子供はこの程度で……


 子供向けのものって,品物にしてもサービスにしても,なにかと,大人のモノのスケールダウン,レベルダウンだったりしませんか?
 確かに,子供の理解力に合わせて言葉や使い方をやさしくしたり,子供のお腹のキャパシティに合わせて,ランチメニューの食べ物の量を減らしたり,と言う意味では,「大人のスケールダウン」には,それなりに大切な意味と目的があります。

 しかし一方で,「子供だから」と言う理由だけで,単純にスケールダウン,レベルダウンしてはいけないものもあります。たとえば,子供服のサイズは体格にあわせたサイズダウンが必要ですが,デザインや縫製,素材に手を抜くことは出来ないでしょう。そう言う意味では,「子供向け」のモノって,単なる「大人向け」のモノのスケールダウン,レベルダウンではなく,「子供のための」モノである必要があると思います。要は,「子供騙し」はいけないのです(実際には「子供騙し」で何とかなっちゃう場面も多かったりしますが,これは大人の都合……)。私が子供の頃買い与えられた「子供用の」顕微鏡は,やっぱりすぐに物足りなくなりました。欲しくて欲しくて,やっと買ってもらった天体望遠鏡も,4年後には大人たちの持ち物と同じ赤道儀に買い替えています。「ま,子供はこの程度で……」と言うのは,結局は,子供に本質を見抜かれちゃったりすることもあるんですね。

 実は自然観察会も,「子供はこの程度で……」が通用しない世界です。
 ちょっと考えれば,すぐに解ることです。
 子供だって,大人だって,観察するときは同じモノを同じように見ているのです。大人は望遠鏡を使い,子供はオペラグラスで済ます,と言うわけにはゆきません。同じモノを見れば,同じようにいろいろな感動や不思議を感じたりする。実は子供のほうが,先入観や経験が少ないぶん,いろいろと興味が広がったり,思いもしない疑問やアイデアが湧きあがってきたりします。もちろん,子供の興味は長続きはしません。ですから,子供の興味を上手く引き出し,子供の感じたこと,思ったことに対する軽快なレスポンスが,自然解説者には要求されます。とてもじゃないけど,「子供はこの程度」では済まされません。
 探鳥会などではむしろ,大人のほうが,「バードウォッチングとはこういうものである」と言う予習がしっかりしていますから,適当にそれに沿ったことを2,3喋れば,だいたい満足して,質問も出なくなる。……つまり,探鳥会においては,「大人はこの程度でいいかな……」と適当に済ませてしまうことが可能です。大人のほうが型にはまっているんですね。
 しかし,子供であっても,親が無理に連れてきたような子は,何を観察しても,なかなかリアクションが良くない場合もあります。でも,何かひとつでも,興味のアンテナをくすぐるものが見つかれば,目の輝きが変わってきます。観察案内をする側は,知識やら小道具やらギャグやら,ポケットにいろんなものを詰め込んで,子供達と観察に出発します。子供からもいろいろな刺激やヒントももらえますし,子供同士でも刺激しあいます。こちらも真剣に,「観察ネタ」を繰り出して,子供と自然を結びつけ,遊ぶようにしてゆきます。
 ……自然観察会では,子供の相手はとても準備が要ります。でも,苦労しただけの成長が,子供達にも,案内する側にも,親にもあると思います。

 最近,親子で楽しめる自然観察に力を入れています。子供だけでなく,親も一緒に楽しみや感動が共有できれば,きっと,親子のコミュニケーションも,より良くなることでしょうし,親子そろって,自然を愛し,自然環境について考えてくれるようになったら,自然環境を守るパワーは2倍,3倍になってゆくかも知れません。
 大人を基準に,あるいは自分を基準に観察会を作るのではなく,参加する人を基準に観察会が作れたら……と思います。
 「この程度…」で満足してしまう大人ばかり相手にしていたら,自然解説者としても自身の成長が望めませんからね。

 さて,型にはまっている,と言う意味では,「子供は探鳥会の邪魔である」と言う認識も,どこぞの大人のバードウォッチャーの間には蔓延しているようです。確かに子供はウルサイし,せっかく見つけた鳥を飛ばしちゃう可能性も高い。さらには安全管理も責任取りきれない。……まぁ,いろいろと理由はあるかと思いますが,次世代の自然保護を託すべき子供達を探鳥会から遠ざけるのは,探鳥会の趣旨や目的と矛盾しているようにも思えます。それは,自分達がしっかり鳥を見たい,と言う大人のわがままにも見えてしまいます。鳥を飛ばしてしまうのがいやなら,探鳥会には参加せず,個人で楽しんだほうがずっと有利ですし,人にも邪魔されにくいでしょう。最近は,自分の子供の安全管理をしない親も多いのですが,基本的にそう言う親は,アウトドアでの危険に関する知識がないのですから,それを教えるのは自然解説者の重要な役目です。親子連れの場合,子供の安全管理は,基本的に親に帰着させるようにすべきです。
 まぁ,いくつも問題点は出てくるとは思いますが,子供や子供連れを遠ざけるような風潮だけは,何とかして欲しいものです。そして,小さい子供をお持ちの親御さんも,臆せずに探鳥会に参加されてみては,いかがでしょうか?

#もっとも,実際に子連れで参加して,小さい子供がエンジョイできるような探鳥会は,あまり多くないのも事実ですが……。

 こんな話も聞きます……「幼児の参加はご遠慮ください」と但し書きのついた探鳥会もありますし,参加する側も,「探鳥会に行きたいが,子供が小さいので迷惑がかかるから,子連れで探鳥会に行けない」と,参加を自粛してしまう人もいるそうです。

 ……一部では子供や親子を積極的に受け入れる動きがあるものの,こうした現実も,いまの探鳥会にはあるわけです。
 こうした状況は,大人は「この程度で……」が通用するけれど,子供には「この程度で……」が通用しない,自然観察案内の難しさも,遠因になっているのかも知れません。


(2000年12月11日記)

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