探鳥会が信頼を失ったとき…


 ぼちぼち,ほとぼりも冷め,多くの人の記憶から消え去ったので,「時効」と判断し,書くことにします。探鳥会に参加している人って,結構入れ替わりが早いですから,いま探鳥会に参加してエンジョイされている,ほとんどの人にとっては,遠い過去の話でしょう。

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 しばらく前のこと。探鳥会を企画している,とある担当者から,日帰り圏内でちょっと遠めの場所に行く探鳥会の企画が出てきました。……おや,こっちの仕事場の近くだ。ここでは地元の団体も探鳥会を定期的にやっていて,私もその探鳥会に時折参加してました。

 しかし,それは,「とある事件」の場所からも,そう遠い場所ではなかったのです。

 「とある事件」とは,上記の探鳥会企画が出てくる数ヶ月前のこと,上記の企画担当者がコーディネートした探鳥会で,ある希少鳥の姿を見たがった探鳥会の参加者が,その鳥の営巣している場所に入って,お目当ての鳥を追い出して観察したのです。……それは当然,自然観察者が,決してやってはいけないこと。たまたま,近くで観察していた地元の自然保護団体の人にも見つかり,問題を起こした探鳥会の主催団体は,地元の団体からの抗議を受けることに……。
 もちろん,担当者個人が一方的に悪いわけではありませんが,探鳥会の起こした事件,となると,個人のモラルにとどまる問題ではなくなってしまいます。探鳥会全体としての行動規範の問題,担当者の指導力の問題,そして主催団体の信頼と責任など,さまざまな影響が出てくることは,想像していただけると思います。

 ……その,問題を起こした探鳥会が,こっちへ来る。
 もちろん,地元の野鳥の会の支部も,地元の自然保護屋自然観察に関わる団体も,さきの「事件」については,とっくに情報が流れています。時期的にも,場所的にも,反発を招きやすい状況です。
 私は,問題の探鳥会にも,地元の探鳥会にも,関わりが無いわけではありません。

 そこで,一計を案じることにしました。
 地元との「共催」もしくは「交流」の道を図り,不信感を拭い去ろう,と……。

 さっそく,双方の担当者に連絡を取り,交流を勧めてみました。しかし,地元団体の反応はあまり良くありません。件の探鳥会の主催者には,地元の探鳥会担当者と直接連絡を取ってもらうように促しましたが,その結果……連絡は取れたらしいのですが,開催地の「珍しい鳥」に関する情報を聞き出したのだそうで……ん?状況を理解していないんだろうか??……。結局,地元団体から私への返事は,共催不可能であることと,「私たちは,自然とのつながりの中で野鳥を観察したいのです。」と言うひとこと。……丁寧なお返事でしたが,グッサリと批判……と言う感じでした。

 仕方が無い。こうなったら,私が直接,手を出すことにしようか……と思いつつも,開催日はどんどん迫ります。担当者に状況を説明して理解を求めても,なかなか分かってもらえないまま……。
 そんなある日,仕事場に電話。その探鳥会のメイン担当者からです。曰く,今,下見に来ているから,ちょっと来てくれないか,と言う趣旨。いくら近いからって,平日の仕事中ですよ。受話器を持ちながら,頭の中で2,3ヶ所,ブチブチッとキレましたね。……こりゃダメだ。

 もう探鳥会を手伝う気も起こりません。でも,一体,どんな雰囲気の探鳥会なのか,後学のため,探鳥会の当日には参加して,後ろのほうで静かに様子を眺めていました。
 確かにマニアックな雰囲気の人が多く,普段,地元では見られない鳥を見てやろうと言う意欲は伝わってきました。鳥がよく見える場所の陣取りでトラブルを起こしそうになったり,別の角度から同じ鳥を見ていた参加者が鳥に近づきすぎて,「鳥が逃げたじゃないか」「あんた,マナー悪いぞ」と言う手の文句をいう人もちらほら。探鳥会の担当者も,参加者が全員,ちゃんと鳥が見られるように腐心しているようでした。この様子,「鳥が見られた,見られなかった」で,少々トラブルを経験しているのかも知れませんね。
 半日少々,ひたすら鳥を追いかけ,探鳥会は終了。参加者同士の小さなトラブルはあったものの,地元とのトラブルは無し(地元の自然保護団体が誰もタッチしなかったのだから……)。

 実のところ,この探鳥会は,この主催団体の中では人気の高い探鳥会シリーズの1つだったのです。

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 皆さんはどう思われましたか?

 私はこう思います。
 熱心な人ほど,あるいはマニアックな人ほど,周りの様子が見えなくなる。そんな,視野の狭くなった狭い世界の,わずかな行き違いや思い込みが,いろいろなトラブルの元になる。

 探鳥会の参加者が喜んで家路についたとしたら,その探鳥会は「成功」だったのかも知れません。しかし,その探鳥会が外部に及ぼした影響についても,担当者は目を配るべきではないでしょうか?少なくとも,一般に公開された「自然保護団体の自然観察イベント」として探鳥会が位置付けられている以上,「内輪での楽しみ」だけでは済まされない部分は,どうしても出てきます。
 ……もちろん,探鳥会であっても,個人やグループでの観察であっても,自然観察を楽しまない人,自然観察に否定的な人も含めた,「外からの目」は,常にあるのですが,大きな団体の主催する行事であれば個人ベースの観察以上に,探鳥会,観察会の信頼を維持する必要があるように思います。それは組織の信頼度に直結することですから……。


 探鳥会や観察会の目的について,今一度,ちょっとだけ確認しましょう。
 最大の目的は「自然保護の普及啓蒙」……突き詰めれば,このひとことです。自然を知る楽しみを伝え,自然について,自然保護について,ポジティブに考えてくれる人を増やすこと。そして,「仲間」を増やす場所としても,探鳥会や観察会は,有効に活用される……と思います。

 探鳥会で参加者同士が言い合ったり,担当者が声を荒くするのは,端で見ていても気分の良いものではありません。また,視野の狭い発言,特定の考えに著しく偏重するような発言は,担当者の言葉として,良いとは思えません。あからさまに自分の好ましいと思う相手(=自分の「内輪」と認めた相手)にだけ親切に話す担当者も,実は少なからずお見受けしますが,相手によって,態度や言葉の調子や表情まで,目に見えて変わってしまう,場合によっては「内輪」でない人に攻撃的な言葉をぶつけたりするのは,第三者の立場から見ても,決して気持ちの良いものではありません。
 しかし現実には,「仲間内なら…」と言う,気の緩みや甘えもあるのでしょう。でも,自分にとって,あるいは自分の周囲の仲間たちにとって「気分の良いこと」が,必ずしもすべての人には通用しません。こうした「仲間内」を前提としたようなやり取りが,初めて探鳥会に参加した人を遠ざけたり,対外的トラブルの原因となったりもするわけです。


 経験的に,案内担当者のパーソナリティや自己表現方法までもが,探鳥会の雰囲気に影響します。案内役がマニアックな観察をすれば,マニアを中心に人が集まり,人に対する好き嫌いをはっきり表に出す人が担当すれば,「仲良しのお友達」以外の人は離れてゆきます。「自分は,どんな人に参加してもらって,何を伝えたいのか」……探鳥会・観察会の案内担当者は,常にこうしたことを意識している必要があると思いますし,視野を広く持ち,あまり個人的感情に走らない部分を持ち続ける必要も感じます。……観察案内担当者は,常に,多くの人から見られている存在なのですから。

 探鳥会・観察会の楽しみの半分は,人と人のつながりであることを忘れないで欲しいのです。


(2002年4月05日記)

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