激突死!


 最近,明治神宮の森の管理方法が,ちょっと変わってきたように感じます。
 長らく林苑課長を務めた内田さんが退職されてからのことなので,なんとなくそんな気がするだけなんですが……。
 ひとことで言えば,ちょっと商売っ気が出てきたと言うか,基本的な「永遠の森」を造ると言うコンセプトに反するんじゃないのかなぁ,と思わせるような工事などが,頻繁に行われるようになっています。

 たとえば,これを見てください。

 北参道ですが,ここは道の両側から樹が枝を伸ばし,樹冠が参道を覆って,荘厳な森の雰囲気が漂っていました。「成長した森」の姿が,目の前に広がり,夏も涼しい,気持ちのいい(と私は思っていた)参道でした。
 ところが,1997年に,樹冠が一気に伐採されました。理由は,枯れた枝が落ちて参拝者が怪我をする危険があることと,参道が暗くなりすぎたため,とのことです。しかし,伐採により森の環境が分断され,日当たりの良くなった場所には,新たな植物が外部から侵入しました。しかも,伐採時期が野鳥の子育ての時期に行われたため,その翌年には,参道沿いのシジュウカラの繁殖コロニーは,ほとんど消滅していました。
 上記の写真は,2000年2月の撮影です。
 枯れ枝が危険と言うのなら,危険な枝だけを落としておけば済むようにも思います。大規模に森に光を入れることにより,神宮社務所の言う「永遠の森」(=極相林)の育成に逆行してしまったことは,間違いありません。



 さらに,参道脇は,法面を掘り返し,路側の排水溝が整備されました。
 以前は,下の写真のような,森の環境に溶け込む,石造りの側溝があったのですが……。


 実は,新たに整備された,コンクリート製のL字形の側溝蓋には,意外な問題が発生しました。
 それは,小動物の移動を妨げるようになったこと。
 特に,毎年,初夏に見られる,おたまじゃくしからカエルになったばかりの,小さなヒキガエルの移動に,大きな障害となりました。1998年には,池から森に移動できなくなった,おびただしい数のヒキガエルが,参道脇を登れず,ひからびて死んでいました。



 社務所から本殿へ抜ける道。ここも北参道と同様の工事が行われ,道端にはタケニグサやアカメガシワがぼうぼう生えてきています。光を入れたために,除草作業が必要になった,とのこと。
 この道端にも,6月頃にはヒキガエルの死体が多数,見られました。



 神宮の森の造営のシンボル的存在のクスノキ。TVや写真集などでも,よく紹介されている樹なのですが,今は残土置き場……。



 さて,1998年にはシジュウカラの営巣数の減少やヒキガエルの大量死をもたらしましたが,森のほうは樹が枝を伸ばし,どんどん修復されてきています(じゃぁ,何のための枝打ちだったのやら…)。しかし,ヒキガエルの個体数は激減したままです。さらに,1999年には,本殿の脇にあった,小さな池が埋め立てられて,ヒキガエルの有力な繁殖場所が1つ,なくなってしまいました。この池にはかつて,アカショウビンが来たこともあったのですが……。

 ヒキガエルは大量の昆虫を食べます。彼らはいわば,森を虫の被害から守る「番人」です。ヒキガエルそのものも,ヘビや猛禽の餌となり,森の豊かさを支えています。ヒキガエルの減った森はどうなるのか,今後の森の生態系の変化に注目してゆきたいと思います。



 さて,これはなんでしょう。
 ハトがガラス窓に激突した痕です。
 鳥は細かい羽毛や皮脂などを持っているので,激突すると,その痕が残ります。
 この写真を撮った場所が,下のお洒落な建物です。



 これは「明治神宮文化館」と言う,休憩所,レストラン,資料館などを兼ねた施設です。
 古くなった「南休憩所」を取り壊して,1998年にオープンしました。
 ところが,森に面して広いガラス窓を持っているデザインのため,野鳥がしばしばガラス窓に激突します。



 森に近接した大きなガラス窓。
 野鳥はガラスの存在に気づかず(or気づくのが遅れて),窓に激突し,命を落とします。

 先日,「バードセーバー」を社務所に贈呈しました。「バードセーバー」と言うのは,鷹などの絵やシルエットが描かれたシールで,これを窓に貼り,鳥にガラスがあることを知らせるのです。
 さて,社務所の方は,これを貼ってくれるでしょうか。
 それとも,「美観を損なう」と,貼ってくれないでしょうか。

 明治神宮社務所の,森の自然環境維持に対する姿勢が問われますね。

#そもそも,こんな危なっかしい,森に似合わない建物を建てるセンスのほうが問題なんですけどね。


(2000年4月6日記)

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