浮気をしないモンシロチョウ


 モンシロチョウは,街でも郊外でも,いちばんふつうに見られるチョウの1種です。
 でも,よく観察してみると,いろいろな発見があります。



 葉の裏にとまってひとやすみ。これは春型のメスです。
 モンシロチョウは南関東あたりでは,年に4〜5回ぐらい,羽化しているようです。
 春,冬越しした「さなぎ」から出てきたチョウは「春型」で,「夏型」にくらべると,やや明るい色で,模様がハッキリしていて,オスは羽の表の黒い斑点がありません。
(詳しい識別に関しては,図鑑を読んでください)

 モンシロチョウは,図鑑には,羽の付け根の黒ずんでいる部分が多いのがメス,少ないのがオス,と書かれています。でも,モンシロチョウどうしでは,もっとハッキリとオスメスのちがいが見えているようです。
 昆虫には紫外線が見える種類が多く,モンシロチョウも紫外線が見えています。モンシロチョウの羽は,メスは紫外線をよく反射しますが,オスは紫外線を吸収しています。ですから,モンシロチョウの目には,メスは明るく光って見えていて,オスはちょっとくすんだ色に見えているようです。
 紫外線を吸収すると,その補色として,青緑色が目立つ,という話です。
 実際,モンシロチョウのオスとメスをくらべてみると,オスのほうが,やや青緑色っぽい,「蛍光色」のように見えます。よく観察して,ちょっとコツをつかむと,飛んでいるときにも,この色のちがいがわかります。オスはメスよりも鮮やかな白……「蛍光ホワイト」に見えますから,チャレンジしてみては?
 この色調のちがいは,スジグロシロチョウでもわかります。

 さらに,羽の色を見ないでモンシロチョウ(&スジグロシロチョウ)のオスメスを識別する方法もあります。
 モンシロチョウ(スジグロシロチョウ)のオスは,羽に,かすかに酸っぱい匂いがあります。
 詩人のサトウハチローが,詩集「もずが枯木で」の中に収録した詩に
 「もんしろちょうちょとレモンパイ おんなじ匂いと歌ってた ……」
 という記述があります。モンシロチョウに匂いがあることを知っていたんですね。身近な虫とよく遊んで,よく観察していたのでしょうね。
 この識別法は,目の不自由な方と自然観察をするときにも,けっこう役立つテクニックなので,そのような機会のある方は,ぜひ,試してみてください。


 さて,このモンシロチョウは,どうしたのでしょう?

 羽をひっくり返して,おしりを持ち上げて……。
 羽の付け根が黒っぽいので,これはメスですね。

 これは,交尾を拒否するポーズです。
 この格好をすると,オスは交尾したくてもできません。
 モンシロチョウのメスは,いちどオスと交尾をすると,もうオスを受けつけません。
 オスが近づくと,このようなポーズをとって,拒否するのです。


 ……なるほど,近くにもう1匹……。

 …でも,最近の研究では,オスがしつこくアタックすると,再交尾してしまうメスも観察されているんだそうです。
 複数のオスと交尾するのは,トンボに見られますが,大部分の昆虫は,メスは交尾を1回しか受け付けないようです。種類によっては,一度交尾すると,二度と交尾できないよう,メスの交接器をふさいでしまう虫もあります。

 虫は,いろいろな手段で,情報伝達をしています。ミツバチがダンスで蜜のありかを教えたり,コオロギが羽をこすり合わせて鳴いて,メスを呼んだり……そしてモンシロチョウは,色と動きで,仲間と「会話」をしていたのです。

 身近な生き物でも,くりかえし観察していると,さまざまな発見があります。


(2000年4月25日記)

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