シンプルな3枚玉ワイドアイピース


2インチアイピースの魅力

 現在,天体望遠鏡のアイピースのスリーブには,主として4種類の規格があります。外径24.5mm,31.7mm(1.25インチ),36.4mm,50.8mm(2インチ)の4種類で,このうち36.4mmはネジ込み式,残りは差し込み式です。31.7mmのサイズはアメリカンサイズとも呼ばれ,今はこのサイズが主流です。昔は24.5mmの通称ツアイスサイズがスタンダードでしたが,特にワイド系のアイピースでは,スリーブが太いほど有利な設計が出来ることから,ツアイスサイズよりアメリカンサイズ,アメリカンサイズよりは2インチと言った方向への流れが強いように思います。特に低倍率用のワイド系アイピースは,2インチサイズの独壇場と言っても良いくらいです。でも,例えばワイドスキャン20mmは,見かけ視界84°を31.7mmスリーブで実現していますから,設計のやり方もあるのでしょうけど……。
 低倍率,広視界で観望を楽しむなら,低倍率のワイド系アイピースが欲しいところ。このニーズにいちばん合致していると思われるのが,2インチサイズの長焦点アイピースです。

 しかし,2インチのシステムは,まだまだ高価。アイピースも,入門者向けの望遠鏡が買えてしまう位の価格のものが多く,それに合わせる天頂ミラーも高価。……だったら,2インチサイズのアイピースを自作したら,コストパフォーマンス的に面白いことになるんじゃないかな,などと思うわけで……。
 2インチが高くて買えないから作る,と言うのではなくって,超ローコストに2インチを作ったら痛快かな,と言う好奇心から,2インチアイピースの製作を,ちょっと考えてみたのですが……。


大きいレンズを!

 2インチサイズに近い筒は無いかな〜……と,物差し片手にホームセンター巡り。
 VU40塩ビ管が,外径48mm。これに塩ビの薄板でも巻きつければOKかな,と言うことで,決定。
 この内径が44mmですから,40mm級のレンズが納まります。さっそく,ジャンクレンズを物色……外径40〜42mmぐらいのレンズをいくつか買い込みました。あり合わせのレンズですから,後はもう,適当に組み合わせて,良さそうな組み合わせを選び出すしかありません。

 ……で,こんな組み合わせを作ってみました。



 持ち合わせのレンズが両凸レンズしかなかったので,なるべくワイドに,なるべく色収差を小さく,と言う目標で,この図のようになっています。イメージとしては,ハイゲンスやラムスデンなどのような,凸レンズ2枚構成のところに,度の強い大き目の凸レンズを挟み込み,見かけ視界を広げてやると言う発想です。結果,エルフレのワイド化の発想をラムスデンもどきの構成に持ち込んだような形になりました。

 VU40管にレンズを入れて仮組みしてみると,見かけ視界はほぼ90°あります! お〜,こりゃすごい。さっそく,6cmF4の対物と組み合わせて景色を見てみると……周辺視野はぐちゃぐちゃで,歪曲もかなり激しい……度の強い両凸レンズでは,周辺部がフラットにならないんですねぇ……(悲)。いくら広くても,使えない像質の部分が増えただけなのでは,どうしようもありません。

結局,絞って……

 これ以上改善が望めない所まで来てしまったので,崩れた視野は潔く切り捨て,絞ることにします。見かけ視界70°ぐらいまで切り詰めると,絞り環は約30mm……だったら,2インチスリーブも要らないんじゃないの?……と言うわけで,31.7mmスリーブをくっつけました(やれやれ……)。

 完成したのが,これ。



 40mm径のレンズが入ってますから,太いです。重量は135gあります。イメージ的に,ペンタックスXLシリーズみたいな武骨なデザイン。部分的に無塗装にしていますが,わざとそう言うデザインにしているだけで,手抜きではありません(^_^;)。頑張ってみた割には,案外平凡なところに落ち着いてしまいましたね。


 ビクセンLV15mmと並べてみました。太さが目立ちますねー。でも,LVより,ちょっとだけ軽いのです。LV15はレンズを7枚使ってます。ガラクタ3枚玉アイピースと比べたところで,設計コンセプトも品質も全然違いますからねぇ……。
 今回,スリーブの部分はビクセン製の31.7→36.4mmスリーブアダプターを使っています。しっかりしたスリーブで,レンズに不釣合いなほど質感が高いところが…。


使ってみる

 さて,射出瞳径の実測値から概算すると,焦点距離は25mm,アイレリーフが9mm,と言うスペック。実際に星を見て実測してみると,見かけ視界は70°少々。一応,「ワイドアイピース」と名乗れるものが出来ました。6cmF4と組むと,周辺に行くにしたがって,色収差が増えてきます。歪曲も結構残っています。8cmF5と組んでみると,色収差は多少改善しますが,歪曲も見えますし,星像も今一歩,ピンポイントになってくれません。……ん〜,厳しいなぁ……。

 ところが,BORG76EDと組むと,色収差が見えず,星像も結構締まって見えて,思いのほか快適です。さらに,6.5cmfl800mmと組むと,歪曲も目立たなくなってきます。……ははぁ,Fの大きい筒なら,結構,相性がいいのかも。こんなことなら,31.7mmに押し込まないほうが良かったか?とも思いましたが,まぁ,レンズ代数百円のアイピースなのだから,こいつのために1万〜2万円ぐらいかかる2インチ天頂プリズムを買うのも,なんとなくイヤだし……。コストパフォーマンスに免じて,31.7mmスリーブで良しといたしましょう。
 レンズは3枚ともコーティングの無いレンズなので,覗き口側から入る迷光に弱いようです。まぁ,星を見ているときにはあまり関係無いことだけど,昼間の使用では,ちょっと気を使うかも知れません。

 全体に,前作のワイドアイピースのほうがまとまりが良いように思いますが,凸レンズ3枚で何とか実用になるワイドアイピースを実現させた心意気だけは,評価してやってください。


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