ガリレオの見た空


 御存知,ガリレオ・ガリレイ。
 彼が,発明されたばかりの望遠鏡を空に向けたことから,近代天文学の幕が開いた,と言っても大袈裟ではありません。望遠鏡と言う新しい道具を使って見た星空は,彼の眼にどのように映ったのか?デジカメで,ちょっとだけ追跡してみましょう。

 ガリレオの使った望遠鏡は,対物レンズに凸レンズ,接眼レンズに凹レンズという,たった2個のレンズを組み合わせたもの。これは後に「ガリレオ式」と呼ばれる光学系で,今でもオペラグラスには,ガリレオ式光学系が使われています。現在,もっとも一般的に使われている屈折望遠鏡(=凸レンズで光を集め,さらに凸レンズ系で拡大して像を結ぶ望遠鏡)の基本デザインは,ケプラーによって作られたので,「ケプラー式」と呼ばれます。双眼鏡,フィールドスコープはもちろん,EDガラスのレンズやフローライト(蛍石)レンズを組み込んだ,高性能の天体望遠鏡も,基本はケプラー式。ガリレオ式望遠鏡はケプラー式に較べ,高倍率を出しにくく,収差(レンズの特性上,どうしても出てくる焦点部の誤差)を補正しにくいので,今では倍率2〜4倍のオペラグラスに使われる程度ですが,ガリレオの時代は「ケプラー式望遠鏡」の発明されるずっと前。それでも,ガリレオの使った望遠鏡は,口径(対物レンズの直径)約3cm,倍率は30倍ぐらいあったと言うことです。今の30倍の望遠鏡に較べると,はるかに性能は劣っていると考えられます。

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 私の手元に,何かのプレゼント商品でもらった,オペラグラスがありました。これはまぎれもなくガリレオ式望遠鏡。レンズもダイキャストもプラスチック製ですが,光学系は,ガリレオの時代と同じ。これで少々遊んでみました。

 まずは,比較のため,デジカメ(QV-8000SX)の望遠めいっぱいで,月を写してみます。

 原画の拡大率を変えずにトリミングしました。このフレームサイズだと,35mm判カメラの1280mm望遠に相当します。このぐらい拡大すると,デジカメ単体でもクレーターが写ります。大した性能です。

 次に,このデジカメで,さきほどのオペラグラスが捉えた像を撮影してみます。

 さきほどの写真と拡大率は同じです。オペラグラスの倍率は2.5〜3倍ぐらいでしょうか。
 確かに画像は大きくなりましたが,周辺に色がついたり,ピタッとピントが決まりません。
 少しだけアンシャープマスクをかけて調整してみましたが,これ以上改善しません。
 このあたりが,「おまけ」でもらったオペラグラスの実力の限界でしょう。


 ガリレオが望遠鏡を月に向けたときにも,月の表面にデコボコがあることを発見しています。
 それまでの西洋人の宇宙観は,宗教の影響が強く,天空にあるものは完全無欠で調和の取れたものでなくてはいけない,と言う観念が強かったようです。したがって,真円ではない彗星のような天体の出現は,不吉なものとされ,星々の間を動く惑星も,怪しいものとして注目を浴び,それらは占星術の恰好の対象となっていたわけです。……そこに,「月は完全無欠の円ではなく,“あばた”がある」と言う発見ですから,さぞかし,インパクトがあったことでしょう。

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 ガリレオと言えば,木星の衛星の発見者としても有名です。
 現代の道具…デジカメで,木星の衛星にチャレンジしてみましょう。

 QV-8000SXにテレコンをつけ,めいっぱいズームして1秒露出。
 画像の拡大率を変えず,320×240ピクセルにトリミングしました。
 これで,35mm判カメラの2000mm望遠に相当します。
 木星の本体は露出オーバーで真っ白ですが,その左右に,衛星が3つ写っています。本当は衛星が4つ写るのですが,このときは,1つは木星の陰に隠れていました。2000mm相当と言うことは,標準レンズ(50mm)の40倍にあたります。望遠鏡などを使わずに,デジカメとテレコン1本で,ここまで写ってしまうんですね。
 木星の周りには,たくさんの衛星が回っていますが,特に大きく明るいのが4つあり,これを「四大衛星」と呼んだりします。ガリレオも,この衛星を見つけ,それが木星のまわりを行きつ戻りつしているのをスケッチしています。まさに太陽系のミニチュア。この観察が,「地動説」の大きなヒントにもなったのではないでしょうか。
 木星の四大衛星のことを,「ガリレオ衛星」と呼んだりしますが,実はこの衛星の名前(内側からイオ,エウロパ,ガニメデ,カリスト)の命名者は,ガリレオではありません。ガリレオは「メディチ家の星」と名付けていますが,これはその後認められませんでした。

 ガリレオは土星も観測しています。しかし,彼の残したスケッチは,あるときは「三つ子の星」だったり,あるときは串団子のようだったり,あるときは単純な球形だったり。……彼の望遠鏡では,環があることが確認できなかったようです。土星の輪の傾きは年々変化します。そのため,輪が大きく傾いて見える時期には「三つ子の星」になり,環がほとんど真横を向いてしまうと,輪が見えなくなってしまったようです。

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 さて,ガリレオは,太陽も観測しています。
 望遠鏡で太陽を見たら,目が黒焦げになってしまう!……しかし,彼は太陽黒点も見ていたのです。伝承によれば,ガリレオは,朝夕の,太陽が地平線ギリギリにあるときを狙って観測したらしいのです。
 そこで,デジカメで夕陽を狙って,黒点が写るかどうか,試してみました。

 ちょうど2000〜2001年頃が太陽黒点の極大期に当たるので,チャンスだと思ったのですが,残念ながら,この日は大きな黒点が出ていなくて,うまく黒点を捉えることが出来ませんでした。太陽の右のほうにある黒い線は,地上のアンテナです。
 大きな黒点が出ると,このような夕陽の中に,肉眼でも黒点が見えることがあります。夕陽や朝日を見るチャンスがあったら,ちょっと気にして見てください。
 ……それにしても,これだけ地平線に近い太陽は,厚い大気を通して観測しているわけで,大気の影響で,太陽の形がゆがんで見えているような状態ですから,精度の高い観測は,まったく出来ませんね。


 せっかくですから,デジカメで,ちゃんと黒点を写してみたくなりました。
 あえて望遠鏡を使わず,デジカメ単体で狙います。
 太陽の地平高度が高くて,大気の影響を受けにくいときに,減光フィルターをレンズにかぶせて,撮影しました。


 デジカメのズーム目一杯+1.6倍テレコンでに,自作減光フィルターをかぶせて撮影。
 サイズ変更はせず,トリミングのみで,このフレームサイズなら,35mm判カメラの2000mmに相当する望遠です。
 中央よりやや右下に,黒点群が2つ見えます。
 太陽の地平高度が高ければ,実にあっけなく撮影できてしまうのですね。

 減光フィルターは,露出倍数1万倍ぐらいの,真っ黒なものを使わなくてはいけません。天文雑誌などを見ていると,ND400(露出倍数400倍)に,濃い色のフィルター2,3枚を重ねて撮影している例が多いようです。私はフィルターを買うのが面倒だったので,黒焼きしたモノクロのフィルムを利用しました。コピー用フィルムやX線用フィルムに,何段階か光量を変えて感光させ,現像すると,簡単な太陽用の減光フィルターが出来ます。これは日食観測にも便利です。カラーフィルムや,ネガカラーフィルム用の現像システムで現像するタイプのモノクロフィルムの場合,黒い部分は銀粒子ではなく色素で,赤外線を通すので,これをサングラス代わりにして太陽を見ると,目に悪いので注意してください。。

 ところで,ガリレオは,晩年には目を悪くしたそうです。その原因が,無理な太陽観測のためだったのかどうかは,わかりませんが……。


(2000年11月23日記)

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