自然観察の経済効果


 1999年11月末よりしばらくの間,千葉県の谷津干潟にヒメクビワカモメが飛来し,しばらく滞在していました。この話は,ちょっ鳥に詳しい人なら,かなりの人が知っていると思います。
 それだけ「珍鳥情報」が,迅速に流通する時代になった,と言う感想もあります。また,その情報を元に動き回る観察者がたくさんいると言うことも,「今風の野鳥観察」を反映しているのかな,とも思います。さらに注目を引いたのは,谷津干潟のネイチャーセンターの入場者数。ここは有料なので,入場者数がかなり正確につかめます。ヒメクビワカモメの情報が流れてから,明らかに入場者数が増えているのです。多いときには数百人もの観察者やカメラマンが,1羽の鳥の移動とともにゾロゾロと移動し,ネイチャーセンター前の浜に目的の鳥が来れば,ゾロゾロと入場料を払い,ネイチャーセンターに入ってくると言う状態だったようです。事情を知らない人にとっては,ちょっと異様な光景に見えたかもしれませんね(笑)。
 例えば,1日平均で100人,干潟を訪れる人が増えたとしたら,1ヶ月で延べ3000人の増加。そのうちの何割かの人が,現地周辺で買い物をしたり飲食店を利用するでしょう。仮に10%の人が1000円の飲食をしたとしたら,1ヶ月で30万円の経済効果があったことになります。もちろん,交通手段を使って現地に行くわけですから,他にもさまざまな経済効果があったことと思われます。

 自然観察は目に見える経済効果を生むようになってきている。
 だんだん,マーケットが拡大してきたんですね。

 バードウォッチングが老若男女を問わず,アウトドア趣味の中心的な存在となっている北米やイギリスなどでは,既に野鳥観察がらみのイベントや商品などが,じゅうぶんに大きな,経済効果のあるものとして成り立っています。なるほど,こういう社会なら,自然観察のインタープリターが社会的信頼を得たり,「プロのインタープリター業」が商売として成り立つ素地があるわけですね。
 そう考えてみると,日本の自然観察をめぐる状況って,まだまだ「趣味性の高い人の集団」であるとか,「学校教育の延長」的な受け取り方をされる場合が多いようです。マーケットとしては発展途上なんでしょうね。

 たとえば,自然観察がじゅうぶんに経済効果のあるマーケットに成長したら,行政や開発業者にも,自然環境を保全してゆくことが,住民サービスや(経済的なものや精神的なものを含めた)利益をもたらすものとして認識され,より自然環境を守り育てることに力が入るようになるかも知れません。また,観察者周辺のもの…衣類とか小道具の類…なども,じゅうぶんに採算の合う市場となって,より良い商品が投入される可能性も高い。
 その一方で,あくまでも相手は「自然」ですから,観察者が自然の中で危険にさらされる場面も増えるでしょうし,自然環境も,過剰な利用者のために悪化することも考えられます。……観察者には,より,安全に関する知識の向上や自然保護の実践が求められるわけです。

 そう考えると,今の日本の,自然観察をめぐる状況って,過渡期なんでしょうね。ちょっとマニアっぽく,ちょっとマナーの悪い観察者が目立ったり,若い世代が自然観察から遠ざかり気味だったり,マーケットがありそうで,あんまりないような,「自然観察」の周囲……。

 いずれにせよ,自然観察の「経済効果」を意識するのは,今の日本では,まだ新しい発想でしょう。こういうことが少しずつ進展して,「開発」イコール「経済効果」,と言う図式が,少しずつでも崩れてゆけば,自然観察や環境保全をめぐる状況は,だんだん変わってゆくのではないでしょうか。
 その変革には,我々一人一人の意識改革も含んでいると思います。


(2000年6月8日記)

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