鳥は首をかしげたとき,何を考えているのか


 探鳥会で参加者から聞かれた質問です。
「小鳥が小首をかしげるポーズをよくするけど,あれはすっごくかわいいですね。あのとき,何を考えているんでしょうね?」
 ……この手の素朴な疑問が,いちばん難しいんですよね。
 さらに,これをわかりやすく解説するのはもっと大変。

 では,この回答をしましょう。
 ちょっと難しい話になるけど,お付き合いください。

 まず,鳥の思考回路について。
 はっきり言って,あんまり良くわかっていません。
 鳥と哺乳類では,中枢神経系には決定的に違う部分がいくつかあるので,そこからアプローチして考えましょう。
 哺乳類では,大脳の前頭葉辺りで考えたことを実行に移すときには,「錘体路系」と言う神経のルートを通って,大脳の命令が筋肉に伝わり,自分の思ったとおりの運動を起こします。一方,鳥の場合,この「錘体路系」がありません。つまり,
 「鳥は大脳の意図・思考領野と筋肉を結ぶ神経の連絡がない
と言うことになります。
 つまり,鳥は人間のように,大脳皮質で考えたことを行動にあらわすための回路がないのです。もっとも,大脳皮質の意図,思考領野がどの程度発達しているのか,ちょっと疑問ですけどね。つまり,思考回路が発達していないから,錘体路もいらない,とも考えられます。

 …と言うことで,結論としては,
鳥が首をかしげているとき,何も考えていない
と思われます。

 じゃぁ,なぜ首をかしげるのか,と言う疑問が出てきます。
 これは案外単純な話で,鳥の目の位置が原因のようです。
 鳥は外敵の襲来を,視覚的に捉えます。したがって,小鳥はほぼ例外なく,顔の横のほうに目がついていて,後ろのほうまで見渡せるようになっています。ところが,この目の配置のおかげで,両方の目でものを捉えることのできる範囲……つまり,「立体視」が可能な範囲が狭いのです。立体視できないと,距離が測れません。そこで,ちょこちょこ首をかしげながら,目標物を立体視しているのです。

 さて,鳥の思考回路はほとんど使われていないんじゃないか,と言う話をすると,言葉を覚える鳥の話や,カラスの学習能力,渡り鳥の能力などは,どう説明がつくのか?と言う質問が返ってきます。
 たとえばカッコウの場合,「托卵」と言って,他の鳥の巣に卵を産みますが,親鳥は,秋になると,子供の成長を待たずに,さっさと南へ旅立ちます。子供は親の顔を知らずに育ち,さらに,全く見ず知らずの土地へ旅行しなければいけません。これを可能にしているのが,遺伝情報です。彼らは「遺伝子の記憶」で飛び,「托卵」という特殊技能を発揮するのです。
 カラスの学習能力も,大脳皮質の意図・思考領野とは別のところで実現しているようです。つまり,人の「学習」とは全く違うシステムで,記憶が保持されるようです。

 最近の鳥の脳研究では,貯食をする時期に記憶に関係する脳細胞が増えるとか,「さえずり」に関係する脳細胞が,繁殖期が終わると数を減らし,翌年の繁殖期に再び増加する,といった,哺乳類の常識では考えられないような脳の変化が,見出されています。
 鳥の脳も,まだ良くわからないところがたくさんあるのです。


(1999年12月13日記)

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