観察テーマにこだわる


 とかく「定例探鳥会」はマンネリに陥りやすいのです。特に鳥を中心に観察案内を展開する場合,夏場は鳥もあまり観察できず,かなり苦労しているようです。しかし,明治神宮探鳥会は「鳥見る観察会」と言う割り切りがあるおかげで,観察対象が広いので,夏場の観察に苦しむことはありません。むしろ,観察対象が広すぎて,1回の探鳥会で,案内しきれないものが続出します。そこで,毎回,観察テーマを設定し,スポットを当てる観察対象を変えてゆくようにしています。
 現在,季節ごとに大きいテーマを設け,その下に各月のテーマを設定して,月ごとの観察内容に連続性を持たせています。

 たとえば1999年秋のテーマを見ると,9〜11月の通しテーマを「この秋は,『森』から始まる自然観察」として,初秋から晩秋にかけての森の変化,という時間軸を設定しました。9月は「生き物をはぐくむ森」と題し,森と生き物の関係……渡り鳥の中継地としての都会の森,森の構成メンバーとしてのコオロギやキノコなど,「森」をキーワードに,森を利用する生き物の観察を展開しています。10月は「タネの世界」と題し,森に実る数々の果実や種子と,それを利用する生き物の関係……イイギリの実を食べるヒヨドリや,エゴノキの種子を食べるヤマガラなどをメインに観察しました。11月のテーマ設定は「冬がくる前に」と題し,紅葉・落葉で森が変化する様子や,明治神宮で越冬する鳥が到着し始めた様子を観察しました。
 このようなテーマ設定は,探鳥会の開催案内文にも反映させます。具体的にどんな内容の観察をするか,はっきり案内することで,しっかりと内容を見て選んで,参加してもらえるようにしたいと思っています。探鳥会によっては,開催案内文に,見ることができそうな鳥の名前を列挙する場合も多いのですが,明治神宮探鳥会は,このような開催案内は出しません。特に4月から10月にかけては,野鳥以外の観察が半分以上になりますから,鳥だけを目的に参加した人にとっては,ちょっとつらいものがあります。そうしたトラブルを避けるためにも,きちんと内容を予告する意義はあると思います。

 現実には,3年以上続けて同じ探鳥会に通ってくれる人は,ほとんどいません。ですから,3年分の観察テーマ設定があれば,とりあえず,マンネリは避けられます。しかし,やはりテーマの設定にはこだわりがありますから,毎年,少しずつ内容をいじっています。
 タイムリーな話題を取り込むことも大切です。「植物版レッドデータ」が作成されたときには,「帰化植物チェック」を実施しました。オオミノガに寄生するヤドリバエが大陸から侵入して,オオミノガのミノムシが激減たことがニュースになった年には,ミノムシの観察を盛り込みました。時代の流れに敏感に反応し,新しい情報を盛り込むことも,マンネリを防ぐ効果が高いと思います。


 観察会は「旬」の観察をするのがベストです。鳥の少ない季節に,意地になって鳥を探しても,なかなか見つからなくて,面白くない人も多くなります(特に子供は,すっかり飽きてしまう)。その季節,その場所で,いちばん面白いもの,いちばん輝いているものを観察するのが,いちばん良いのではないでしょうか。明治神宮探鳥会では,4月には野草の花を,夏なら昆虫をメインテーマに設定し,「旬」を楽しむようにしていますが,花や虫の観察をお目当てに,たくさんの人が集まります。
 季節に合わせた柔軟な観察内容が,自然観察を,より楽しく演出してくれます。


(2000年5月19日記)

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