パンフレットにこだわる


 探鳥会や自然観察会で,観察の前に,観察内容や観察コース,予定時刻などの書かれたパンフレットを配ることは,少なくありません。パンフレットを配ってもらうと,初めて参加した場所でも,ちょっと安心できますね。
 一般に,観察会や探鳥会のパンフレットは,その日の行動予定や観察内容,フィールドマナーなどの注意事項,観察対象に関するちょっとした情報,主催者の連絡先などをコンパクトにまとめています。

 観察会/探鳥会でパンフレットを配ることのメリットは,次のようなものが考えられます。

・観察会の内容や行動予定,注意事項などを文字で伝えることにより,案内が徹底する。
・内容が先につかめるので,参加者が安心できる。
・観察中に口で説明したことの補助,あるいは補足説明として使える。
・観察会参加者とそうでない人の識別に使える(パンフレットを持っている人なら参加者ですから)。
・もし,観察中に使ってもらえなくても,持ち帰って読み返してもらえる。

 こうしたメリットの,どの部分を活かしたいかによって,パンフレットの構成も体裁も,いろいろと変わってきます。概して,月例で開催している行事だと,観察コース案内図や時間の予定などは,知っている人のほうが多くなるので,省略されがちですし,パンフレットそのものを省略してしまうことも多いようです。単発の観察会で,特定のテーマを持っていたりする場合,きちんとパンフレットを作って内容をアピールし,行動予定を確認してもらったほうが,参加したほうも分かりやすいですし,観察会の演出効果も上がると思います。

 たかだか半日ぐらいの観察会で,覚えられるものなんか,たいした量ではありません。夜になったらすっかり忘れてしまいます。そんなとき,もう一度読み返してみたくなるパンフレットがあると,かなり効率よく記憶に残ります。ですから,パンフレットの,「持ち帰って読み返す」と言う効果は,けっこう重要視してもいいかも知れません。最近,何度も読み返してもらえるくらいのインパクトを持ったパンフレットが作れないものかと,思案しています。

 現在,日本野鳥の会東京支部の定例探鳥会でパンフレットを定期的に更新して発行しているのは,明治神宮探鳥会だけです。他の定例探鳥会でも,野鳥のチェックリストなどを用意している所がありますが,定期更新でマガジン形式のパンフレットは,明治神宮探鳥会独特のものです。

 明治神宮探鳥会での,パンフレット発刊の発端は,1980年代のバードウォッチング・ブームのとき。1回の探鳥会で100人,150人の参加者があり,観察案内が十分に行き届かなくなっていたのです。そこで,自然解説の補助として,その時の「旬」の観察対象を紹介する小冊子を作ることにしました。内容は探鳥会担当者の原稿持ち寄りで,それをまとめてB4判の両面にコピーし,半分に切って2つ折り(=B6判8頁)にして,持ち歩きやすくしたものです。せっかくだから,お洒落なタイトルをつけよう,とスタッフ内で相談し,「明治神宮フィールドノート」と言うタイトルをつけました。配布スタートは1985年3月。当時は月刊で更新していました。しかし,ただでさえ参加者が多くて担当者の負担が大きかった時期のことです。その上に「月イチ発行」の負担がのしかかりました。しかも,雨が降ると,その月に用意したものはほとんど配布されず,日の目を見ないまま,次の月のパンフレットの編集をしなくてはいけません。しだいに原稿の集まりも悪くなり,このパンフレットは2年ほどで,あえなくダウン。

 現在のパンフレットは,1991年に再スタートしたものです。もちろん,前回の挫折を反省材料に,いろいろと工夫を加えての再登場です。タイトルやスタイルは,以前のものを踏襲しましたが,3ヶ月に1回の更新としました。ちょうど,パソコンが急速に浸透し始めていた時代。編集作業もパソコン中心となり,少しずつ制作環境を変えながら,省力化を進めました。1991年当時はワープロソフト「新松」で編集していましたが,1993年からDOS版DTPソフトの「JG」を導入。その後Windowsに環境が移り,制作環境を少しずつ変えながら,現在に至ります。2000年4月現在,Microsoft Publisherを使っています。
 原稿のやり取りも,郵便や手渡しから,電子メールに変わりました。現在,画像を含め,ほとんどの記事は電子メールでやり取りし,編集しています。
 1997年にはフルカラー印刷に切り替えました。美しい画像を用いたパンフレットは,参加受付をしてパンフレットを手にした時に,けっこうインパクトがあり,ワクワクします。
 カラー化の際,コスト増加が問題になりました。安いショップを探し,インク代や紙代を抑えることで,現在,パンフレット1部あたり30〜35円程度(内容によってインク代が上下する)のコストで出来上がっています。モノクロ印刷をコピーして作っていたときのコストが,1部25円前後でしたから,思ったほどコストもかからず,ひと安心。

   
   フルカラー印刷!もちろん,イラストもスタッフのオリジナル。
   受け取ったときのインパクトも,探鳥会を楽しく演出します。


 3ヶ月毎に更新,と言うのは,労力を軽減して,しっかり内容を作り込むことを可能にしました。また,このパンフレットは,当然のことですが,明治神宮探鳥会でしか手に入りません。定例探鳥会の良いところは,同じフィールドの変化が良く見えること。パンフレットの「3ヶ月更新」には,更新時期に合わせて,春夏秋冬,年に4回ぐらいは探鳥会に来てもらって,季節の変化をじっくり見てもらいたいな,と言う目論見もあるのです。
 パンフレットの内容も以前のものとは違い,単なる「自然解説の補助」から脱皮し,初めて探鳥会に参加した人向けの記事,ちょっと詳しい生き物の情報,フィールドマナーに関するもの,クイズ,鳥マニアの用語で遊んでしまうコーナーなど,探鳥会のコンセプトを伝えるためのメディアとして,さまざまな記事が盛り込まれています。1995年から始まった「Goodマナーキャンペーン」は,パンフレット巻末にマナーに関する問題を提起する文章を載せ,これを東京支部報の記事とも連動させ,バードウォッチャーのマナー悪化問題への対策の先駆けとなりました。現在,この記事は,「はじめよう!身近な自然保護」とタイトルを変え,マナー問題の他に,身近なところから自然保護を実践するための提案もしています。

   
   観察のポイントとコースマップをコンパクトにまとめています。
   この他にも,連載記事や季節ごとの話題,フィールドマナー解説など,盛りだくさん。


 一時期,パンフレットに,ワークブックのような書き込み欄を用意したことがありました。積極的に頭と手を動かして観察してもらおう,と言う目論見もあったのですが,いちばんの理由は,探鳥会参加者に対するアンケート調査の結果,このような「ワークブック型」のページが欲しいと言う意見が多かったからです。しかし,いろいろと知恵を絞って作ってみたものの,利用率はさっぱり…。この企画は,2年ほどで取りやめました。
 今は,探鳥会参加者の平均年齢が非常に高い時代。何を働きかけても,なかなか反応が無いのは事実です。でも,それにめげていたら,探鳥会なんか,作れません。物言わぬ,受け身の参加者に刺激を与え,ちょっとでも興味を引き出し,手や頭を動かして楽しんでもらうこと。明治神宮探鳥会に盛り込んだ,さまざまな観察や調査の企画や,もちろんパンフレットも,受け身の参加者に対して,何かのきっかけや刺激になるのなら,やってみる価値が十分にあると思います。これで,年配の参加者の気持ちを若返らせることが出来たら,痛快じゃないですか。
 自然観察もパンフレットも,良い意味での「インパクト」を大切にしたいですね。

 パンフレットの構成は,年に1回ぐらい,手直ししています。たぶん,永遠に「発展途上」なんでしょうね(笑)。


(2000年5月2日記)

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