探鳥会の「適正人数」について考える


 日本野鳥の会神奈川支部では,「エコ・バーディング」を提唱しています。
 ひとことで言えば,環境へのインパクトを最小限に抑えた探鳥ツアーの勧め,と言うことです。

 その中で,探鳥会の規模について言及した部分があります。
 簡単に言えば,大人数で鳥を見る行動は,場合によっては自然環境へのインパクトが大きくなるので,探鳥会の規模を適正に調整する必要性も出てくる,と言うものです。たとえば狭い山道などを100人もの集団で歩きながら鳥を見たら,道からはみ出て植生を踏み荒らしてしまう人も,どうしても出てきます。また,他の利用者にとっても,道をふさがれて大迷惑です。もしかすると,鳥も警戒して逃げてしまうかも知れません。また,すべての参加者が同じ条件で鳥を見ることなど,まったく無理です。
 鎌倉源氏山探鳥会でも,参加者の顔が見渡せて意思疎通ができて,周囲の人や環境に無理のない範囲として,おおよそ30人ぐらいが「適正人数」だと,担当者が話してくれました。

 もちろん,フィールドの条件によって,「適正人数」は変わります。
 明治神宮探鳥会の場合,道幅もあり,車の通る心配も少ないですから,もっと大人数を受け入れても大丈夫です。しかも,明治神宮のような場所では,鳥が「人慣れ」していますから,「大人数の暴力」を心配することも少ない。したがって,現状では,担当者の肉声が届く範囲の人数……探鳥会全体で100人ぐらいが,キャパシティということになります。もちろん,観察中は,もっと細かくグループ分けしていて,おおよそ1グループ20人以内を目処にしています。理想としては,案内役と案内される側の人数比は,1:10以下にしたいのですが,今,深刻な人手不足でして……(悲)。
 現在,明治神宮探鳥会の「正規の」担当者は7人。まぁ,仕事の都合などで欠席者も出ますから,平均すると6人ぐらいの出席率です。この場合,適正なキャパシティは60人。これを3つのグループに分け,担当を2人ずつ配置します。なぜ10人ずつ6グループにしないのか?それは,案内役と参加者のそりが合わなかった場合のリスクを半分に減らせることや,担当者の得意分野を2人で補完して,互いに切磋琢磨すると同時に,自然解説の質を,全体としてレベルアップさせるためでもあります。この体制のところに,サブリーダー級の人や,自然解説修行中の人などを案内役として加えることも可能です。そうすれば,案内役も勉強になるし,参加する側も,より観察の幅が広がります。現在,他の探鳥会を担当する若手の人が,サブ担当をしてくださることはありますが,肝心の「明治神宮探鳥会の後継者」はゼロです。この場を借りて,自然解説者のイロハを学びたい人を募集したい気持ちもありますが,まずは探鳥会に来ていただかないと……(でも,ちょっと切実です)。

 明治神宮探鳥会では,過去には250人もの参加者を受け入れたこともありました。このときは,はっきり言って,「探鳥会」になりませんでした。こんな大人数になってしまったら,最初から最後まで,別々の集団に小分けして動かないと,収拾つきません。大人数対策の方法のひとつとして,案内役を要所要所に配置して固定しておき,参加者に地図を持たせて,解説してもらえるポイントを回ってもらう,「オリエンテーリング方式」という手があります。この場合,会場や通路が広ければ,かなりの人数に対処できます。実際,この手で,1000人を超える規模の探鳥会が,過去には行われています。
 しかし現在では,こんな大人数が集まることは,めったにありません。

 探鳥会に大人数が集まって困った,という話題で,こんな話もあります。
 山へ行く探鳥会で,歩き始める地点までの交通機関として,路線バスを案内していたら,そのバスに積み残しが出るほど参加者が集まってしまって,困ったという話。やむなく次のバスまで待ったり,バス会社の人が機転を利かせて増便してくれたりして,その場を切り抜けたようです。たとえ積み残しが出なかった場合でも,バスはキャパシティが小さい乗り物ですから,時ならぬ大混雑に,地元の利用者も驚いたことでしょう。交通手段に路線バスを使う場合の,思わぬ落とし穴です。

 さて,珍しい鳥が見られる,と予告された探鳥会は,どうしても人がたくさん集まります。
 珍しい鳥を見たいのも人情です。でも,希少な鳥に対するインパクト,その鳥のいる環境に対するインパクトを考えた場合,「珍しいものを見たいから行く」というだけでは,「エコ・バーディング」に反しますね。むしろ,「珍しい鳥を見に行かない勇気」も,将来的には重要なものになってゆくのかも知れません。
 また,「餌付け」も,よほど環境への配慮やバックグラウンドデータに基づく安全確認のない限り,ふつうは「環境へのインパクト」となります。餌付けを容認している探鳥会も多いようですが,その場合,環境へのインパクトから計算すると,探鳥会の「適正人数」は,大幅に減らさなければいけなくなります。……とは言うものの,そこまで環境に配慮した探鳥会の作れるスタッフを揃えるのは,容易なことではありません。

 探鳥会の環境へのインパクトは,案内役の人の指導方法によっても,かなり変わってきます。そしてもちろん,参加者の意識によっても……。具体的な探鳥会の名前は言えませんが,参加者が平然と,フィールドの植物を掘り取っている探鳥会を,私は経験したことがあります。これが「自然保護団体」のイベントかと思うと,愕然としました。

 探鳥会の「適正人数」は,さまざまな条件で変わります。
 でも,探鳥会に参加した誰かが,1人でも自然環境に配慮のない行動に出たとしたら,その探鳥会の「適正人数」は,ゼロだと言われてもしかたがありません。自然を楽しむ者が,自分でその自然を傷つけるのでは,自分で自分の楽しみを奪っているようなものではないでしょうか?人から言われる前に,気づいて行動して欲しいものです。


(2000年3月2日記)

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