足元を見る


 樹木の観察をするとき,どこに注目しますか?

 葉の形,常緑樹か落葉樹か,樹皮のようす,樹高,樹形(枝ぶり)……
 さまざまなポイントを見て木の名前を同定したり,木を見上げて眺めたり。

 今回は,ちょっと視点を変えて,樹木の根元に注目してみます。



 ケヤキの根元。
 マンガやイラストで木の絵を描くとき,根元をちょっと広げた形に描いたりしませんか?
 ……ちょうど,そんなイメージです。

 これは,木を支えるための「支持根」で,幹の細い,若いケヤキの木では,これほど発達した支持根を見ることは出来ません。しっかり大地に根を下ろし,大きな木を支えるイメージの強い構造物です。



 こちらはシラカシ。最初のケヤキよりも,やや幹は細いのですが,立派な樹高を持っています。
 がしかし,支持根は発達していません。




 コナラの根元。少しだけ太くなっています。
 根元の土が露出していますが,ここは人通りの多い公園の中。
 土も固めです。




 ユリノキも,それほど根元は太くなりません。




 一方,こちらはムクノキの老木。
 熱帯雨林の樹木みたいに,支持根が発達します。このぐらい板状になった根は,「板根」と呼んでも良さそうです。

 これらの樹木は,公園を歩いて,適当に見つけたものなのですが,根元の表情はさまざま。
 どうしてこんな違いが?

 支持根を必要とする条件を考えてみましょう。
 まず,地盤が軟弱で,木が倒れやすいような場所。
 樹高が高く,地上部の重量がある木。
 表土が薄かったり地盤がやたらと固かったりして,深く根を伸ばせない場所。
 雨が降ると表土が流れやすい場所も,結果的に根が浮き上がってきます。
 人がたくさん歩いて土が踏み固められている場所も,根が浮き上がりやすい場所です。
 また,斜面では,物理的に踏ん張るために,支持根が出る場合もあります。

 そして,木の種類によっても,支持根が出やすい木,出にくい木があるようです。

 概して,水辺に近い場所を好む木には,支持根の出やすい木が多く,水からやや離れた場所で林を形成し,腐葉土でふかふかの土壌を作っている木々には,支持根が出にくい,と言うことも,あると思われます。
 上記の木の中で,もっとも水に近い場所を好むのは,ムクノキ。やや離れた場所にはケヤキ,さらに離れてコナラやシラカシなどが生える,と言うのが,自然状態での植生分布。根元のしっかりした場所を選ぶ木は,支持根が出にくい,とも言えそうです。

 さてさて,この辺りの樹木で,水辺を好み,樹高もそれなりに高くなる木の代表選手と言えば,ハンノキ。
 その根元は,こうなっています。



 見事な支持根。いや,板根と呼ぶのがふさわしい。

 足元を見る樹木観察も,なかなか面白いじゃないですか。


(2006年12月14日記)

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