明治神宮探鳥会の「2002年対策」


 この夏,2002年に向けて,明治神宮探鳥会は,動き始めます!
 2002年って,なに?と思った人も多いと思います。
 いや,別に,ソルトレークシティのオリンピックを応援するわけでも,2002年ワールドカップ見物の外国人を取り込もう,と言う計画でもありません。
 新しい学習指導要領への対応です

 2002年度より,新しい学習指導要領が適用されます。そこには,小学校3年から高校までの学年で,「総合的な学習の時間」の設置が盛り込まれています(小学校1,2年は「生活科」という総合科目が,既にあります)。
 この「総合的な学習の時間」の特徴は,教科の壁を取り払い,児童,生徒の自発的な学習活動をベースとし,例えば地域社会と密着した,「地域しらべ」や体験学習,ボランティアワークなど,より「開かれた」学校教育が行われる方向にあります。具体的な学習テーマの設定は,学校に任されています。
 「総合的な学習の時間」は,学年によって時間数は違いますが,だいたい週2〜3時間ほどの設定になります。既に今年度(2000年度)から,導入を開始している学校も少なくありません。

 「総合的な学習の時間」の使い方に関し,こんなデータがあります。
 あるアンケート調査によれば,「総合的な学習の時間」に取り入れたい学習活動として,圧倒的に人気の高いものが「環境学習」なんだそうです。複数回答ですが,調査対象校のほとんどが,「環境学習」を行いたい,と言う回答を出しています。
 昨今の「学校ビオトープ」の流行も,そんな背景があるのでしょう。現在,学校ビオトープは,知られているものだけで500ヶ所以上あると言います。

 しかし一方で,「環境学習」の具体的な進め方がわからない先生も少なくありません。そこで,自然観察施設を利用したり,自然観察指導者を講師に招いたり,と言う策に出る学校も少なくないと予測されています。

#余談ですが,学校ビオトープ作りを請け負う造園業者もあります。
#「環境学習」効果を狙うなら,自分たちで作ったほうが良いような気もしますけど,
#造園業者が商売できるってことは……

 余計なことを言ってしまいました。話を元に戻しましょう。

 「環境学習」への期待,地域とのつながりを強化してゆく学校。
 一方,探鳥会は,年齢層が上昇する一方で,一歩間違えると「趣味性の高い」集団と化する危険も持っている。
 これを上手くつないで,探鳥会を環境学習の場として使えないものだろうか?
 学校サイドとしては,身近な場所での探鳥会は,良い自然体験の場として利用できる。
 探鳥会サイドとしては探鳥会の「公共性」「公益性」を高め,社会的信頼を得るチャンス。そして何よりも,次世代の自然環境を守る担い手を育てることが出来るチャンスではないでしょうか。

 もちろん,現行の探鳥会に子供を呼んでも,なかなか上手く行かない部分も出てくるでしょう。現在の探鳥会は,年齢層の高い人の,野鳥愛好趣味を満たすと言う需要が大きいですから。探鳥会スタッフも,子供たちが楽しみながら環境学習が出来るよう,いろいろ研究しなくてはいけません。
 数年前より,日本野鳥の会東京支部の普及部スタッフでは,「親子連れで楽しめる観察会」をキーワードに,何回か観察会を企画,実施していて,少しずつノウハウも蓄積されています。もちろん,普及部所属スタッフの多い明治神宮探鳥会でも,子供を飽きさせない観察内容をデザインすることに腐心しています。
 我々は既に,少し出遅れています。全国各地に,最初から「親子向け」を謳って,家族単位でメンバーを集めた自然観察グループも少なからず存在し,こうした組織のほうが,「子供対応」のノウハウをたくさん持っています。しかし,環境学習の指導経験の少ない学校にしてみれば,組織力やネームバリューのある「日本野鳥の会」は,最も「環境学習指導」を依頼しやすい組織の1つです
 積極的に「環境学習」に対応してゆけば,探鳥会そのものも,大きく発展することが期待できるのです

 この夏,明治神宮探鳥会は,新たな「環境学習」対応策をスタートさせます。
 まず,6月から小中学生向けの観察ガイドを2種類,配布開始します
 明治神宮の自然環境を概説する「明治神宮探鳥会 環境学習ガイド」と,
 観察しながらメモやスケッチを書き込んでゆく「わくわくワークシート」。
 従来から強化している,親子で楽しめる観察メニューに加え,環境学習面に配慮した補助教材が登場するわけです。もちろん,大人向けのパンフレット「明治神宮フィールドノート」も継続します。

 6〜8月は,もっとも鳥の少ない季節。しかし,この時期は,昆虫が非常に豊富で,キノコや野草もしっかり観察できます。子供たちには,目の前にあるもの,手で触れるもののほうが,より強い興味を引きます。しかも,鳥をお目当てにしている人は,この時期,あまり探鳥会に参加しないので,参加人数にも余裕があります。…つまり,この時期が子供たちに「自然体験」の導入をする絶好のチャンスなのです。そして,夏休みも待っています。夏休みの自由研究のネタを提供するのも,有力な「子供対策」です。明治神宮探鳥会に参加して,「わくわくワークシート」を埋めれば,それだけで立派な観察記録となり,「自由研究」としてもじゅうぶんな完成度を持っています。


 ……さぁ,これでハードウエアの整備は終わった。
 次に必要なのは,ソフトウエア。
 いかに子供たちに魅力ある観察案内ができるか。その一方で,大人たちから文句の出ないレベルの観察案内を,どうやって維持してゆくか。いろいろ研究して,ノウハウを蓄積せねば…。
 2002年には,地元の小中学校の学習グループが出入りするような探鳥会にしたいですね。
 そして,小中学生と年配のバードウォッチャーの接点から,また,新たなるコミュニティが発展することを願います。

 準備はいろいろ大変だけど,新しい探鳥会の形を求め,夢が膨らみます。


(2000年6月13日記)

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