「自然体験」の大切さ


 小さいお子さんをお持ちのお父さん,お母さんに提案します。
 お子さんの将来のため,自然を相手に遊びましょう


 多くの人々が,地球規模の環境変化に気づき,地球規模の環境問題に取り組み始めた昨今。
 近い将来,いま以上に,個人個人の環境に関するセンス,自然に対するセンスが問われる時代になると思います。「エコ・マインド」を持った近未来の地球環境保護の担い手は,子供たちです。子供たちに,「自然」と遊ぶことを教え,その中から,自然環境を見る眼や,環境への思いやりとその実践,そして「センス・オブ・ワンダー」を育ててゆくのは,親の責任でもあります。


 いま,エコロジーブームやアウトドアブームに乗り,自然の中で遊ぶ人の数は,とても増えています。人々の目が「自然」に向けられてきたことは,これからの環境問題を乗り越えるためには,とてもプラスになるはずです。しかし,その内容を見ると,ちょっと考えてしまう部分も,たくさん見えてきます。
 たとえばキャンプ。いまはオートキャンプが主流です。快適なキャンプ場も増えました。しかし,キャンプに訪れる人の多くは,料理を作って花火をしてお酒を飲んで寝るだけ,と言うふうに,別に「キャンプ」でなくても出来ることをしています……もっとはっきり言ってしまえば,自宅での快適な生活を,そのまんまアウトドアに持ち出しているだけで,場所が変わる以外は,何も変えようとしないキャンパーが多いのも事実。実際,カラオケやゲーム機まで持ち込んでいる人もいるくらいですから…。
 冗談みたいな話ですが,キャンプ場の周囲にネイチャートレイルを造ったのに,ほとんど利用者がいなかったとか,管理事務所への苦情の中には,川のせせらぎの音がうるさくて寝られないとか,虫が来るから何とかしてくれとか,カエルの声がうるさいから何とかしてくれとか,とんでもないことを言いに来るお客さんがいるそうです。周囲の森を潰しても,快適なキャンプサイトを作ったほうが,利用者の受けがいいそうです。
 そういうのって,「自然の中」で遊んでいるのかも知れないけれど,「自然と遊ぶ」と言うことじゃないと思います。「遊び」そのものは,街での遊びと,ほとんど同じなのですから。

 そういう点では,自然観察は,間違いなく「自然」を相手にした遊びですから,キャンプなどよりも,「自然」に近い場所に行っていると思います。しかし実際には,「観光旅行」の延長のような自然観察ツアーも多く,捕らえ方をちょっと誤解すれば,ただの「物見遊山」になってしまいます。自然観察会と言っても,参加した人が,「珍しいものを見た。綺麗だった。」で終わってしまったら,ただの観光旅行と,質的な違いはないんじゃないか,と厳しい目で見ていたりします。

 しかし,自然とのつきあい方のとても上手な人も,もちろん,たくさんいるわけです。

 おおざっぱな経験則ですが,自然とのつきあい方の上手い人は,子供時代の「自然体験」がしっかりしていて,確かな「自然を見る目」を持っている人が多いようです。そして,流行に流されずに,しっかりと「自然」とつき合うことができる人でもあることも特徴です。
 いま,30代以下のバードウォッチャーの数は,とても少ないのですが,この世代のバードウォッチャーは,じゅうぶんな「自然体験」に裏打ちされた,確かな「エコ・マインド」の持ち主が多いのです。流行に左右されないで「自然」とつき合っている世代ですからね。

 年配者を責めるわけではありませんが,歳をとってから観察を始めた人と,子供時代から,あるいは,若いうちから観察をしている人を比べると,観察技術や観察内容など,見た目はほとんど変わらないのですが,自然環境のことを語ってもらったり,自然とのつき合い方などを見比べると,歴然とした差が出てきます。観察キャリアの浅い年配者には,「エコ・マインド」を自分の中に育てることを置き去りにし,「見た目だけ」の自然観察を楽しんでいる人が少なくありません。これは,「自然環境の理解」と言う点では,大いにマイナスですし,自然のことが理解出来ていないから,自分の行動が自然環境に負荷をかけていることにすら気づかなかったりします。……早い話,フィールドマナーが悪いんですよ(本人は気づいていないけど)。
 歳をとってからでも,「エコ・マインド」を育てることは,決して無駄なことではありませんから,ぜひ,自分の興味のある観察対象以外のものにも目を向け,自然環境の理解を「楽しんで」欲しいと思います。

 「エコ・マインド」を育てるなら,早いうちがいい。
 これは私の持論です。

 別に「子供に教育してくれ」と言いたいのではありません。子供時代に,いっぱい自然と遊んで,そうした経験の中から「エコ・マインド」を身につけて欲しいのです。それは,きっと,未来への「心の財産」となることでしょう。もちろん,毎週末,大自然の中まで「遠征」してゆく必要なんか,ありません。身近なところから,「自然」を感じるセンスを育てたほうが,たぶん,日常生活の中に「自然」を見る目を育てやすい。身近な生きものと親しくなってくれたら,毎日の生活がが「自然体験」になります。
 でも,いまの親世代には,子供の「エコ・マインド」を育てることが難しい人も,少なくありません。自分自身に「自然体験」がなければ,何を子供に教えたらいいのか,わかりませんよね。
 ……そんな人にこそ,自然観察会を利用して欲しいと思っています。親も子も楽しめる自然観察会があれば,親子そろって,「自然体験」の感動が共有できて,きっと,親子の会話も広がるでしょう。特に小さな子供たちは,お父さん,お母さんと感動が共有できるのを,すごく喜ぶのです。子供が喜んでいるのに親がつまらない顔をしていたら,がっかりするでしょう?
 もちろん私自身も,子供を持つ親として,子供と一緒に身近な自然を相手に遊ぶ中から,少しずつ「エコ・マインド」を伝えようと実践していますし,自分が関わっている自然観察会でも,親も子も楽しめるような観察案内をしようと,いろいろ研究しています。もちろん,年配の方を忘れたわけじゃないんですが,子供たちに,「ねえねえ,これ見て!」「次は何するの?」と引っ張られると,どうしても断れませんから…。

 観察会やHPなどで,「エコ・マインド」を育てることは,私の,ささやかな「未来への置き土産」でもあるのです。


(2000年7月1日記)

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