伊勢エビキャッチャーとカブトムシの自動販売機


 先日,柏市内のゲームセンターに「伊勢エビキャッチャー」が置いてあるのを見かけました。クレーンゲームの賞品として,生きた伊勢エビや毛ガニを水槽に入れている遊具です。うまくクレーンで掴めれば,伊勢エビなどの高級海産物がゲットできるとあって,西日本で人気の出たものですが,ついに関東にも現れたんですね。
 2月12日付の新聞に,「伊勢エビキャッチャー」の話題が出ていて,動物愛護団体がメーカーに抗議していること,メーカーが当惑しているとのコメントと,ゲームセンターの談話として,「基本的には釣り堀と同じでしょう」と言うコメントが出ていました。

 確かに,動物愛護団体でなくても,ちょっと違和感を感じます。

 これと同じような違和感を感じたニュースが,去年もありました。
 岐阜県で子供達の人気を集めた,カブトムシの自動販売機です。

 カブトムシの自販機は,卵の自販機などに使われる,コインロッカー式の機械に,プラスチックケース入りのカブトムシ(オスメス1匹ずつ)が入っているものでした。ペアで400円と,かなり安価な設定だったので,子供達の人気を博したようです。100円〜300円ぐらい入れて,ガチャガチャとハンドルを回すと,おもちゃ入りのカプセルが出てくる自販機……通称「ガチャポン」とか「ガチャガチャ」と呼ばれているもの……と似たような感覚で,生きたカブトムシが手に入るわけです。

 これにも強い違和感を感じました。……何か変だぞ……と。
 かなり前,花の自販機が登場したときも,あんまり良い印象を持ちませんでした。
 どうして違和感を感じるのでしょう?

 ペットとして生き物が売買されるのが当たり前の社会です。いや,むしろ,購入しないでペットを手に入れることが難しい世の中になっていると言えます。ペットとして昆虫が売買されることに関しても,すでに江戸時代からスズムシやキリギリスが売られたりしているのですから,文化的に違和感は感じない。カブトムシの販売も,昭和40年代には,すでにデパートなどでも行われていました。ですから,お金で生き物を手に入れることに異議を唱える気にはなりません。……もっとも,マニアの間で数十万円〜数百万円で取引されることもある,オオクワガタ飼育の世界や,犬猫のブリーダー関係は,あんまり好ましいとは思っていませんが……。

 違和感の原因は,「機械から生き物が出てくること」にあるのかも知れません。でも,生き餌の釣り餌の自販機もあるわけで,それにはあまり違和感を感じません。多分,機械から出てきたものが,口に入れる,生きた食材でもあることや,これから飼育して愛玩されるべきペットであることが,引っかかるのではないかと思います。
 動物愛護団体の言い分はさておき,これは,どう冷静に考えても,生命倫理観の問題で引っかかるものがあります。自販機でペットが買えるのが便利で良いと言うのなら,もしも,ハムスターや犬を売る自販機を開発したら,どう受け止められるでしょうか?……哺乳動物は,脳の高次機能が発達していますから,カブトムシと条件が違いすぎますが,カブトムシ自販機は,その違いが理解できない年齢の子供達が利用しているのです。ですから,ペットを自販機で買うことに違和感を感じなくなった子供が,大人になってからハムスターの自販機を開発する可能性は否定できないのでは?
 伊勢エビキャッチャーの場合,釣り堀と決定的に違うのは,コインを投入して,完全に機械任せに,獲物を取る点だと思います。そもそも,食べ物で遊ぶのも,特に年配の方には抵抗感があるでしょうし,節足動物は感情を持たないとはいえ,純粋にゲームの対象として,生きたエビやカニを機械でいじくり回すわけですから,あんまりいい印象はありません。でも,完全に否定すべき理由も思い当たりません。生命倫理観に悪影響があるんじゃないかと言う,漠然とした危機感のようなものはあるのですが……。

 私は動物愛護団体のような,特定の信条や思想に基づく意見は持ちません。しかし,生き物の命の扱い方や生命倫理観には,違和感や問題を感じることの多い昨今です。特にペット動物の扱い方には,さまざまな疑問を感じますし,それとおんなじ感覚で野生動物を扱おうとする人が多いのも,すごく不安に思います。

 多分,「生き物をかわいがりましょう」「生き物を殺してはいけません」と言う教育だけでは,生命倫理は育たないのかも知れません。結論から言えば,生き物を知らな過ぎる。知らないから,生命倫理が育たないのでしょう。単にペットをかわいがるだけでは,ペット以外の生き物のことは何もわからない。いや,「生き物としての」ペットのことだって,他の生き物を知らなければ,十分には理解できません。
 生き物とのつき合いかたについて,いや,もっと具体的に言えば,「生き物」としての我々人間の,他の生き物との関係について,もっと考える場面を持たなければいけませんね。ぜひ,実際にいろんな生き物とつき合いながら,考えてゆきたいものです。


(2000年5月13日記)

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