鳥がたくさん見られる探鳥会が良い探鳥会なのか?


 あなたは,探鳥会に遊びに行くとき,どうやって探鳥会を選んでいますか?
 あなたは,どんな探鳥会が「良い探鳥会」だと思いますか?

 探鳥会の参加者は,何を基準に探鳥会を選ぶのか?
 探鳥会を企画・運営する側としては,ぜひとも把握しておきたいものです。

 明治神宮探鳥会では,時々,アンケート調査をしています。参加者の志向や人の流れなどを把握し,明治神宮探鳥会のマーケットを明らかにするためでもあり,担当者の運営方法や自然解説内容の見直しのためでもあります。また,探鳥会の参加者数は,探鳥会がどのような形で支持されているのかを,ある程度客観的に表す指標となりますから,参加者数の動向も,時々調べています。

 日本野鳥の会東京支部では,月例探鳥会が10ヶ所あります。明治神宮探鳥会もその1つです。ここ数年の傾向だけを見ても,参加者の増えている探鳥会,減っている探鳥会など,さまざまな傾向が見られます。
 そこで,過去数年分の探鳥会について,支部報に公表された数字を拾い,悪天候時を除いた,各月の平均参加者数と,探鳥会で観察された野鳥の種類数の平均をはじき出し,相関関係を見てみました。
 明治神宮探鳥会の相関係数は0.2前後。相関係数は,ゼロに近いほど相関が無く,1またはマイナス1に近いほど相関が高くなりますから,0.2と言う数字は,ほとんど相関が無いことを意味します。ところが,明治神宮と似たような環境,似たような開催時刻を持った,ある探鳥会では,鳥の種類数と参加者数の相関係数が0.9を超えています。この手の統計で,相関係数が0.9を越えるのは,「異常なほど」相関が高いことを意味しますが,これだけの相関をもった探鳥会は,「探鳥会の鳥事情を知っている人たちが,鳥のたくさん見られる時期をねらって参加している」と考えて間違いないと思います。ある意味,明治神宮探鳥会と対極的な立場にある探鳥会だと言えます。また,相関係数が高く,統計的に「相関あり」と判断された探鳥会が,全体の半分ぐらいありました。前述の特に相関の高い探鳥会以外は,干潟や水辺の鳥を相手にしている探鳥会です。干潟をフィールドに持つ探鳥会の場合,シギ,チドリの渡りのシーズンに参加者数が突出したり,珍しい鳥の見られた探鳥会の参加者数が増えると言った傾向が強いようです。

 ……言い方を変えれば,半分か,それ以上の探鳥会では,観察できる鳥の種類数や,珍しい鳥などを目当てに,参加者が集まっていることが想像されます。一方,明治神宮探鳥会をはじめ,いくつかの探鳥会では,鳥と人が連動することが無い,と言っても良い結果となっています。

 実際,1998年の明治神宮探鳥会で,いちばん参加者数が多かったのは,7月でした。7月と言えば,野鳥観察には最も不利な時期。明治神宮探鳥会では,積極的に昆虫中心の観察メニューを設定し,行事案内にも昆虫観察を掲げたり,子供の夏休みの自由課題への対応もしました。探鳥会当日には,多くの親子連れが参加し,カブトムシやナナフシなどを観察したり,アオバズクにお腹を食べられてしまったクワガタなども発見し,なかなかエキサイティングな観察が楽しめました。
 このような探鳥会の参加者層は,明らかに「鳥」を目当てにしている参加者層と違います。年齢層ひとつ取ってみても,「鳥」がお目当ての探鳥会では平均年齢が60歳を越えますが,明治神宮探鳥会では,季節にもよりますが,平均40歳を切ることもあります。つまり,結論から言えば,明治神宮探鳥会は,「鳥を目当てに探鳥会に参加している人」以外の参加者層を引き込む力があるわけです。鳥と人との間に高い相関を持った探鳥会は,「いつ頃行けばどんな鳥が見られるか」を,ある程度把握した人が中心になって動いている探鳥会,言い換えれば,鳥を目当てにしているリピーターのための探鳥会であると言えます。ある意味では,鳥に,かなり「ハマッた」状態の人でないと,楽しみにくくなっている探鳥会,と言う見方も出来ますが……。

 さて,明治神宮探鳥会でのアンケート調査の結果からは,ちょっと面白いことがわかっています。
 まず,参加者の過半数が,探鳥会参加経験3回以下。野鳥の会の非会員も半分近く。つまり,明治神宮探鳥会が,初心者の入り口として,あるいは「野鳥の会」の窓口ないしは「アンテナショップ」として,有効に機能していることが想像されます。また,参加者の8割以上は,都区内在住,つまり,圧倒的な近場志向です。さらに,野鳥以外の自然解説に対するニーズが非常に高い。「身近な場所で,誰もが楽しめる良質の自然体験を」と言う,明治神宮探鳥会の思想が,きちんと反映されています。
 さて,明治神宮探鳥会は参加者数も多いので,リピーターも,それなりの数がいるわけなのですが,リピーターも大別すると,次のように分けられます。まず,明治神宮探鳥会のファン。これがリピーターの半分以上を占めます。次に,それでも「鳥」で探鳥会を選ぶリピーター。特に冬場は,オシドリやルリビタキなどを目当てに,鳥目当ての人が増えます。この人たちは,ちょっとマニアックなので,明治神宮探鳥会では,やや異質の存在です。そして,「消極的」リピーターの存在。特に夏場に見られることが多いのですが,どこの探鳥会に行っても鳥が期待できなくてつまらないから,消極的選択で明治神宮探鳥会に来てしまう人がいます。この手の人たちは,「探鳥会」と名前のつくところなら,とりあえず参加してみる,と言うひとです。「いやぁ,今まで明治神宮って,参加したことが無かったけど,この時期,どこの探鳥会に行っても鳥が出なくて面白くないから……」と話す参加者が,実際,いるんです。担当者側から見ると,とても応対に苦慮するんですが……。

 明治神宮探鳥会は,独自のコンセプトを打ち出して,月例探鳥会の中ではトップクラスの参加者数を獲得しています。がしかし,それは探鳥会参加者層の「主流」ではありません。「鳥を見せること」を主眼に置いた探鳥会の数が圧倒的に多いので,我々はどちらかと言うと,他の探鳥会に馴染めなかった人の受け皿を一手に引き受けている,と言う状況なのではないかと思います

 実際,探鳥会に対するニーズとしては,
・日帰りで気軽に行ける場所で,
・ちょっと「非日常性」が楽しめる,1人では行きにくい,ちょっと遠目の探鳥地。
・なおかつ,鳥の種類数が稼げたり,珍しい鳥,自分の見たい鳥が見られそうな場所。

……このニーズが非常に高いことは確かで,「単発」の行事で,上記の要件を満たすように探鳥会を設定すると,驚くほどの人数が集まって,担当者を驚かせることもあります。
 まぁ,こうしたニーズって,物見高い人たちの「観光旅行」的な面も否めないんですが……。と言うのも,この手の探鳥会に集まる人は,正直,あんまり「自然保護団体の会員」らしくない人たちだなぁ,と思っているんですが……でも,これを探鳥会などの公の場で言うのは難しいと思っています。これを声を大にして言ったら,野鳥の会の会員の多くを攻撃することになる危険があるのも,野鳥の会の抱える現実だと思います。

 話が脱線しました。元に戻しましょう。

 いろんな鳥が見られるのはエキサイティングなことです。それは否定しません。でも,鳥見て,それだけで終わらせてしまって良いのであろうか,と言う疑問は,「自然保護団体」で自然観察指導をする立場の人間としては,常々持ち続けていたいと思います。1回1回の探鳥会の結果をよく反省し,次にはもっと良いものを提供したい,と言う気持ちと共に。

 「こんな鳥が見られるから,ここで探鳥会をしよう」という発想で,探鳥会を企画したくはありません。
 まず,自分が(自分達が),自然保護団体のイベントとして,「何を伝えたいのか」というコンセプトをはっきり持ち,その実現のために適したフィールドを選ぶような形で,観察会や探鳥会を作れば,きっと,鳥だけ見せて終わるようなことはないと思います。もちろん,月例探鳥会の場合は,フィールドが決まっていますから,「どのようにフィールドを生かし,そこから何を伝えるか」,といった発想が大切になると思います。明治神宮探鳥会の場合,鳥の観察しにくい季節に,無理して鳥を追いかけているより,「旬」の観察を楽しんで,「自然」を理解しやすい観察案内をしよう,と言う割り切りがありますから,他の探鳥会のように,「鳥」に縛られない,自由な発想で,観察メニューが組み立てられています。
 ……それが,「自然」を楽しみ,理解するための,基本姿勢なのではないでしょうか? 少なくとも私はそう考えます。

 「鳥」にこだわるのも楽しいことですが,こだわり過ぎて,かえって苦しくなっていませんか?
 それに,「普通の人」にとって,鳥マニアの行動は,不可解すぎます。
 探鳥会は,一般に公開されたイベントなんですから,
 「普通の人」がふらっと気軽に参加して楽しめることを基準に,探鳥会を作るべきだと思いますよ。


(2000年3月2日記)

→もどる