ネーミング


 「ガーデニング」が大ブレイク中ですね。
 ちょっとイギリス風の匂いがしたりすると,おしゃれに感じてしまうんですが,まぁ,要するに,「庭いじり」ですよね。若い人もけっこう,ガーデニングを楽しむ人が多いようですが,このブームを斜め後ろから見ていると,やっぱり,「園芸」とか「庭いじり」ではなく,「ガーデニング」だったからこそ,若い人に受け入れられた,という面も否定できません。

 ……ネーミングの勝利ですね。
 そう,20年ぐらい前,「探鳥会」にも,似たようなことがあったなぁ……。

 「バードウォッチング」という言葉が普及し始めたのが1980年前後のこと。
 この時期には既に若者の間では「ヘビーデューティー」なアウトドア用品がファッションとして普及してきて,多くの人がデイパックを持つようになりつつあり,「バックパッキング」なんて言うのも,話題になっていました。そんなアウトドア志向の素地の上に,アウトドアで楽しむおしゃれな趣味として,「バードウォッチング」が取り上げられるようになったわけです。
 実際,探鳥会にも若い人がたくさん集まりました。もちろん,ちょっとだけやってみて,すぐに逃げてしまう人も多かったんですが,熱心な若者も多く定着し,探鳥会を出発点に,写真(ネイチャーフォト)に手を出したり,調査研究に打ち込んだり,自然保護活動に手を出したり,さまざまな方向に広がりを見せていました。現在も,この世代が各地で自然を相手に,さまざまな活躍をしていたりするのですから,そういった意味で,「バードウォッチングブーム」は,それなりの遺産を残したのだと思います。
 しかし,若者の間でのブームは,そんなに長続きしません。一般的な「流行」の流れを見ていると,「若者」に端を発したブームが,次第に主婦層に広がり,さらに中高年男性に広がって,終息を迎える,というパターンがあるのですが,今の中高年主体の「探鳥会」の様子を見るにつけ,「ブームの残り火」を感じてしまいます。
 もっとも,年齢の高い人の間に広がった「ブーム」は,若い人のブームよりも,ずっと息の長いものになりますから,しばらくは「中高年の流行」として,「バードウォッチング」の人気が維持されると予測していますが……。

 そして,この「ブーム」の動いている間に,「バードウォッチング」と言う用語は,年配者が普通に使う用語になるほど,普及していったわけです。今では「探鳥」とか「野鳥観察」よりも「バードウォッチング」のほうがポピュラーになってしまいました。

 野鳥観察の普及には,ネーミングが一役買っていた,と言うわけです。

 しかし,「バードウォッチング」と言うネーミングのおかげで,「野鳥を観察する趣味」そのものも,内容がやや変わってきているのも事実。野鳥観察を楽しむ年代が,高齢化したという要素もありますが,「野鳥を見て楽しむ」ことだけが一人歩きしてしまったことは否めません。少なくとも20年前のほうが,「自然環境にプラスになること」を実践する人,あるいは,「少なくとも自然環境にマイナスになるようなことはしない」と言う努力をする人が,今よりも,ずっと多かったように思います。もっとも,これは「野鳥観察を楽しむ人」の中での相対的な割合ですから,当時は今よりもずっと「少数精鋭」な観察者が揃っていたのも事実ですけどね。言い方を変えれば,「バードウォッチング」を楽しむ人の数は増えたけど,自然保護意識の高い,チャレンジ精神旺盛な人は,たいして増えなかった,と言うことなのかも知れません。いずれにせよ,バードウォッチングの主流は,以前の若者世代の意欲的な活動とは別の場所にあるようです。

 ネーミングはとても大切。だけど,名前のもつイメージは,人それぞれ。良いネーミングで人の注目を集めたのはいいけれど,名前の持つイメージだけがどこかに歩いて行ってしまい,本来持っていた本質的なものまで,どこかに行ってしまうのは,ちょっと……ね。
 で,今,「探鳥会」の持つマイナスイメージ……趣味性の高い,敷居の高い高齢者集団……と言うイメージを払拭するのに躍起になっているのです。高齢者の存在も趣味性も否定するわけではありませんが,もうちょっと窓口が広く,懐が深くなってくれたら,と思いながら…。もしかすると,これって,「探鳥会」が元気だった頃を知っている者のノスタルジーかも知れない。けど,「探鳥会」の将来を考えた場合,いや,自然観察による環境教育を実現するためには,もう少し,「器の大きい」探鳥会を作らなくては,と思っています。
 ……そして,いずれは,それに似合うネーミングも考えなくてはね……。

 ところで,「ガーデニング」も,あと20年もすれば,若者が去り,中高年の「庭いじり」を指すようになってしまうかも?!……その頃には,「庭いじり」や「園芸」と言う言葉も衰退しているかも知れませんね。


(2000年3月30日記)

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