ジャンクレンズでも良く見える,8cm短焦点屈折望遠鏡


掘り出し物のジャンクレンズ…

 望遠鏡ショップを時々覗いていると,掘り出し物にめぐり合うことがあります。今回作った望遠鏡の対物レンズも,ちょっとした掘り出し物です。
 たまたまコプティック星座館で見つけたジャンクレンズが,今回の主役。直径82mm,焦点距離400mmのアクロマートレンズです。隅っこに小さな欠けのあるレンズですが,なんと1500円!……即,買いです。
 家に帰ってから,このレンズの素性について,調べてみました。ミザールのジャンク品であり,通常のカタログに載っている品物と違って,2枚のレンズの間に隙間のある,分離式のレンズです。レンズの縁3ヶ所に錫箔がはさまっています。……このクラスの短焦点レンズは,大型双眼鏡用のジャンクが良く出るのですが,双眼鏡用なら,普通,貼り合わせレンズを使います。カタログをしげしげ眺めていると,……ありました。BN-80と言う,天体地上兼用の小型スコープ。80mmF5の対物レンズと言うことですから,おそらく,こいつのジャンクでしょう。もともと数の出ていない望遠鏡ですから,そのジャンクレンズも,かなり数は少ないことと思います。(2ヵ月後にコプティックに聞いてみましたが,私が買ったときに2枚入荷があったきりで,その後は出てこないそうです。もしかして,すごくラッキーだったのかも…)

 分離式の本格的なアクロマートレンズですから,双眼鏡ジャンクよりも良く見えると期待されます。


例によって,塩ビ管で…

 さっそく,使えそうな材料を求めてホームセンター巡り。定規を持って塩ビの水道管パーツをあれやこれやと採寸。VU75という太めの管に,レンズが収まりそうだったんですが,このVU75管は,ちょっと押すと,すぐにしなります。……精度的に不安……で,ちょっと外径は大きくなりますが,より肉厚の,VU75管を繋ぐための同径ジョイントと,VU75→VU65異径ジョイント,VU65→VU50異径ジョイントと繋ぎ,2インチホルダーをつけることで決着。



左から,VU75→VU75同径ジョイント,VU75→VU65異径ジョイント,VU65→VU50異径ジョイント。
外側にヤスリをかけたり,内側に艶消し処理をしたりしています。
左のジョイント内のリングに対物レンズを乗せて,セルにします。



上の写真の3つのジョイントを3段重ねして,鏡筒にします。

 それぞれのジョイントの貼り合わせ面を高精度に布ヤスリで磨き,内面に植毛紙を貼って艶消し処理をし,塩ビ用の接着剤でピッタリ合わせます。一番前のVU75同径ジョイント内には,少し内径を縮めて対物レンズをはめ込み,対物セルとフードを兼ねます。後ろにはVU50管を加工して作った2インチホルダーをはめます。デコボコを埋めて仕上げたのが,この姿。




 途中で太さの変わる鏡筒って,独特のデザインになりますね。
 むかーしの天文ファンなら,ビクセンの「オズマ80」とか,想像するかも。……もちろん,この望遠鏡のほうが遥かに寸詰まりですが……。
 対物セルである,一番前の同径ジョイントは,次のVU75→VU65異径ジョイントよりも外径が1mmほど細かったので,0.5mm厚の黒い塩ビシートを巻いてみました。黒いセルが望遠鏡らしさを演出していますね(笑)。

 この望遠鏡には,天体仕様と地上仕様があります。一番後ろの2インチホルダーが着脱式になっていて,光路消費の大きい地上プリズムをつけるときは,短い2インチホルダーに替えます。


上が天体仕様,下が地上仕様です。

 天体仕様の時は,長めの2インチホルダーに「2インチ→36.4mm変換アダプタ」をはめ込み,36.4mm天頂プリズム,BORGの直進ヘリコイドS,アイピースと繋ぎます。地上仕様の場合,2インチ→36.4mm変換アダプタの後ろは,直進ヘリコイドS,45°地上プリズム,アイピースとなります。天体仕様のほうは,ワイドタイプのアイピースが使えるように内径を確保してあります。地上仕様では地上プリズムが小さいので,見かけ視界50°程度のアイピースで我慢せざるを得ません。

 2インチホルダーの内径は52mmあり,2インチスリーブ(外径50.8mm)との隙間は,敷居スベリを貼って埋めています。敷居スベリを3ヶ所に入れると,かなり強い摩擦で押し込むことになり,そのまんまネジ止めせずに使えます。


天体仕様(左)と地上仕様(右)の2インチホルダー。
敷居スベリが貼ってあるのが見えます。


 重量は,本体が820g,天体仕様フル装備でも1.4kgほど。市販の望遠鏡より,だいぶ軽く仕上がっています。

 鏡筒バンドは市販品を使おうと思ったら,寸法の合うのがなかなか見つからなかったし,市販品はとても重かったので,塩ビで軽いものを作りました。


性能を検証してみる

 アクロマート短焦点と言うことで,あまり高倍率は期待していなかったのですが,16倍で土星の環がしっかり見えます。星像もきれいです。思いのほかシャープなのです。暗い星つぶの集まった散開星団などで,その真価が発揮されます。双眼鏡ジャンクレンズの6cm短焦点屈折では,これほどの星つぶは見えません。その代わり,光軸にはやや神経質で,ちょっと倍率を上げると,丁寧な光軸調整が要求されます。木星を40倍ぐらいで見ると,やっぱり青〜紫色のにじみが気になってきます。青がボケる分,木星本体が黄色っぽく見えるのも,アクロマート的と言えます。長焦点のレンズには劣りますが,双眼鏡ジャンクよりも遥かにシャープです。冬の天の川沿いの散開星団をいくつか眺めてみたら,とってもいい感じでした。

結論

 この望遠鏡,思いのほかシャープな星像に満足しました。しかし,高倍率では長焦点レンズに一歩譲るようですし,最新鋭のアポクロマートレンズと比べてしまうと,格の違いを思い知らされます。地上用に使っても,なかなかの高性能なのですが,フォールドスコープとしては,ちょっと大き過ぎるような気がします。大き目の口径と機動力を生かし,色収差の目立たない,15〜25倍ぐらいの低倍率で,星雲,星団めぐりをするのが,最も良い使い道でしょうかね。


→「あやしい天文工作室」へもどる

→表紙へもどる