拍手はやめて!


 明治神宮探鳥会は,探鳥会が終わるときに,参加者の方が盛大に拍手をします。
 拍手をして終わる探鳥会って,実は非常に珍しいかも知れません。
 少なくとも私の身のまわりの,明治神宮以外の探鳥会では,拍手なんて,聞いたことがありません。……まぁ,「フィールドで大きな音をたてて鳥を逃がしちゃったら,大迷惑だから」と言う配慮もあるのかも知れませんが,昔から,探鳥会は「解散宣言」をしたら,少しずつ人が減っていって,一部の人はまた何人か友達どうして誘い合って,もう少し鳥を見に行ったり,スタッフや熱心なファンの人たちは,少し場所を変えて,どこかのお店に寄って反省会などをしようか,……と言う感じで,ゆったりと人が散るようなスタイルが多かったと思います。担当者にも参加者にも,「仲間意識」が強かったのかも知れません。こうした和やかな雰囲気は,どこの探鳥会でも,規模の多少はあれ,普通に見られる光景です。
 ところが,明治神宮探鳥会の場合,「それじゃ,これで解散します。皆様お疲れ様でした!」と言った瞬間,拍手喝采。その数分後には,スタッフを残し,誰もいなくなってしまう,と言う状態。……なんか違うんだよなぁ,と言う気持ちが,スタッフの間には強いのです。

 私が思うに,これはカルチャースクールのノリではないかと……。
 参加者に「教えてもらう」と言う感覚が強く,「講座」が終わったら,さっさと引き上げる。
 案内する側とされる側の距離感や温度差を感じます。
 他の探鳥会にもよく参加している人も,この中には含まれているはずなんですが,わざわざ明治神宮でだけ,拍手しているんでしょうかね(謎です)。

 もちろん,探鳥会の始めには,「我々は皆さんと同じ一会員の立場に過ぎません。平日にはちゃんと仕事を持っている連中が,月に一度の第三日曜日に,手弁当で案内役を買って出たに過ぎません。」と言った説明を欠かさないのですが,その真意は通じているのか,ちょっと心配になります。
 拍手をする人の気持ちとしては,「素晴らしい案内だったから,感謝の意味で」とおっしゃる方もいますが,まぁ,お世辞としては嬉しいですけど,拍手した後,さっさと帰っちゃうところを見ると,どうなんでしょうね?
 確かに,明治神宮探鳥会のスタッフには,学校の先生みたいな感じで自然解説する人も居るし,他の探鳥会に較べれば,提供している情報量の多さには,少しは自負もある。探鳥会を「環境教育の場」としてレベルアップしようと努力もしているわけですが,それがかえって,参加者に,担当者との距離感を感じさせることにもなっているのかも知れません。だからと言って,レベルダウンするつもりはないですから,ちょっとジレンマです。

 しかしこれだけは伝えておきたい。明治神宮探鳥会のスタッフは,決して拍手を受けることを喜んではいません。我々スタッフが欲しいのは,拍手ではなく,「仲間」です。月に一度の探鳥会を共に楽しみ,自然について共に考え,行動する仲間です。仲間の輪を広げることが,探鳥会の大きな喜びであり,自然保護団体としての普及活動の核心ではないかと思います。

 明治神宮探鳥会は,毎月,初めて自然観察イベントに参加すると言う方を,たくさん受け入れています。それはそれで,非常に喜ばしいことです。しかしその一方で,継続的に参加し,それぞれの考え方や目標レベルに応じて,自然観察を楽しみ,ときに自然保護について考えたりするような,「仲間」が,ほとんどいないのです。親しい仲間同士だったら,お互いに拍手しあうことって,あんまり考えられませんよね。そう言う意味でも,探鳥会が「仲間」感覚の欠如した集団になってきているのかな,と思います。

 かつての探鳥会……と言っても,15年ぐらい前ですが……では,探鳥会が終わると,スタッフを含めて10数人ぐらい,その場に残り,みんなでお昼を食べに行き,いろいろと話をしたり,反省会をしたりして,それからさらに,小グループで場所を変え,午後の自然観察を楽しむことも,しばしばありました。もちろん,「アフター探鳥会」に集まる顔ぶれも,毎月少しずつ入れ替わりながら,仲間を増やしていました。こうした,ざっくばらんな仲間の中から,新たな案内役スタッフが生まれたり,新しい企画が生まれたりしていました。
 いま,明治神宮探鳥会は,いちばん若いスタッフでも,担当キャリア7年,いちばん長くやっている担当者は,もうすぐ20年になります。まぁ,キャリアは長くても,若い頃からやっている人が多いので,まだ年齢的には若いほうなんですが,それでも世代交代の必要性を感じます。新しいスタッフが欲しい!と言うのは,現スタッフの切実な願いです。しかし,探鳥会が終わると拍手してさ〜っと帰っちゃう人の中から「仲間」を作るのは,非常に困難でしょう。

 探鳥会の案内役は,決して「雲の上の人」ではなく,たまたま探鳥会のことが気に入って,探鳥会の解散後,すぐ帰らずにぐずぐずしていたために,次第に仲間の輪に入り,他の参加者を案内して引っ張ってゆくことを覚えた,「探鳥会参加者」の一人に過ぎない,と言うことなのです。
 「あなたも探鳥会スタッフになってください」とは言いません。案内役の担当は,本人の意思でやるもの。強制はしません。でも,声を大にして,「あなたも探鳥会の仲間になってください」とお願いします。拍手してすぐに帰ってしまうよりも,はるかにいろいろな話を聞くことが出来ますし,自然観察に対する興味も,自然保護や環境教育に対する意識も深まると思います。それに,仲間がいれば,これからの「自然観察ライフ」も,きっと長続きするでしょうし,より楽しみの多いものとなることでしょう。


(2000年11月12日記)

→もどる