「光あふれる国」に悩む


 公害問題が盛んに言われていたのは,1970年前後のことでした。
 その後オイルショック,バブル,不景気など,さまざまな転換期を通り,いま,再び「環境」がクローズアップされています。今度の環境問題は,地球規模で環境を考えるのが特徴のようです。温暖化の問題,天然資源枯渇の問題,熱帯雨林の消失など,地球規模での環境破壊が話題になっています。私たちの身の回りでも,リサイクルの話や,身近な自然としての「里山」の保全の話など,環境関連の話題が増えています。
 そんな中で,昔から言われているのに改善しない「環境問題」をひとつ,紹介しましょう。

 それは,「光害」の問題。
 「光害」と言う言葉を知っていましたか?
 少なくとも30年は使われている言葉です。
 地上の灯火の影響で,夜空まで明るく照らされてしまうことで,さまざまな影響があるのです。
 「光害」のいちばん直接的な影響は,天文台などでの天体観測。星空がきれいに見える場所は,もう,日本では少なくなってしまいました。東京の明かりは,100km以上離れた土地の夜空をも,明るく照らしています。オイルショックの頃,一時期,星空が回復したこともありましたが,今では,天の川の見える場所を探すことすら大変です。20年前は,高尾山でも天の川が見えましたが,今では少なくとも富士山周辺まで行く必要があります。
 それだけ,空を照らす灯火が増えたのです。

 湘南では,灯台の明かりよりも,海沿いのお店の灯りのほうが明るいと言う,航海に支障をきたすのではないかと言う状況です。
 我が家の近所でも,パチンコ屋が夜空に向かって投光機の光を放っています。かなりの光量で,曇の日には,数千m上空の雲が,投光機のスポットライトを浴びて,無気味に光っています。看板か広告塔のつもりなのでしょうけど,雲を照らしながら動いてゆくライトは,事情を知らない人が見ると,必ず「気持ち悪い」と言います。

 星が見えない,と言うのは,天文台の人や天文ファンには直接的な被害ですが,生物としての人間への影響,生き物…特に夜行性の生き物への影響は,どうなんでしょう?
 夜行性の生き物の中には,光を情報伝達手段にしているものも少なくありません。過剰な光の洪水は,生き物のナビゲーション機能を狂わせたり,生物時計を狂わせたりすることもあるかも知れません。
 街灯の下で,夜でもセミが鳴いていたり,コウモリに混じって,夜,採餌するツバメもいます。
 これを「環境への適応」と見るべきなのか,「光害」の被害と見るべきなのか,難しい問題です。
 夜間の過剰な光が人間の生物時計を狂わせたり,内分泌機能を狂わせたりすると言う指摘もあります。

 また,別の問題として,エネルギー資源を,空を照らすことに使うと言うのは,どんなものだろうか,と言う意見も,当然,あるわけです。有名な建造物などのライトアップで街のイメージを良くする,といった方向の検討もありますが,「光害」問題やエネルギー資源節約の問題との間で,ジレンマを生んでいます。

 「星降る町」を謳う,岡山の美星町では,徹底して空へ光を出すことを抑えています。条例で広告灯を規制したり,街灯も空のほうに光を漏らさない構造になっています。「星」で町おこしをしている一環ですが,「光害」問題に対する,ひとつの回答が見えるような気がします。

 灯りの必要なところには必要なだけの灯りをつけることに,異論はないでしょう。しかし,自然環境に影響が出るほどの灯りは,たとえ宣伝効果などの経済活動上のメリットがあったとしても,マイナス面をじゅうぶんに考えなくてはいけない時期に来ていると思います。それが,「環境へのやさしさ」でもあると思います。


(2000年5月13日記)

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