バードウォッチャーの喫煙率の謎


 アウトドア趣味の人たちにとって,野外でリフレッシュ!と言うのは,大きな目的の1つだと思います。自然の中に飛び出し,うまい空気を吸って,心身ともにリフレッシュ!……と思いきや,もしも隣りの人が煙草を吸い始めたら,非喫煙者にとっては,リフレッシュ気分も半減です。
 幸いなことに,私が生息する「自然観察趣味」の世界では,喫煙率は非常に低いのです。自然観察は感覚器を研ぎ澄ます遊び。ですから,煙草で嗅覚や味覚をスポイルするのは,とても勿体無いこと。第一,アウトドアで裸火を持ち歩くのは危険です。特に複数の人が集まる観察会や探鳥会では,喫煙者であっても禁煙は励行したいもの。実際,私の担当する探鳥会では,観察中の完全禁煙を実施しています。休憩時間中に喫煙する人もまれで,最近では,ほぼ完全に「無煙化」を実現しています。

 ところが一方,バードウォッチャーの中にも,喫煙率の高いグループがあります。
 私のマンウォッチングの経験から言うと,珍しい鳥を追いかける個人や,野鳥撮影のカメラマンなど,ハードな観察をしている人たちの喫煙率は,観察会でのんびり鳥を眺めている人よりも明らかに高めです。
 ハードな観察は,緊張を強いる。場合によってはコンペティティヴな場面さえある。さらに,目的達成のための待ち時間も長い。喫煙者が煙草に火をつけたくなる条件が揃っているわけです。一方,「のんびり派」の場合,「アウトドアに出るときぐらい,いい空気を吸おうじゃないか」と言う余裕を見せている人が多い。
 アウトドア趣味の喫煙者のマナーは,さすがに一般的な喫煙マナーの水準の上を行く場合が多いので,とりあえずは,あまり問題はない(と思う)。特に野鳥にターゲットを絞り込んでいる観察者にとっては,視覚,聴覚以外の情報は,あまり重要でもないらしいので,「嗅覚をスポイルする」などと言う理由を並べて喫煙を遠慮してもらおうと思っても,それは通用しない。
 ……しかし,こんな話もあります……

 もう20年以上前のデータによると,例えば8畳間ぐらいの空間で煙草1本吸えば,そこの空気は,その当時の環境基準すらもクリアしない,汚れた空気になります。特に,煙を吸い込んでいないときの,煙草の先端から出る煙は,より不完全な燃焼で,いろいろなものを出しているわけで,周囲の人間は,これを吸わされるわけです。煙草の燃焼温度は800℃程度。燃焼している煙草は,葉っぱと紙,それに香りを出すためのいくつかの添加物が,不完全に燃焼している状態です。低温での不完全燃焼と塩素化合物を含む燃料からは,量の多少はあれど,少なくとも何らかのダイオキシン類が発生する,と言うのが,いまどきの常識。焼却炉の燃焼温度は,ダイオキシン類を発生させないために,千数百度になるように設計されています。一方,煙草の燃焼温度は野焼き並み。当然,煙草にもダイオキシン類を発生させる条件が揃っています。庭の落ち葉焚きや家庭ゴミの自家焼却さえ,微量でもダイオキシン類が出るから,と自粛している昨今,煙草のダイオキシンについて言及する人が出てこないのは,エコロジーブームにおける大いなる謎の1つです。
 煙草の煙は,もちろん粒子状物質を含みます。その成分はディーゼル排ガスなどとは違うでしょうけど,空中に浮遊する粒子は,間違いなく発生しています。粒子状物質に関して,落ち葉焚きすら許さないような風潮の中,煙草の煙には比較的寛容なのは,これまた大いなる謎なのです。もしも,野焼きの煙やディーゼル車の煙にウルサイ人が,煙草なんか吸ってたら,私はその人を信用したくはありませんけどね。

 私はもちろん非喫煙者。自然観察の楽しみを最大限に引き出すなら,煙草は吸わないほうがいい。まして,観察案内をする立場に立つ機会も多いので,喫煙など論外。実際,私の周辺の,観察会を切り盛りしている仲間を見渡しても,喫煙率は限りなくゼロに近い。
 以前,某所でスキューバダイビングをしたとき,ガイドしていたインストラクターが,海から上がった途端に煙草を吸い出したのを見て,思いきり幻滅したことがあります。ダイバーと言えば,肺機能を最大限に利用して我が身の安全性を稼ぐのが常識。ダイバーは「自分のために」煙草を吸わない人が多いのに,まして指導的立場の人が,お客さんの前で煙草を吸うのは,ちょっと勘弁して欲しい。

 とは言うものの,煙草はまだまだ嗜好品。「吸う権利」を主張する人もいるでしょう。でも,よく考えてみてください。人に対する被害がある,と言うことは,他の生き物にも被害がある,と考えられませんか?アウトドアでの禁煙は,自分や周囲の人への思いやりでもあり,自然へのやさしさでもあるのです。地球にやさしいバードウォッチャーでありたいのなら,フィールドでの禁煙は常識,と考えるべきです。……それに,非喫煙者のほうが,喫煙者よりも,より深くて楽しい「自然観察」が出来ることは,私が保証しますよ。

 これは私の観察からの推測ですが,フィールドで煙草をスパスパ吸ってる人って,やはり自然との付き合いが浅いように見えます。フィールドに慣れた人ほど自然に対しては従順になる,と言うのが私の持論。珍しい鳥を求めて追いかけ回ったりするのは,やはり,自然に対してアグレッシブな態度が残っている証拠。それは俗世界からの解脱が足りないのだ(笑)。……冗談はさておき,喫煙に限ったことではなく,バードウォッチャーのフィールドにおける「自然環境への配慮」「地球へのやさしさ」は,もう少しレベルアップして欲しいものでありますね。ま,その第一歩として,フィールドでの喫煙について,地球へのやさしさについて,いろいろと考えてみるのも良いのではないかと思います。

 で,私からの提案です。

 アウトドアでの煙草は控え,人の集まる観察会や探鳥会では,できれば「無煙化」を。
 また,アウトドアを始めたばかりの方は,これを機会に,是非,禁煙をお勧めします。


(2000年10月24日記)

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