フリーマウント+簡易赤道儀=お気楽観望システム


フリーストップ架台が嫌われる理由

 フリーストップ架台と言えばドブソニアン。当初,ドブソニアンタイプの望遠鏡は,より大きい口径のニュートン式鏡筒を,出来る限り簡易に動かす「大口径お気楽望遠鏡」として発達してきました。そのドブソニアンのマウントの本命が,フリーストップの経緯台。
 思い通りにスルスルと自由に動いて,ピタッと止まる上質のフリーマウントは,使った人なら誰もが認める,大変使い勝手の良いものです。しかし,高倍率を使うときには,頻繁に微調整して天体を追いかけなくてはいけません。ですから,フリーマウントに乗っける望遠鏡は,高倍率を使わない(=多少,精度が悪くても構わない)ものと言う考えもありました。その結果,フリーマウント→安物望遠鏡と言うイメージが付きまとっているようにも思います。フリーマウント自体,けっこう原始的でシステム化しにくいので,メカで武装した望遠鏡を好む人たちには,頼りない安物,あるいは発展性のない物にしか見えなかったと言う側面もあるかも知れません。

 しかし,現在ドブソニアンに使われている反射鏡は,そんな,「安かろう悪かろう」の品物でもありません。高倍率も難なくこなせる実力のミラーが多いのです。そうなると,高倍率時に使いやすい,微動機構が欲しくなってきます。また,天体観望会などで,多くの人に星を見てもらう場合,ちょこちょこ望遠鏡の向きを修正するのは,とても煩雑です。人に星を見せている10〜20分ぐらいの間,ちょこっとドライブできる機構があったら,便利です。
 ……そこで,フリーマウントにも微動機構……出来れば赤道儀がいい……をつけてみたくなるわけです。

 しかし,フリーマウントはもともとクランプを省略し,適度なフリクションでフリーストップを得ている架台ですから,マウント本体に微動機構を付けるには,少々工夫が要ります。それを根本的に発想を変え,フリーストップ機構とまったく別の場所に微動装置を作り,微動装置の上にまるごと,フリーマウントを乗せてしまおうと言う発想で,簡易赤道儀システムを構築してしまえば……。

 このような簡易赤道儀テーブルは,アメリカの天文関係のHPにはかなりの作例が出ていますし,電動化されているものがあったり,市販品もあるようです。さすが,ドブソニアンの普及している国です。

 実はこの手の簡易赤道儀,私は20年ぐらい前に作ったことがあります。当時,口径10cmの鏡でミニサイズのドブソニアンを試作して,ちょこちょこ使っていたのですが,観望会で人に星を見せるときにどうしても使いにくく,台座の下に簡易赤道儀を仕込むことを考えたのです。当時,簡単に星座写真を撮影する道具として,板切れとネジや蝶番などを使った,超簡易な赤道儀……「星空撮影架台」なんて呼ばれていました……が雑誌で時折紹介されていたのですが,それにヒントを得て,ドブソニアン用簡易赤道儀のデザインを考えました。簡易赤道儀の厚さをドブソニアンのフォークアームの幅と揃え,キルトのバッグにぴったり収納して持ち運べるようにして,「電車で持ち運べる10cm反射赤道儀」となりました。この簡易赤道儀つきミニドブソニアンは,1983年か84年頃の「SKY WACHER」誌の「ドブソニアンコンテスト」に応募したら,ちょこっとご褒美をもらって,誌面に紹介されました。このミニドブソニアンはもう,解体してしまいましたが,簡易赤道儀のノウハウは手に入りました。

 さて,屈折望遠鏡でも眼視用途であればフリーマウントが使いやすいじゃないか,と気づいた昨今,再び「フリーマウント」+「簡易赤道儀」の発想が再燃しました。20年前のミニドブソニアン用簡易赤道儀テーブルをアレンジして,屈折用フリーマウントにも簡易赤道儀を仕込んでみよう,と言う試みです。


脚周りの見直し

 まずは脚周りの強化を図ります。フリーマウント部だけならカメラ用の大型三脚で十分ですが,赤道儀を仕込むとなると,負荷が増加しますから,専用の三脚を作りました。



 全景です。19mm×38mmで長さ90cmの角材(1本55円)を9本使って伸縮脚に仕上げました。脚の先にはエアコン室外機用の防振ゴムの薄板を貼っています。脚長は90〜130cmまで変えられます。三脚の開き止めはベニヤ板で作ってあり,それを補強する形で三角板をネジ止めする構造になっています。三角板はもちろん,小物置き場として使えるように考えて,縁をつけています。



 三脚のトップは6角形の板で,M6ネジ3本でフリーマウントと接続します。

 乗っている鏡筒は8cmF5です。
 バランス用に,水を入れたペットボトルを乗せています。


簡易赤道儀を挟む

 フリーマウントと三脚の間に挟む形で,簡易赤道儀を入れることにしました。
 簡易赤道儀をつけると,こんな形になります。



 簡易赤道儀の厚さは10cm。幅27cm,奥行15cmです。



 フリーマウント部をはずして,赤道儀部のアップです。
 三脚との間はフリーマウントの接続と共用化し,M6ネジ3本で接続しています。

 左のノブスターのついたボルトが微動ハンドル,右のほうにチラッと見える蝶番が極軸になります。蝶番は当地の緯度に合わせて傾斜していて,これを方位磁石で北のほうに向けると,北極星の見えない場所でも大体の極軸合わせが出来ます。天板にはフリーマウント部の水平回転軸となるM8ネジが出ていて,滑り板としてCDを貼り付けています。このCDと「カグスベール」の摺り合わせで,スムーズな水平回転を得ています。CDの素材はポリカーボネートで,平面性が良くて耐久性のある硬質プラスティックですから,小型のフリーマウントの水平回転軸に使うと,けっこう気持ち良く回転してくれます。但し,直径が12cmですから,あまり大きな架台には使えません。

 この天板のどこかに,カメラ用の雲台をくっつけることも検討中です。標準レンズぐらいなら,数分間程度のガイド撮影が出来るはずです。




 さて,この赤道儀の仕組みなのですが,極軸である蝶番の回転を微動ハンドルでコントロールしているだけです。微動ハンドルの,ネジが緩む方向に回すと,蝶番より上の部分の自重(実際にはフリーマウントと鏡筒が乗るので,最大4kgぐらいの負荷がかかる)で,日周運動の方向に傾いて行きます。極軸と微動ハンドルの間の距離は,ハンドルを1分で1回転させれば星を追尾できるように設定してあります。
 この計算は三角関数の計算できる電卓があれば簡単です(Windowsのアクセサリの電卓でもOKです)。微動ハンドルのネジのピッチ1つ分が日周運動の1分間(=0.25°)の回転になるようにしてやります。
 計算式はこうなります。

   (蝶番〜微動ネジ先端までの距離) = (ネジのピッチ) ÷ tan0.25°

 この簡易赤道儀では微動ハンドルにM6ネジを使っていますから,蝶番とネジの間は229.2mmにしています。
 ISO規格のM5ネジならピッチは0.8mmですから,183.3mmの間隔を取ればOKです。
 また,微動ハンドルのを2分で1回転させるように設計すると,この数値の半分の距離になります。
 この微動装置を自作される方は,この計算を参考にしてみてください。


自由な発想で赤道儀を作ろう

 さて,この簡易赤道儀の運用結果は……と言いたいところなんですが,完成ほやほやなので,これから運用開始です。
 この機構自体は,20年前に自作した物と,基本的な部分は同じなので,まぁ,細かい手直しをすれば,すぐに順調に動かせるようになると思います。
 どこかの観望会などで,実際にこのシステムが便利に使える場面を体験してみたいものです。


 ところで,日本で市販されている赤道儀って,ほとんどがドイツ式かその変形タイプ,一部にはフォーク式などもありますが,案外,バリエーションが少ないように思います。赤道儀って,もっと柔軟な発想で,いろいろなデザインの物が考えられるはずです。経緯台をエイヤッ!と,その土地の緯度に合わせて傾けるだけでも,赤道儀として機能します(もちろん,重量バランスは考えなくてはいけませんけど)。しっかりした極軸(回転軸)と微動装置さえあれば,そこそこの赤道儀になる,と言うぐらいの気持ちで,気ままに,自由に,デザインを考えてみるのも,楽しいと思います。超望遠の写真撮影をせず,観望中に対象が視野から逃げない程度の精度であれば良い,と言うレベルなら,簡単に作れて,使いやすくて楽しいデザインの赤道儀が出来そうな気もするのですが,いかがでしょうか?


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