大切です。

 中には,案内役との直接の対話を嫌って,ちょっと遠巻きに眺めている人もいます。そう言う人でも,誰かと案内役の対話を聞きながら頷いていたりします。つまり,1対1の対話であっても,その周囲の人達を無視しないような話題と態度を選べば,周囲の人も話題に引き込むことが出来る。また,1対1の対話を横で聞いて楽しむ人のが好きな人もいるので,無理矢理全員に1対1で対話を持つ必要も無い。

 参加者1人1人の満足度を上げるには,こうした手法や気配りも必要だと思います。

 もちろん,特定の参加者に食い下がられてしまうと,1人の参加者が案内役を独占して……と言った不満が,他の参加者から出てきますから,ほどほどにしておく必要はあります。

 より上級のテクニックとしては,ノリの良い参加者を見つけ出し,その人との対話を呼び水にして話題を盛り上げたり,常連の参加者や,スタッフの一部に「サクラ」をお願いして呼び水役に使う,案内担当を2人にして掛け合い漫才型で盛り上げてゆく等の「裏ワザ」もありますが,いずれの手段を取るにせよ,案内役のパーソナリティと誠意が基本となるのではないでしょうか。


 要は,メリハリです。みんなに伝えたい大きなテーマは,大きな声で,全員に。小さな話題,ちょっとした面白いTipsなどは,少人数に語りかけ,他の参加者が「野次馬」になれるようにする。大声で大人数に語れば,広く浅く伝わり,等身大の声で等身大の喋り方で目の前の人に語れば,より親しみ深く,印象的に伝わる。それを上手に使い分けたいものです。


(2002年2月20日記)

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