探鳥会で伝えたいことって……?


 先日,「ジャパンバードフェスティバル」のお手伝いをしてきました。
 日本野鳥の会のブースで,「バードウォッチングdeビンゴ!」と言うゲームのお手伝い。

 このゲームは,ジャパンバードフェスティバルの会場のあちこちで配布されている,このイベントのパンフレットの裏面に印刷された「ビンゴカード」を埋めて,記念品をもらうと言うもの。ビンゴのマス目の中身は,スタンプ(イベント会場内に4ヶ所)と,観察して見られたものをチェックするマス目が12個。4×4のビンゴです。参加者は自由にスタンプを押したり,観察したりしながら,野鳥の会ブースで「ビンゴ!」のできた本数によって記念品をもらいます。観察してチェックするマス目には,鳥の名前をダイレクトにチェックする,「○○を観察した」と言うものは少なく,「鳥の名前を覚えるだけのバードウォッチング」からの脱却を提案する意味もあり,鳥の行動(頭を掻いていたとか,しっぽを振っているのを見たとか)や,周辺の自然環境にも目を向けるような項目があり,観察の幅を広げるような配慮がうかがえます。
 野鳥の会のブースから50mほど離れた場所に定点の観察場所も用意し,ここに野鳥の会のボランティアと地元の野鳥団体が待機し,観察案内もします。

 ところが,このルールが分からない人が続出。野鳥の会ブースでビンゴカードを受け取った人には,1人1人,ルール説明をして,50mほど離れた観察場所を案内しました。
 一方,定点観察地では,野鳥の会ブースにビンゴカードを持って来る人の数に比べると,だいぶ立ち寄る人が少ない様子(後で参加した人に聞いたら,望遠鏡がずらーっと並んでベテランっぽい人が待ち受けているのは,なんとなく近寄りにくかったようです)。また,鳥を観察してもビンゴカードの埋められない人も,結構いました。
 この観察ポイントでは,鳥を見せることには熱心でしたが,ビンゴカードを意識した観察案内が徹底していなかったため,参加者が,どうやったらビンゴカードに出ているような内容の観察が出来るのか,方法が分からなかったのです。

 その後,即席で短時間のミニ探鳥ツアーを実施したりして,少しずつ,ビンゴカードを埋めることの出来た人は増えてゆきましたが……


 この経験は,探鳥会で毎月,観察案内をしている私にとって,重要なことを教えてくれました。
 特に一般の人を相手にした,上記のようなイベントの場合,参加者には,「探鳥会とは,鳥を見つけて名前を言い当てること」ぐらいの認識はありますが,それ以上のこと……今回の場合は鳥の行動やら鳥の周囲の自然環境の話など……を観察して読み解くことは,全く未経験で思いもつかなかったことだったのではないかな,と感じました。
 探鳥会に対する一般的な認識としては,自然の中を歩いて鳥を探し出して眺めて,名前を教えてくれる,ぐらいの理解しか得られていないのではないのが現実なのでしょう。ですから,初心者のニーズも,そこに集中するわけです。さらには,初心者の領域を出るくらいの観察経験のある人でも,このスタンスを崩さない人は,たくさん居ます。
 ……でも,野鳥の会が本当に伝えたいことって,ちょっと違うような気がします。
 野鳥観察を通して,自然への認識を深めてもらい,自然保護に資するのが,「自然保護団体」の窓口としての,探鳥会の役割ではないでしょうか?(もちろん,会員の交流や親睦の場としての役割も,同時に与えられているわけですが…)
 恐らくはこのビンゴカードも,珍しい鳥を見ることや野鳥識別に偏重しがちな探鳥会や野鳥観察方法へのアンチテーゼも込められていたのではないかと,制作者の意図を察します。
 ところが,こうした「識別」以外の観察方法について,一般的な参加者からの理解が得られにくかったわけです。その理由は,……ひとことで言えば,行動や環境を読むような観察の方法を知らなかったからに過ぎないと思います。実際,ミニ探鳥ツアーで丁寧に解説したら,参加者はじゅうぶんにビンゴカードで提案されている内容を理解し,スラスラとビンゴカードを埋めることが出来ました。
 ……つまり,観察案内をするにあたり,観察対象を見せると言う行為とともに,観察の方法論や,何故,そんな観察を薦めるのか,と言った,基本的なコンセプトを理解してもらう作業が必要だったんじゃないのかな,と思います。「観察の方法論」と言うと大仰ですから,要は,「目の付け所」とでも言ったほうが良いかも知れません。それを知らないばっかりに,じゅうぶんに観察を楽しめなかった人や,「鳥を見て名前を覚える」と言う枠組みから脱却できなかった人も,多かったことでしょう。

 こうした経験を明治神宮探鳥会にもフィードバックしましょう。
 まず,我々の「明治神宮探鳥会」は,「日本野鳥の会」「日本野鳥の会東京支部」と言う大きな組織のもとで活動していますから,自然保護団体として伝えるべきこと,会の主張する理念を伝えて賛同者を増やすことなども必要です。そのために,野鳥を見せて名前を教えるだけでいいのかな?と考えたら,当然,答えはNoですね。また,最新の自然保護理論にしても,観察の方法論にしても,参加者に,それをわかりやすく教え,観察をナビしてあげる必要もあるようです。そして,探鳥会が終わったときに,1人で観察していたのでは得られなかったものがあり,「楽しかった」と言う満足感があること。
 もちろん,鳥を見つけて名前を教えることは必要です。それが最もニーズの高い作業ですし。しかし,「探鳥会」は「自然保護団体」の活動なのです。鳥を見て名前を知ることは,「きっかけ」ないしは「方法論の入口」であり,自然保護団体の本来の目的ではありません。もっと重要なものは,その観察の中から読み解かれる部分です。具体的な観察の方法論の例示でも,ちょこっとヒントを与えるだけでも構いませんが,要は,自然観察の本質的な部分や,それを通して自然保護の趣意に賛同してもらうためのナビゲーションをする必要があるわけです。探鳥会で鳥を見せれば野鳥の会の会員が増えるような時代ではないのです。

 ……初心者を観察案内する者は,自然観察のナビゲーターとして,道案内だけではない,さまざまな知識と演出力,そして場合によっては人柄まで要求されます。…こうした条件だけ列挙すると,なにやら大変そうですが,要は,自分が探鳥会で「伝えたいこと」を明確に持つことだと思います。


 野鳥観察の枠組みにこだわらず,誰にでも楽しめるような,丁寧な自然観察のナビゲーションをするのが,明治神宮探鳥会のウリです。具体的な内容は,季節によっても違いますし,案内担当者個人の個性によっても違いますが,基本的な姿勢は同じ。単に道案内して観察したものの名前を教えるのではなく,色々な視点から自然を読み解く楽しみを提案したいものです。


(2001年12月13日記)

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