「広角とハイアイの妥協点」アイピース


相反する命題

 古典的設計のアイピースでは,焦点距離が短くなるほど,アイレリーフが短くなります。
 アイレリーフが,アイピースの焦点距離の何%,というラインがあるので,設計を変えずに焦点距離を縮めれば,アイレリーフも縮みます。それを,バーローレンズ内蔵みたいな設計で回避させる手法が,最近のLVとかXWとか言った,新設計アイピースに見られます。

 しかし,ここまで凝った設計をされると,自作でその真似事をしようと思っても,絶対に出来ません。
 自作アイピースの場合,ガラクタレンズの寄せ集めで,古典的設計のアイピースに似たようなレイアウトで,そこそこに使えそうな組み合わせを「現物合わせ」で選んで組み上げているだけなので,レンズの配置に関しても,レンズの選択に関しても,古典派のアイピースの模倣みたいなことから作り始めています。したがって,古典的設計のアイピースで問題となる点については,同じように悩むことになっています。

 たとえば,広角型を目指して見かけ視界を稼ぐと,アイレリーフが縮み,色収差や像面歪曲に悩まされる。中心像の切れ味を重視すれば視野が狭くなる。
 出来合いの,ガラクタレンズの転用で作っている以上,そんなに奇抜なことは出来ません。それに,アイピース用に作られたレンズではないものを寄せ集めているのですから,劇的に素晴らしいものが出来るのは,ほとんど,まぐれ当たりみたいなものです。

 そんな条件の中で,市販品に似たものを作っても面白くないので,オンリーワンを狙って,いろいろと考えてみるわけです。

 今回,考えたのは,「そこそこワイドでありながら,アイレリーフが十分にあること」。
 結構難しい問題です。
 どの辺で妥協したのか,どの辺をがんばってみたのか,まぁ,現物をご覧ください。

焦点距離の長さは七難隠す

 ……この話,対物レンズのときにもしていたような……。

 でも,アイピースにおいても,長焦点は作りやすい。低倍率なのでごまかしが利く,アイレリーフが稼ぎやすい,工作が楽。その一方で,ワイド化しようと思うとスリーブの内径によって制約を受ける(だったら2インチサイズで,と言われそうですが,アメリカンサイズのほうが使用頻度が高いので…)。さらに,硝材,レンズの曲率に関しては,ほとんど選ぶことが出来ない,という制約もあります。

 そこで,8cmF5の対物と組んで,有効最低倍率に近い倍率を出して,アイレリーフを稼ぎつつ,出来る限りワイドにする,という方針で,作ってみました。




 これが全パーツです。
 レンズは3群4枚。対物寄りに41mm径の双眼鏡ジャンクのアクロマートレンズ,眼レンズは30mmF1.5という強力な片凸レンズ。さらに,真ん中に度の強い大きな凸レンズを入れ,ワイドアイピース設計の基本形を踏襲しています。イメージとしては,「ケーニヒもどき」のデザインで長焦点のアイピースを作り,その中に,ワイド化のための度の強いレンズを挟むことで,適度な焦点距離と見かけ視界を稼ぎ出しています。
 強いて言えば「ワイドケーニヒ」(笑)。


 組み上げたものが,これ。



 太いです。アメリカンサイズ(=31.7mm)のスリーブで,最大径41mmのレンズが収まっているのですから……。
 外装は塩ビですが,アルミテープを巻いてみました。塩ビよりは高品位に見えるかな?などと思ったのですが,チョコレートの銀紙を巻いたような姿に…(悲)。

 スペックは,焦点距離32mm,アイレリーフ22mm,見かけ視界は60度を少し超えていますが,残念ながら,視野の外周部はスリーブによるケラレが発生し,周辺減光が認められます。ケラレの無いエリアを実用範囲とするなら,実用的には60度弱かな……。アイレリーフは長いですが,レンズを押さえるためのパーツの都合で,見口から4mm近くレンズが引っ込んでいますので,実質,眼鏡使用者のための余裕は18mmぐらいです。

使ってみる

 まず,第一に,覗きやすい。この点は上手くいきました。視野の抜けも上々。広さも,こんなもんでいいかな,と感じられる程度に広い。まぁ,「そこそこ広くてそこそこアイレリーフが長い」と言う命題には,一応の回答が出せたと思われます。
 しかし,色収差が結構残っています。短焦点の対物と組んでも,長焦点の対物と組んでも,色収差の出かたにあまり差がありません。歪曲はそれほど気にならないレベルですが,あります(悲)。まぁ,どちらも,星を見ているときには,それほど気にならないので,これで良いことにしましょう。


  「お気楽観望会」で,初代自作エルフレもどきワイドアイピースとの比較をしてみたところ,覗きやすさと,覗いてみたときの,ぱっと見の明るさや抜けの良さで,こちらに軍配を上げる人と,収差の少なさと広角の魅力で,初作の「エルフレもどき」に軍配を上げる人と,意見が分かれました。概して,眼鏡使用者にはこちらのほうが気に入ってもらえるようです。
 もちろん,市販品と比べたら,色収差が目立つので,あまり勝負にはなりませんがアイピースのような,バーロー継ぎ足しタイプのハイアイ型に比べて,中心像の抜けの良さは勝っています。シンプルなレンズ構成の優位点でしょう。しかし,真ん中のレンズが無コートなので,月を見ると,うっすらとゴーストが出ます。

 このアイピースの最終的な用途は,8cmF5望遠鏡をファインダーなしで運用するための秘密兵器なのです。このアイピースをつければ実視界5度近くなりますから,望遠鏡自身がファインダーになってしまうのです。そのための低倍率,ハイアイ仕様なのでした。フリップミラーを買って,ストレート側にこいつを付けっぱなしにすれば,かなり快適に観望できるようになるのではないかと……。

 ……焦点距離30mmぐらいのアメリカンサイズアイピースで,そこそこ視野の広いものって,ありそうで,意外と無かったんです。そこが自作の狙い目となったのでした。


おまけのお話。



材料の調達中に,こんなもん見つけました。
足場用鉄パイプのキャップで,32mm径のがあって,アメリカンサイズのスリーブがぴったり収まります。
単価は非常に安いので,まとめて買ってきました。


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