星を見る道具を選ぶ …「使える道具」こそ,最良の道具…


Step 1 まずは双眼鏡をおすすめします
Steo 2 はじめて望遠鏡を選ぶときの注意
Step 3 こんな道具はいかが?


 Step 1 まずは双眼鏡をおすすめします

・双眼鏡は肉眼の延長

 星を見る道具と言えば,真っ先に思いつくのが天体望遠鏡。でも,ちょっと待って!最近ではコンパクトで使いやすい望遠鏡もでてきましたが,やはり望遠鏡は組み立てたり操作に慣れるのが大変。
 気楽に星を見るなら,双眼鏡がいちばんです。

 星を見るための双眼鏡,と言っても,特殊なものではなく,普通の双眼鏡で十分です。
 具体的には,倍率が7〜10倍ぐらいで,手持ちで使えるもの。口径(対物レンズの直径)は,大きいほうが暗い星まで見えますが,大きく,重くなります。星の好きな人は,7×50(倍率7倍,口径50mm)の双眼鏡をよく使いますが,これは重さが1kg前後あります。確かに手持ち使用が可能な双眼鏡では,7×50がもっともよく見える部類に入るのですが,街の中ではその性能が生かしきれません。バードウォッチングなどに良く使われる,口径30〜40mmのクラスの双眼鏡でも,十分に楽しめます。このクラスだと重さも500g前後で,首や肩への負担が軽くなります。もっと小さい,口径20〜25mmクラスの双眼鏡でも,肉眼よりもはるかに多くの天体を見せてくれます。もちろん,星雲のような淡い光には弱いのですが……。

 双眼鏡の便利さは,なんと言っても,部屋から持ち出して,すぐに使えること。
 しかも,視野が広いので,見たいものを視野に導入しやすい。
 街の中ではなかなか暗い星が見えませんが,双眼鏡を使えば,肉眼よりも暗い星まで良く見え,星座の形を確認するのにも使えます。
 それに,「正立像」であることのメリット。
 天体望遠鏡で見る星は,上下左右がさかさまの「倒立像」。これに「天頂プリズム」(観測姿勢を楽にするために光路を直角に曲げるプリズム)を使うと,上下方向が正しく,左右方向が裏返しと言う状態になります。特に初心者にとっては,「見たまんま」の正立像のほうが,はるかに使いやすいのは言うまでもありません。

 それに,双眼鏡は望遠鏡みたいに収納場所で悩むことも無いですし,バードウォッチングなど,他の用途にも使えますから,天体望遠鏡よりも「死蔵」される危険性が低いと思います。

 星を見る道具をまず1つ買うなら,倍率が7〜10倍で,口径が30〜50mmぐらいの双眼鏡にしましょう。


・街の中で星を見るのに適した双眼鏡とは?

 ……ここから先は,もっと詳しいお話です。初心者の方は,スキップしても構いません。

 双眼鏡でどの程度,星が見えるのか?
 暗い星に関しては,望遠鏡と同じように,口径に依存します。
 理想的な夜空で,肉眼で見える最も暗い星は6〜6.5等星。
 口径30mmの双眼鏡または望遠鏡では,理論上,9.1等級,口径50mmになると,理論上,10.3等級の星まで見えます。(限界等級に関しては双眼鏡も望遠鏡も,理論的には同じです)

 そこで,街の中で星空に双眼鏡を向けた場合,どのくらい暗い星まで見えるのか,実験してみました。
 肉眼で見える限界が4.6等(都会としてはかなり良い状態)のとき,
 8×24mmの双眼鏡で7.8等,7×50mmの双眼鏡で9.1等星まで見えました。
 理論上,口径24mmでは肉眼の限界等級よりも2.6等級ほど暗い星が見え,口径50mmでは肉眼の限界等級プラス4.8等級まで見えることになりますが,8×24mmのほうは理論値を超え,7×50mmでは理論値ほど暗い星まで見えていません。7×50mmでは,光をたくさん集めることが出来ますが,人工灯火の多い都会の夜空では,星空のバックグラウンドの光も強調されて,暗い星が埋もれてしまいます。さらに,市街地では,せっかく集めた光を無駄にしている可能性があります。7×50mmは,瞳孔が全開したときの直径を基準に設計されています。口径(mmで表示)を倍率で割った数字を「ひとみ径」(または射出ひとみ径)と言いますが,人間の瞳孔が暗闇で全開したときの直径(=約7mm)が,理論上の限界となり,7×50の双眼鏡のひとみ径は 50÷7=7.1 で,限界ギリギリの設計です。しかし,周囲が明るい都会地では,観測者の目の瞳孔が全開しないため,せっかく集めた光を,眼が全部受け止めきれず,ロスが出ます。
 したがって,街の中で星を見る機会の多い人は,あえて大口径・低倍率の双眼鏡ではなく,ひとみ径が4〜5mmぐらいの双眼鏡でも良いと言うことになります。


・双眼鏡を選ぶとき,注意すべき点

 双眼鏡は,いろいろなメーカーから,いろいろなスペック,いろいろなデザインのものが出ていて,価格もいろいろ。どれにしたらいいのか,迷ってしまいます。
 基本的な選び方としては,まず,自分の欲しい倍率と口径を決めます。そして,できるだけ信頼できる,名の通ったメーカーのもの(カメラメーカーや望遠鏡メーカー)をリストアップし,最終的には実際に使ってみて,見え味や操作系の使い勝手を確かめて,購入します。また,メガネを常用している人は,カタログのアイポイント(アイレリーフ)の数字に注目してください。これは,接眼レンズからどのぐらい後ろに離れて,視野の全体が見渡せるかを示しています。メガネをかけていると,どうしても接眼レンズと目玉の間の距離が伸びてしまいますから,アイポイントの長い双眼鏡を選びましょう。おおよそ,アイポイントが15mm以上あれば,メガネをかけたままでも双眼鏡が使えます。
 月や惑星などを除けば,星は事実上,点光源です。点状のものがきちんと点に見えない双眼鏡は,すごく不満を感じます。また,月を見たときにゴーストが出る双眼鏡も,意外と多いのです。……つまり,「星が気持ち良く見える」と言うことは,双眼鏡にとっては,かなり厳しい条件なのです。こだわりだすときりが無いので(投資額も,きりが無くなります),お財布と相談して,自分の目が納得するものを選んでください。

 それから,最後にひとこと。

 高倍率ズーム双眼鏡だけは,絶対に買ってはいけません。

 Step 2 はじめて望遠鏡を選ぶときの注意

 「星を見る道具」として,望遠鏡が必ずしも必要なものではないことは,Step 1 で御説明しました。
 しかし,星に対する興味が広がってくれば,どうしても天体望遠鏡が欲しくなります。
 そこで,初めて望遠鏡を買うときに注意すべき点をまとめてみました。

・屈折式か反射式か?
 屈折式望遠鏡は,レンズで光を集めるタイプの,オーソドックスな望遠鏡です。一方,反射式は,レンズの代わりに凹面鏡で光を集めます。屈折式のメリットは,メンテナンスが楽なこと,望遠鏡の原理が直感的に理解しやすく,比較的操作性が良いことです。しかし,同じ口径(対物レンズの直径)を持つ反射式の望遠鏡に比べると,価格が割高です。また,屈折式望遠鏡はガラス材の中を光が通過するので,レンズがプリズムのようなはたらきをして,色の「にじみ」が目立つものがあります。「EDレンズ」や「フローライトレンズ」を使った望遠鏡では,この問題はほとんど解決していますが,高価なものになります。
 反射式は,入門用の価格帯のものは,ほとんどが「ニュートン式」と言う光学系で,接眼部(覗き口)は,鏡筒の前のほうにあり,横から覗くようなスタイルになっています。反射望遠鏡のメリットは,口径の割に安価なこと,色のにじみが出ないことなどがありますが,温度変化に弱かったり,メンテナンスに関して,屈折式よりも面倒な点もあります。
 最近では,レンズと鏡を組み合わせた,カタディオプトリック光学系の望遠鏡も,たくさん出回っています。代表的なのは,シュミット・カセグレン,マクストフ・カセグレンなどの光学系で,反射系の望遠鏡の弱点を,補正レンズでカバーしたものです。価格は屈折式と反射式の中間ぐらい。初心者向けにコンパクトで自動導入装置まで備えたモデルも出ていますので,10万円ぐらい出資出来るなら,検討してみてはいかがでしょうか?

・赤道儀か経緯台か?
 望遠鏡を支える架台には,大きく分けて2種類あります。
 1つは経緯台。オーソドックスな,上下・左右に望遠鏡を動かす架台です。しかし,星は,北極星近くの「天の北極」を回転軸にして,東のほうから南に向かって斜め上に動いてゆき,さらに斜め下に下がりながら,西の空へ沈む,と言う動きをします。これを簡単に追いかけられるようにした架台が,赤道儀。これは,天の北極に回転軸を合わせることにより,星の動きを1方向の回転軸の動きで追いかけられるようにしたものです。これにモーターを組み合わせると,自動的に星の動きに合わせて,星を追いかけてくれます。
 しかし,空の座標系が理解しにくいうちに赤道儀を使うと,大変使いにくいのです。それに,赤道儀の回転軸(極軸)を,きちんと「天の北極」に合わせてやらないと,赤道儀の本来の機能をじゅうぶんに発揮できません。赤道儀は経緯台に比べ,架台のセッティングが面倒なのです。
 ですから,初心者には,質の良い経緯台がベストだと思います。目的の天体が導入しやすい,しっかりした造りの架台で,微動装置がついているのが理想です。写真撮影をする場合,どうしても赤道儀が欲しくなってしまいますが,そうでない場合,経緯台の手軽さと機動力は,非常に魅力的です。眼視で惑星観測をしているベテランの観測者の中にも,熱烈な経緯台ファンがいます。
 きちんとしたメーカーの望遠鏡なら,まず,経緯台を買って,その後,架台だけ赤道儀に買い替えて使うと言う方法も可能です。ホームセンターや量販店で売っている安価な望遠鏡は,システムアップしにくいので,注意が必要です。

・100倍の望遠鏡と200倍の望遠鏡,どっちがいい?
 望遠鏡の性能は倍率ではありません。高倍率を「売り口上」にしている望遠鏡は,疑ってかかったほうが良いでしょう。望遠鏡の対物レンズの性能を超える倍率は,ボケた像を拡大するだけで,まったく意味のないことです。おおよその目安として,対物レンズの直径(ミリ数)の2倍ぐらいまでの数字の倍率(60mmの望遠鏡なら120倍)が限界です。口径150mmを超える大きな望遠鏡でも,200〜300倍ぐらいが,快適に使える限界です。しかし,レンズの性能が悪かったり,架台がグラグラだったりすると,その倍率すら,まともに使えない場合もあります。接眼レンズを替えれば,理論上は,どんな倍率でも出せるのですから,「使い物にならない高倍率」で,消費者を騙すような売り方をする望遠鏡は,買ってはいけません。
 むしろ,口径の大きい望遠鏡で低めの倍率を使って星雲,星団を眺めたときの感動は,すごいです!
 こう言う使い方を知ってしまうと,超高倍率が空しくなります。
 高倍率が使いたくなる場面は,月面のアップ,二重星,惑星の観測など,案外と限られているものです。

・どこで買う?どんなメーカーを選ぶ?
 少なくとも,よほどの予備知識と割り切りがない限りは,初心者がホームセンターなどで安価な望遠鏡を買うのは,あまりおすすめできません。出来れば専門店で,きちんと説明の出来るスタッフのいるところで買いましょう。望遠鏡メーカーも心得たもので,ホームセンター向けに,機能を落とした廉価版の望遠鏡を出荷している会社もあります。
 メーカーについては,いくつもあり,それだけで望遠鏡評論の本が出来てしまうほどですから,実際に天体観測をしている人や,専門店の人に聞いてみて,自分の希望する機能を持った望遠鏡を選ぶようにすると良いでしょう。天文雑誌の記事や,そこの天体写真コンテストに入選している撮影機材などをチェックしていると,どんな望遠鏡の評価が高いのか,だんだん見えてくると思います。

・使ってこそ!の望遠鏡
 望遠鏡は,使ってこそ,意味がある。そう言う意味では,気軽にベランダや庭先に持ち出して,星を見ることの出来る望遠鏡のほうが,ユーザーにとっては,「良い望遠鏡」だと言えます。どんなに高価で高性能の望遠鏡であっても,セットアップするのがおっくうになるようでは,宝の持ち腐れです。特に冬の寒い時期など,わざわざ家の外に出て星を見るのには,かなり強い意志と,「星を見たい!」と言う欲求が必要です。そんなとき,すぐにセットアップできて,気楽に星が楽しめる望遠鏡があれば,「星を見たい」と言う気持ちを,後押ししてくれます。
 ……そんな,「星を見る気にさせる望遠鏡」が,光学性能なんかよりも,ずっと大切なのかも知れません。
 望遠鏡を押入れの中の邪魔者にしないよう,がんばってください!

 Step 3 こんな道具はいかが?

・意外と使える?スポッティングスコープ
 最近では,バードウォッチャーの人口も,かなり増えています。それを反映するように,野鳥観察に使う地上用望遠鏡(スポッティングスコープ)も,コンスタントに売れています。ニコンの「フィールドスコープ」が,年間1万本以上売れるそうですから,このタイプの望遠鏡が,かなり普及していることが想像されます。
 野鳥観察用の望遠鏡は,ふつう,倍率は20〜30倍ぐらいで使いますが,60倍ぐらいまでのアイピースが用意されています。口径は60mmクラスが標準的で,大きいものは77〜82mm,コンパクトなモデルでは50mmぐらいです。中にはEDレンズやフローライトレンズを採用した上級機もあり,やや高価になりますが,普及価格の天体望遠鏡よりもはるかに優れた性能を持っています。
 スポッティングスコープの最大の特徴は,正立像であること。天体望遠鏡は,像の上下左右がひっくり返った「倒立像」で,初心者にとっては,あまり気持ちの良いものではありませんが,スポッティングスコープは,双眼鏡のように,ポロプリズムを内蔵し,正立像にしています。但し,プリズムは分厚いガラスですから,光量の損失や像の悪化も起こりやすく,そのため,天体望遠鏡では,あえて倒立像のままにし,精度を優先しています。……このあたりが,用途の違いによる設計思想の違いですね。しかし,倍率60倍ぐらいまでなら,スポッティングスコープでも,十分に「星を見る道具」として使えます。
 また,スポッティングスコープならではのメリットとして,気密構造になっている機種が多いことが挙げられます。夜露に濡れても内部まで水がしみないので安心です。また,接眼部が45度曲がったモデルもあり,これを使えば,空を見上げるときに,より楽な姿勢で観望が出来ます。アウトドアで自然観察を楽しむ人なら,昼間は野鳥観察,夜は天体観望,と言った使い方も可能です。
 しかし,天体用として使い勝手の悪い部分もあります。ひとつは,ほとんどのスポッティングスコープがファインダーを装備していないこと。30倍,40倍という倍率で,目的の天体を視野に入れるのは,正直,かなり大変です。また,一部の機種を除いて,アイピースが専用品になってしまいます。天体望遠鏡用の汎用のアイピースが流用できるスコープもありますので,天体望遠鏡をお持ちの方は,アイピースが流用できるスポッティングスコープを探してみては,いかがでしょうか?

 スポッティングスコープで天体を見たときの実力については,機種によってかなり差があるものの,25倍ぐらいのアイピースをつければ,土星の環もちゃんと確認できます。天体用に較べると,やや倍率が低いので,それを活かして星雲や星団を眺めてみると,視野も広々していて,なかなか楽しいものです。
 このサイトには,EDレンズ付きのスポッティングスコープを使って撮影した月や惑星の画像がたくさん出ていますから,「星を見る道具」として,どのぐらいの性能があるのか,想像していただけると思います。


・旅のお供に,小型双眼鏡はいかが?
 双眼鏡で星を見るなら,やっぱり口径の大きいものがいいのですが,口径50mmクラスになると,重さは1kg前後になってしまいます。この重さだと,長い時間,首に下げて空を見ていると,肩がこるのは間違いありません。旅行に持ち歩くのも,ちょっと大変です。そこで,あえて小口径の双眼鏡を,星見に使ってみることを提案します。狙い目は口径23〜25mmクラスのコンパクトな双眼鏡。重さも300gぐらいで,なんとかポケットにねじ込めるぐらいの大きさ。これを,旅行やキャンプ,登山など,あらゆる場面に連れて行くのです。空のきれいな場所だったら,口径25mmぐらいでも,驚くほどたくさんの星が見えます。メシエの星雲・星団カタログに載っている109個の天体のうち,半分以上は確認できるはずです。
 もちろん,大きな機材を持ち歩く余力がある人は,それを持って行くに越したことは無いのですが,たとえば仕事で出張したついでに,夜,ちょこっと星空を眺めてみるとか,ちょっとした空き時間に野鳥観察を楽しむとか,小型の双眼鏡を持ち歩いていれば,そんな楽しみ方も出来るわけです。


・いっそ,自分で望遠鏡を作ってみる?
 ……ここまで来るとマニアの領域かも知れませんけど,自分が使いやすい道具を自分で作ってしまうのも,「作る楽しさ」と言う点からも,ちょっとおすすめです。
 手頃な対物レンズと接眼レンズが手に入れば,小学校の工作ぐらいの手間と腕前で,月のクレーターなどが良く見える望遠鏡が作れます。ポイントとしては,工作精度のアラが目立たないよう,低倍率で視野の広い望遠鏡を作ってみることです。この手の望遠鏡は,RFT(Rich Field Telescope)として,アメリカなどでは手軽で楽しい星見の道具として市民権を得ています。レンズなどのパーツ類は,望遠鏡メーカーにもありますし,ちょっと大きな望遠鏡ショップへ行けば,いろいろと掘り出し物も見つかります。ジャンク品のレンズを組み合わせて,安上がりに星空を楽しむのも,愉快じゃありませんか?
 そこそこに良いレンズが手に入れば,結構良い見え味のものが作れますから,特に小中学生の夏休みの宿題などに,おすすめします。


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