シジュウカラについて調べる


 シジュウカラって,見たことありますか?
 見たことない人は,とりあえず,このHP内の画像を参照していただきましょう。
 シジュウカラは,関東地方の街では一番身近な「カラ類」です。シジュウカラの仲間には,ヤマガラ,コガラ,ヒガラなどがあり(北海道ではハシブトガラなども),見た目もかわいい小鳥ですが,昆虫食主体で,虫による植物の被害をコントロールしてくれる,「森の番人」でもあります。

 明治神宮でも,春になるとあちこちからシジュウカラの「さえずり」が聞こえてきます。シジュウカラは,餌の量を確保するために,繁殖の時期になると,はっきりしたなわばりを作り,その中で盛んにさえずるのです。シジュウカラがさえずっている場所を調べてゆけば,どのくらいの数の「繁殖テリトリー」があるのか,わかります。シジュウカラの繁殖密度が高いと言うことは,それだけ森が豊かな証拠にもなると思います。
 そこで,1995年から,明治神宮の森の中で,春先にシジュウカラの「さえずり」をチェックするようにしました。ちょっとした目論見があり,この調査の一部は公開で行うようにしました。その目論見とは,探鳥会に「調査・研究」のまねごと(あくまでも「まねごと」の領域ですが…)が体験できる場を提供してみたい,と言う希望,そして,探鳥会活動が,目に見えて「自然保護に役に立つ結果」を残すことが出来ないだろうか,と言う,1つのチャレンジでした。
 一般に公開された「調査」は,次のようなものです。調査には,「シジュウカラのソングポスト調査」と言う名前をつけました。定例の明治神宮探鳥会で探鳥会参加者に調査を呼びかけ,希望する参加者に調査票を配り,シジュウカラの「さえずり」が聞こえた場所を記録してもらいました。もちろん,調査・研究などの経験のない人にやってもらうのですから,調査方法は出来るだけシンプルにして,他の観察の楽しみを妨げない範囲で,調査を「体験」してもらうようにしました。この観察記録は探鳥会終了直前に回収し,ざーっと集計し,事前の調査と合わせ,どのくらいの繁殖テリトリー数があるのか,概数を出して,その場で結果を報告しました。すぐに結果が出るほうが,張り合いがありますからね。また,調査結果を出してくださった方には,オリジナルの絵葉書をつけて,調査票をお返ししました。
 こうして毎年,調査の「体験」を行いつつ,データも蓄積してきました。年によって変化はありますが,明治神宮の森には,毎年,40ヶ所前後,シジュウカラの繁殖テリトリーが作られ,シジュウカラ1つがい当たり,1haぐらいの森を使っていることがわかってきました。また,境内に工事や枝打ち作業などが入ると,シジュウカラは敏感に反応し,工事箇所周辺からテリトリーがすぐに消えてしまうこともわかりました。
 これだけのデータが揃うと,論文にまとめて,残しておきたくなります。
 論文化すれば,いろいろな人が観察結果を利用できるようになります。
 探鳥会の活動をアピールすることにもなりますし,社会的にも調査内容が役に立つことがあるかも知れません。
 で,さっそく,論文作りに取りかかったのですが……。

 論文を書く際,自分の論旨をサポートする(あるいは論旨の根拠となる)データを示した引用は,欠かせません。そこで,大づかみに状況を知るために,インターネットの検索エンジンにキーワードを放り込んでみました。カラ類は英名で Tit ,シジュウカラは日本産のもヨーロッパ産のも Great tit です。
 ……さて, tit で検索すると,やたらと多くのサイトが引っかかってきます。よく見るとアダルト向けのサイトがゾロゾロゾロ……(*_*)。辞書を見たら,titと言う単語は,slangで「おっぱい」の意味もあるんでした(唖然)。……とすると, great tit で検索すると……(アダルトサイトの好きな方以外は,このキーワードで英文サイトを検索しないでください)。

 ……気を取り直して,学術論文の検索エンジンを使って,仕切り直しです。
 生物系や農業系が狙い目。日本語の論文は,日本語の検索エンジンのほうがヒット率が高いようです。

 私たちのほかに,どのくらいの人がシジュウカラについて論文を出しているのか,調べてみて驚きました。
 日本のシジュウカラの生態に関する論文は,ヨーロッパ産のシジュウカラの論文に比べると,やたらと少ないのです。特に,都市部の緑地で調べたデータ,となると,なかなか見当たりません。結局,日本産のシジュウカラの繁殖テリトリーに関する参照文献は,1960年代から70年代初頭にかけて,自然教育園で調査されたデータと,1972,73年に明治神宮で,高野伸二さん(当時,日本野鳥の会東京支部役員をされていた)が調査したデータぐらいしか,見つかりませんでした。
 よく,「シジュウカラは1年に10万匹以上の虫を食べるんですよー」とか,「シジュウカラの平均寿命は,1.7年しかないですよー」とか,探鳥会などで自然解説する際,しばしば引用されている数字がありますが,これはヨーロッパの,お腹の黄色いシジュウカラで調べたデータだったのです。日本のシジュウカラって,調べられているようで,あんまり調べられていないんですね

 ともかく,投稿先は野鳥の会のStrixにしました。ここなら読んでくれる人が多そうだったし,アマチュアの研究者が読む確率が高そうだったので……。
 論文書きは慣れているんですが,生態学の論文は初めて。日本語記述で勘弁してもらいましたが,まぁ,「趣味の論文作り」の域を脱しないまま,掲載に達してしまいました。でも,探鳥会の活動を形に残す,と言う当初の目論見は,達成されました。内容について詳しく知りたい方は,Strixの17号をお読みください。別刷りも多少,手元にありますので,私に請求していただいてもけっこうです。

 明治神宮でのシジュウカラの調査は,今年も続けられています。ここ数年,森に大規模な工事が入ることが増えたので,この調査は,環境指標として,ますます重要度が上がっているかもしれません。
 「森の番人」であるシジュウカラを追い出すようでは,良い森作りとは言えませんからね。


(2000年4月21日記)

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