子供たちと虫の接点


 昔,子供たちの「夏休みの自由研究」の定番は,昆虫採集でした。夏休みになると,捕虫網を持った子供たちが虫を追いかけていたものです。もちろん,虫取りだけじゃなく,カエルやザリガニを取って遊んだり,捕まえた生き物を飼ってみたり,子供たちはさまざまな生き物と遊んでいました。遊びの中から,子供たちは自然な形で,生き物に触れることを覚えていったのです。
 いまどきの子供たちは,どうなんでしょう?

 最近の学校教育では,自然を大切にしよう,ということは,教えられています。ですから,チョウやセミを捕まえて殺すようなことは,あまり勧められていないようです。昆虫採集する子も見かけなくなりました。それどころか,私が子供の頃,理科の時間にワクワクしながら取り組んだ「フナの解剖」も,今ではあまり評判が良くありません。いまどきの町の子供たちは,どうやって,生き物に触れているのでしょう?

 我が家は住宅地にありますが,幸いなことに,近くに林や水辺もあり,虫はまだ,たくさんいます。春には野草の花,夏にはセミやチョウ,秋にはバッタや赤トンボ,……さまざまな生き物に触れるチャンスがあります。もちろん我が家では,それをしっかり利用しているわけなのですが……。

 夏の午後のこと。
 子供を連れ,近所で買ったおもちゃの捕虫網を1つだけ持って,公園でセミを取っては逃がして,遊んでいました。我が家の虫取り遊びは,「キャッチ&リリース」が基本です。すると,近くで遊んでいた小学生が,近くにやって来ます。中には,「セミ取っちゃいけないんだよー」と言う子もいます。最近は,セミに触ったことのない子が,かなりいるらしいのですが,試しにセミを持たせてみようとすると,さっと手を引っ込めてしまう子,おっかなびっくり持ってみたものの,セミが動いたらびっくりして手を離してしまう子,……どうやら,ほんとにセミに触ったことがないらしい。
 虫のことを知らない子が,「自然を大切にしよう」とか「虫を取っちゃだめ」とか言っているのも,なんか,ちょっとおかしいような気がします。自分の知らないものなのに,「大切にしよう」なんて理屈だけ教え込まれているんですね。

 その公園で,夕方,私たち親子は,花火遊びをしている子供たちを横目に,いそいそと木の幹にいるセミの幼虫を探しに。何匹か見つけて,さて,家でゆっくり羽化の観察をしよう,と帰りかけたら,近所の顔なじみの男の子に会いました。そこで,「こいつの羽化を観察すれば,一晩で夏休みの自由研究が出来るよ」とそそのかし,セミの幼虫を1匹分けてあげました。
 翌日,その子はよほど感動したらしく,セミの幼虫を取ってみたいと電話がありました。そこで次の日,暗くなる頃,私たち親子と再び公園へ。簡単にセミの幼虫の探し方を教え,手分けして探すことにしたのですが……幼虫を見つけるのは,うちの娘ばかり。結局その子は,うちの子から幼虫をもらうばかり。
 しばらくセミの幼虫を探していたら,うちの子が小さなスジクワガタの雌を発見!見た目はほとんどゴミムシみたいなものですが,「あ,これ,スジクワガタだね」と言った途端,男の子の目の色が変わりました。もう,セミなんかどうでも良くなって,「欲しい,欲しい」と大騒ぎ。小さなクワガタをめぐって,大喧嘩。……おいおい,4つも年下の女の子を相手に,何やっているんだ。

 いまどきの子供は,やっぱり,虫の扱い方も,探し方も知らない子が多いんでしょうかね。でも,カブトムシとかクワガタなど,名前の通った昆虫は人気がある。多分,商品化されて売っている,という理由もあるのでしょうけど。
 折りしも,岐阜県内でカブトムシの自動販売機が登場し,子供に人気は上々だと言うニュースが流れていました。世の中,いろいろな自販機があるけど,これから飼育して愛玩されるべき生き物を自販機で買い求めると言うセンスは,ちょっと理解しがたいですね。子供たちにこんな生き物の入手方法を教えてしまっていいんだろうか,と不安になりました。もし,自販機の中にハムスターでも入っていたら,もっと大きな問題になっていたかも知れませんけどね。

 さて,わが娘は,と言えば,先日,スーパーマーケットの精肉売り場で,保冷ショーケースに飛び込んで寒さで動けなくなっているイエバエを発見し,嬉しそうに手の中で転がして遊んでいました。「おいおい,やめてくれー」と言っているうちに,暖まってきたハエが,やっとこ飛べるようになり,フラフラ飛んで行きました。それを「バイバ〜イ」と言いながら見送っているんだから,まったく……。


(1999年12月26日記)

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