大都市の自然観察の穴場?


 日本に住む人の過半数は都市生活者。東京23区だけでも約800万人の人口があります。
 ひとくちに「身近な自然」と言っても,家を一歩出れば森の中,と言う環境に住んでいる人は少数派で,多くの人にとって,「街の自然」イコール「身近な自然」と言うことになります。でも,大都会の中で自然観察の楽しい場所って,あるの?
 ……ん〜,無くは無いんです。
 そんな,ちょっとした「自然観察の穴場」を訪ねてみましょう。


 東京都区内の自然観察スポットとして,すぐに思いつくのは公園緑地でしょう。新宿御苑や自然教育園のように,自然環境を残す努力が行われている場所はともかくとして,都区内には芝生広場やスポーツ施設がメインの公園も少なくありません。また,開園してからの年数とか,公園の整備状況の歴史なども,さまざまな形で自然環境に影響します。

 実は,もっと自然環境の保存状態のいい場所が,街の中にもあるんです。
 それは,古い「鎮守の森」とか,歴史のある公園墓地。
 ……つまり,長いこと大規模に環境をいじっていない場所が狙い目なんです。
 この条件ですと,皇居関係の施設がベストなんですが,一般人が入って自然観察の楽しめる場所は,皇居東御苑ぐらいしかありません。

 都区内で,神社やお寺のバックヤードとして豊かな自然を形成している場所と言えば,明治神宮。明治神宮の自然については,別項目でしっかり御紹介しているので省略しますが,もうひとつの注目スポットである「古い公園墓地」。……都区内なら染井,雑司ヶ谷,青山などの墓地があり,多摩地区にも多磨霊園,小平霊園などがあります。明治時代に既にほぼ現在の形に整備された場所もあり,かなり歴史もあります。

 長いこと大規模に工事の手が入っていない場所は,昔の植生が残っている可能性が高く,戦後,エイリアンのように造成地や空き地に侵入した外来植物の侵攻から逃れている可能性も高い。……つまり,「自然観察スポット」として興味深いのです。

 ……前置きが長くなってしまいましたね。

 それでは,「自然観察の目」で,青山墓地を探索してみましょう。



 訪問したのは桜の散り始める頃。この時期が,春の花の観察にはベストシーズン。
 木の太さが,歴史を感じさせます。


 さりげなく,道端には日本在来のカントウタンポポが生えていたりします。


 路傍のモチノキ。植樹されたものでしょう。肉厚でつやつやの葉っぱの隙間に花をつけていました。

 敷地内では,いろいろな野草の花が見つかりましたが,その中からいくつかピックアップ。


 カントウタンポポ。1970年代にはセイヨウタンポポが生息範囲を広げ,この日本在来のタンポポは,都心ではかなり貴重な存在でしたが,さすがに明治時代から続く青山墓地。ちゃんと見つかります。


シロバナタンポポ。東京ではカントウタンポポよりも少ないかな。


道端にスミレが顔を出していました。


カラスノエンドウ。都心でも比較的多い野草ですが,よく見ると,なかなか綺麗なです。

 もちろん,木もそれなりにありますから,雑木林や疎林を好む野鳥なども,ちらほら見かけます。この写真撮影のために訪問したときには,シジュウカラ,コゲラ,メジロなど,林の鳥もたくさん見かけましたし,4月下旬頃にはセンダイムシクイ,クロツグミなど,もう少し北上して繁殖する渡り鳥が,羽を休めているのに出会うこともあります。
 夏にはセミの大合唱になったり,蚊が大発生したりしますが(墓地は溜まり水が多いから,蚊が繁殖しやすいですね),蚊を狙って夕闇の中をアブラコウモリが飛んだりします。


 墓地や鎮守の森を見ていると,人が自然環境に手を入れすぎないことが,綺麗な芝生の公園とは違った,雑多な環境を生み,そこにはいろいろな種類の生き物を養う力があり,外来の植物が簡単に侵入できない強さも持っているように見えます。青山墓地でも,車道の道幅を広げる工事をした周辺にだけ,たくさんのセイタカアワダチソウが生えていて,墓地の中のほうには,意外なほど昭和時代以降の外来植物が少ないことに気づきます。
 なまじ植生を大規模にいじって緑地を整備してしまうと,その後,かえって緑地の維持管理に手間がかかったりする場合も少なくありません。人と緑の共存共栄を考える上で,歴史ある緑地って,いろいろと参考になる面も多く,面白いですね。


 最後に,お願いがひとつ。
 鎮守の森にしても墓地にしても,「自然観察」を目的に作られた場所ではなく,本来の使途があり,本来の目的を持った利用者がたくさん訪れます。観察の際は,他の利用者の迷惑にならないよう心がけるのはもちろんのこと,その場所を維持管理している人たちがいることもお忘れなく。いつも以上に,観察マナーに気を使い,その場所を荒らすことの無いよう,お願いします。


(2002年4月10日記)

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