観察者のマナーとマナー指導について


 明治神宮は,名前のとおり,神社です。
 明治神宮探鳥会は,その境内を利用させて頂いている探鳥会です。
 境内と言っても,約70haと言う巨大なもので(自然教育園の3倍の面積),そこには社殿を演出するために綿密に設計された人工林があり,もともとの自然林を残したエリアがあり,水辺があり,芝生の広場もあります。さまざまな環境の中で観察を楽しんでいると,ここが都会の真ん中であることを忘れさせてくれます。
 ところが,ここが「神域」であり,管理された「私有地」であることまで忘れてしまう観察者も,境内利用者の中にはいるようです。

 過日,ちょっとしたきっかけで,野鳥の会の本部が,明治神宮を利用している観察者のマナーについての,厳しいクレームを受けました。その要旨としては,神域を利用しているにもかかわらず,参拝もせず,立ち入り禁止の柵内や林内に入って野鳥の観察や撮影をする人がいたり,希少な植物を盗掘してゆく人などがあり,「自然」を目的に来訪する人の行為は目に余るものがある,と言うものです。おそらくは,多くの観察者は,境内利用のルールをわきまえているとは思います。しかし,少数でも問題行動を起こせば,それは非常に目立ちますし,まして植物を持っていけば,その傷は遠い将来まで残るわけです。また,「林内立入り禁止」は決して美観上だけの問題ではなく,林床を踏み固めることによる,下草や樹木の根へのインパクトを避け,境内の森を「永遠の森」に育てて維持するためのためのものですから,勝手に林の中を歩くのは,林苑担当の方々の意思を踏みにじるものでもあるのです。
 決して,野鳥の会や,その会員が一方的に悪いわけではなさそうですが,自然観察者のマナーに関してクレームをつけたくても,野鳥の会ぐらいしか,文句を言う先が無いのも確かです。野鳥の会としては,余計な非難まで背負い込むような形になってしまうかも知れませんが,野鳥の会の会員なら絶対にマナーは大丈夫だ,と言う保証もありません(「野鳥の会」を名乗る,悪質なマナーの人もいると聞きます)。会の組織としては,マナー指導を強化するぐらいしか,今のところ打つ手は無いかも知れません。最終的には,個人の責任に帰着する問題ですから。

 一方では,野鳥撮影のカメラマンの一部には,グループを作り,マナー改善に努めている人たちもいます。しかし,撮影目的でヒマワリの種などの餌を大量に撒いて,他の来訪者の行動を「仕切る」ようなカメラマンに出会うこともあります。どちらのほうが来訪者に印象を残すか,と言えば,やはり後者なのです。

 明治神宮にはさまざまな観察者が訪れます。1人でも悪質な人がいれば,観察者全体の評価を落とし,探鳥会や野鳥の会そのものまで批判を浴びるわけです。マナーはデリケートな問題です。しかも,ここで問題になっているのは,主として社務所に対するマナーの問題であり,どう見ても社会道徳的に理解できるレベルの,あたりまえのマナーです。社会人としてあたりまえの行動が取れない,と言うのは,ちょっと恥ずかしくありませんか?しかも,最近は野草ファンも野鳥ファンも,年齢層が非常に高く,社会の模範となるべき年齢の方々が問題を起こしているのですから,頭の痛い話です。

 明治神宮探鳥会では,スタッフの目の届く限り,慎重にマナー指導はしています。しかし,しつこくマナーに関して説明しているにもかかわらず,やはり時々,何の迷いもなく立ち入り禁止エリアに入っていってしまう人などがいます。小学校の道徳の時間のようなことは,出来ればしたくはないのですが,それが現実です。
 どうして「フィールドマナー」と言うルールがあり,なぜ守らなければいけないのか,きちんと理解している参加者は少ないと思います。フィールドマナーの存在は知っている。守れと言われるから守る。でも,その理由がわからないから,マナーのことをうるさく言うリーダーを,うっとうしく思っている……という感じでしょうか?
 基本的な道徳感と,自然のしくみに対する理解があれば,フィールドマナーの持つ意味は,容易に理解できるはずです。自然に対するインパクトを抑えるためのフィールドマナーが守れない,と言うことは,自然を観察して,楽しんでいる割には,自然に対する理解が乏しい,と言うことになりませんか?
 実はこれが,いまどきの観察者に,特徴的な傾向なのです。どうしてそんな観察者が増えてしまったのか?その考察もしなければいけないんですが,また別の機会に考えることにして,とりあえずはマナー問題の改善策を早急に考えなければいけません。
 マナーについて,皆さんからも,お知恵を貸してください。

 明治神宮探鳥会は今後しばらく,マナー指導の強化を続ける予定です。


(2000年3月18日記)

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