大口径デジカメ用2インチアイピース


高倍率ズームを装備したデジカメの魅力と弱点

 コンパクトデジカメ(一眼レフタイプのようにレンズ交換が出来ないモデル)には,高倍率ズームレンズを売りにしているものがいくつかあります。2003年現在,各社1モデルぐらいは,そんな機種が出ています。光学6倍〜12倍ぐらいのズームレンズがついていて,ちょっとした野鳥撮影ぐらいは,楽々とこなしてくれます。

 ズーム比の大きいレンズは何かと便利です。ビデオカメラの世界では,この手のズームを装備したモデルが主流です。これを惑星や月面の撮影に使うときも,ワイド側で導入して,ズームで一気に寄れば,焦点距離の長いアイピース1本で,いろいろと撮影できます(焦点距離の短いアイピースは,使いにくいものが多いですしね)。実際,カシオQVの8倍ズームモデルを長らく愛用し,惑星撮影に好結果を得ています。野鳥写真をやる人なら,スポッティングスコープと組んだコリメート撮影で,野鳥の顔のアップまで撮影できます。

 ところが,高倍率ズームにも弱点があります。コリメート撮影の場合,特にワイド側で,写野のケラレが大きく,丸い穴から景色を見て入るような写真になってしまいます。ひどい場合は節穴のような視界……。
 高倍率ズームレンズは,望遠側にしたときのレンズの明るさでレンズ口径が決まります。したがって,思いのほかレンズ径が大きい。一方,アイピース側から出てくる像は,アイピースの眼レンズの径を超える射出はありえない。また,デジカメ側のレンズのズーム機構の関係で,アイピースが広角型であっても,その視野全体を見渡せる位置よりも後ろにバックした位置から見ているような状態になっているために,ケラレが発生していたりします。
 また,レンズが重くて望遠鏡の接眼部への負荷が大きいのも気になります。

 最近,オリンパスのC-750を運用開始しました。光学10倍ズームを装備したデジカメですが,これはコリメート撮影に関しては,カシオQVよりも厳しく,ハイアイ型のLVアイピースを使っても,ワイド側では大きくケラレが発生します。せっかくの10倍ズームなのに,ワイド端で月の全体像を撮影しようと思っても,節穴から月を見ているような状態で,全くお手上げでした。月の撮れないデジカメだったとは,困ったものです。
 ……と言うことで,C-750のワイド側でも快適に撮影の出来るアイピースを,考えてみることにしました。

大口径ズームレンズを受け止めるアイピースの条件を考える

 大口径ズームレンズの特性を考えてゆくと,その機能を有効に使えるアイピースの条件も見えてきます。

 いくつか条件を考えてみました。

・あえて低倍率
 拡大率はズームレンズ側で賄えば良いのです。たとえ倍率5倍でも,最終的な焦点距離は,デジカメの最高ズーム倍率の5倍に伸びるわけですから,十分に効果があるわけです。肉眼で見るわけではないので,「射出ひとみ径7mm以内」と言う制限は,あえて無視します。

・アイピースも大口径
 コリメート法の場合,一旦,アイピースから出た平行光線を,無限遠にピントを合わせたカメラで受け取るわけですから,デジカメの口径と同等か,少し大きいくらいの眼レンズを装備してみたらどうだろうか,と言う発想です。単に,このほうがデジカメを接続しやすいと言う理由のほうが大きいんですが。

・アイレリーフが長いこと
 アイピースとデジカメのレンズの距離は短いほどケラレが発生しにくくなります。でも,大口径デジカメのワイド側は,ズーム機構の都合で,うまく行きません。だったら,アイピース側のアイレリーフを伸ばして,アイピースのほうからデジカメに近づくようにすれば,改善するはず。

・適切な見かけ視界
 アイレリーフと相反する命題である見かけ視界。思い切りワイド化すれば,アイレリーフが犠牲になって,ケラレが増大してしまいますが,せめて標準レンズの画角(対角線49°)を。クリアすべく,見かけ視界50°は確保したいところ。準広角レベルまで欲張るなら,60°ぐらい欲しくなります。

 この他にもいろいろ考えられますが,当面の目標として,超ハイアイで大口径の長焦点アイピースを作ると言う方針で決定。

レンズ選び

 C-750をコリメート撮影に使うためには,フィルターのつくネジを用意しなくてはいけません。カメラ単体では撮影時にレンズが飛び出すので,フィルターやコンバージョンレンズをつけるためには,アクセサリー取り付け用のアダプターチューブが必要です。メーカー純正品で55mm,サードパーティー製で52mmのフィルターネジのつくアダプターが出ています。
 そこで,アイピースの眼レンズには,市販のクロースアップレンズを流用します。フィルターサイズ55mmのクローズアップレンズを装備すれば,純正品なら直付け,サードパーティー品ならステップアップリングを介して簡単にカメラが接続できます。
 クローズアップレンズは焦点距離がディオプター表記,つまり,1000mm÷[記載の数字]で,レンズの焦点距離が出ます。No.2なら500mm,No.4なら250mmとなるわけです。「AC」の表記のあるものは2枚貼り合わせのアクロマートレンズです。アイピース用にはなるべく焦点距離の短いものが欲しいのですが,カタログを見ると,ACシリーズでいちばん短いのがNo.5(=焦点距離200mm),アクロマートでないものはN0.10(=焦点距離100mm)が最短です。No.5のレンズをぺったり2枚重ねしても,得られる合成焦点距離は100mm程度。アイピースとしては長すぎます。そこで,No.5ACを2枚,適当な間隔を置いて向かい合わせ「色消しラムスデン」のような構成を作り,2枚のレンズの間に,もう少し度の強いレンズを入れることで,「エルフレもどき」の構成とし,焦点距離の短縮と見かけ視界の拡大を狙います。この拡大用のレンズを物色している暇が無かったので,素直にクローズアップレンズのNo.10を買いました。買ってから気がついたのですが,No.10はNo.5を2枚並べてセルに収めているような,2群2枚構成でした。レンズ径(正確にはフィルター枠の外径)が同じなので,工作も楽だろうと思いつつ……。
 眼レンズ以外の玉をジャンクで賄えば,かなり安く作れるはずですが,今回は市販品を多用したので,材料費が8000円もかかってしまった……(カメラ屋さんのポイントが貯まっていたので,実質的にはレンズ購入費はかかっていませんけどね)。

 結果的に,レンズ構成は4群6枚と言う豪華(?)なものになりました。


 こんな感じのレイアウトです。
 左が対物側です。
 対物側から,クローズアップレンズNo.5AC,No.10,No.5ACの順で,前2つは逆向きに入れてあります。

作ってみる

 さて,工作です。例によって,見え方の良いポイントを「現物合わせ」で適当に決めてゆき,それに合わせてセルの工作をします。
 今回の構成は……視野レンズ側は,逆向きにしたNo.5ACとNo.10の2枚重ね。眼レンズはNo.5ACそのまんま。これを,VU50継ぎ手の内径を調整して艶消し塗装したレンズセルに,前後から押し込み,固定します。特に眼レンズはデジカメがぶら下がるので,フリクションによる固定では不安があるため,固定ネジを3点つけて,補強しています。
 対物レンズ側は,VU50管→ライト管と段階的に内径を小さくして,2インチパイプへつなぎます。外径2インチ(=50.8mm)のパイプは見つからなかったので,外径50mmのアクリルパイプにアルミテープを何周か巻いて,銀色に輝く2インチパイプを作っています。


 これでひとまず完成。比較のためにLV15mmにモデルさんになってもらいました。……でかい……。
 なかなかかっこいいでしょ。デザインがいいと,その気にさせますね。


 C-750に直結!シンプルで頑丈なら,それに越したことは無い。


欲張りオプション

 さて,このレンズ構成ですと,焦点距離は55mmとなります。BORG76EDに付けると,倍率は9.1倍。射出ひとみ径は8.36mmとなり,眼視用機材のセオリーから言うと,「ひとみ径7mm」を超えている,無駄な明るさと言うことになります(デジカメにとっては無駄ではありませんが…)。しかも,アイレリーフは38mmもあるのです。せっかく2インチアイピースを作ったのに,眼視で楽しく使えないのはちょっと面白くないので,本体の視野レンズの前に,双眼鏡ジャンクレンズを1枚入れてみたところ,適当に倍率と見かけ視界が向上し,なかなかの好結果を得たので,これを眼視用のオプションとして,作ることにしました。メインのレンズの入っているアイピース本体より対物側の部分を着脱式にして,デジカメ用(レンズ無し)と眼視用(補助レンズ入り)を使い分けます。


 こんな構成になります。対物側(左側)に直径52mmのアクロマートレンズを追加しています。



 本体の,青い帯を巻いた部分よりも対物側のパーツが分離します。


 デジカメ仕様(左)では黒帯,眼視仕様(右)では銀帯と言う色分け。


 参考までに,デジカメ仕様で340g,眼視仕様で440gあります。プラスチックを多用したはずなのに,あまり軽くありません。レンズの重さがすごいことになってます。直径50mm超のレンズが8枚入って440gと言うのは,外装がいかに軽く出来ているか,と言うことでもあるのですが,使う立場からすれば,正直,重いです。


使ってみる

 さて,実際に使ってみましょう。
 アクリル製の2インチパイプが軽すぎて,ちょっと頼りない感じがしますが,がっちりストッパーのネジを締めれば,何とかなりそうです。デジカメ仕様では,目論見どおり,ワイド端でも画像の四隅がちょっと暗くなる程度で済みます。これなら月もばっちり狙えます。BORGとの相性もまずまず。歪曲が少ないので,見た目はいい感じですが,像面のフラットさが,ちょっとあやしい。フラットナーレンズを追加したいところです。また,青系統の色収差が,視野の周辺部に出ます。この辺りの問題の解決のため,適度なメニスカスレンズが入手できたら,像面のフラット化にチャレンジしてみたいと思います。見かけ視界は,実視界の実測値と倍率から単純計算して52°。実用的には十分な性能です。


C-750ワイド端でのケラレの状況。標準レンズ相当(対角49°)なら,ほとんどケラレは無くなります。

 眼視仕様の場合,焦点距離45mm,アイレリーフ22mm,見かけ視界約65°となります。BORGと組み合わせて11倍,実視界ほぼ6°のRFTとなります。2インチサイズの恩恵を実感します。「デジカメ用」……などと言っておきながら,こっちのほうが楽しかったりして……。眼視仕様のほうが,完成度が高いですね。


 月を写してみました。像の平坦性に問題を残しつつも,このぐらいの実用性があります。
 欠け際を写野中央部に配置してピントを合わせていますが,周辺部でのピントのズレと色収差が目立ちます。
 眼視用途なら,この程度の甘さは許せるんですが,写真を撮影すると不都合が目立ちます。この辺りは改造の余地アリですね……。


デジカメのテレ端で撮ると,それなりにアップになります(トリミングして50%縮小しています)。


今後の展開は…

 使ってみると,いろいろと不都合が出てくるものです。当然,合焦位置もLVアイピースとかなり違ってきます(31.7mm用アイピースアダプタを外しますから,その分は確実に,ドローチューブの摺動部を動かさないといけません)。なるべくなら摺動させないでアイピース交換をしたいので,2インチホルダーで下駄を履かせて,なるべくLVに近い位置で合焦させる工夫をしたいと思います。
 2インチ天頂ミラーも欲しくなってきました。
 スリーブはやはり弱いですね。写真撮影のためにクランプを強く締めると,アルミテープに跡が残ります。外径2インチの金属パイプでも見つかれば,良いのですが……(メートル法でモジュールの出来上がっている国で,この要求は難しいかな……)。
 さらに,カメラがアイピース直付けなので,カメラを回転させるのが面倒です。ただでさえアイピースが重く,そこにデジカメと言う重量物がぶら下がるわけですから,ピント位置の再現性の良いカメラ回転装置があれば,装備すべきではないかと思われます。
 さらに,このアイピースに合う小型望遠鏡を作れば,かなりの機動力を持った超望遠撮影システムが出来そうです。


 細かい問題点はいろいろありますが,市販のクローズアップレンズで,かなり満足の行く2インチアイピースが製作可能だと言うことは,なかなか面白いことだと思います。また,ジャンクではなくマスプロ品を材料にしていますから,これを読んでいる方が,適当に真似して似たような物を簡単に作ることが出来るわけです。もちろん,材料費を切り詰めたければ,5cm双眼鏡の対物レンズのジャンクを利用して,これに近いスペックの物を組み上げることも可能だと思います(双眼鏡ジャンクのほうが焦点距離がやや短めになるので,作例よりも少し短いアイピースが出来上がります)。
 材料のかなりの部分を市販品に頼っても,市販の2インチアイピースより安価に仕上がると思います。低倍率の2インチアイピースが欲しいと思っている方は,ぜひ,お試しを。


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