デジカメ撮影用アイピースを作る


「デジスコ」って何だ?

 2002年,「デジスコ」がブレイク中。
 最近では野鳥愛好家のオジサマも知っている,この用語。いったい何者?

 ……実は天文マニアには常識の,デジカメ+スコープによる「コリメート式」による撮影のこと。
 原理は簡単で,望遠鏡を目玉で覗く代わりに,ピント位置を無限遠にしたカメラのレンズで覗いてシャッターを切るだけ。こうすると,望遠鏡の倍率分だけカメラレンズの焦点距離を引き伸ばして撮影できるのです。50mmのレンズを持ったカメラと20倍のスコープを組み合わせれば,50×20=1000mmの超望遠撮影が気軽に楽しめる,と言うわけ。

 昔からフィールドスコープで超望遠撮影をするためのオプションって,銀塩カメラ用,ビデオカメラ用など,細々とではありますが,メーカー純正品が,カタログに掲載されていたのですが,レンズの取り外せないデジカメで気軽に超望遠撮影が出来ることが野鳥マニアの間に知れ渡ってきたのと並行し,2001年以降,純正品,サードパーティー品を含め,さまざまなデジカメ撮影用のアダプターが発売され,一気にユーザーが増えてきました。
 もちろん,この「コリメート式」と言うテクニックは,昔からアマチュアの天体撮影にも使われていて,このサイトの月や惑星の拡大撮影も,この方法を使っています。実はビデオカメラのレンズの前にねじ込む「テレコンバージョンレンズ」も,低倍率(2倍前後)のガリレオ式望遠鏡で,コンバージョンレンズの拡大像をカメラで撮影するわけですから,原理的にはコリメート式の撮影法と言えます。

コリメート撮影に適したアイピースを考える

 さて,望遠鏡とデジカメによるコリメート撮影では,途中に何枚ものレンズを通すことになります。中でも,アイピースの選択は,この撮影システム中で唯一,光学系の条件の変えられる場所であり,重要なポイントです。アイピースの選び方で倍率が変わりますし,対物レンズやカメラレンズとの相性の問題もあります(一眼レフタイプのデジカメは,もうひとつ,カメラ側のレンズに着脱,交換と言う自由度がありますが,ここでは,レンズ固定式のコンパクトデジカメでの撮影を考えます)。

 ここでネックになるのが「ケラレ」の問題。デジスコ撮影してみたら,画面の四隅が暗くなったり,ひどい場合は,黒い画面の中に丸く切り取られた風景が写るだけ,と言う状態のこともあります。ケラレを減らすためには,望遠鏡のアイピースが結ぶ焦点位置に,カメラのレンズをできる限り近づけることと,見かけ視界の広いアイピースを使うこと。しかし,コンパクトデジカメには,レンズの前に保護ガラスがついているものが多く,カメラ側のレンズが望遠鏡に近づけません。そこで,望遠鏡側の焦点位置がアイピース後端よりも大きく後ろに離れるアイピース……つまり,アイリリーフの長い「ハイアイ」タイプのアイピースを選ぶようにします。さらに,見かけ視界が広いほうが有利なのですが,見かけ視界とアイリリーフは相反するもので,これを両立させるには,古典的な設計のアイピースではけっこう難しく,新設計の高価なアイピースに頼ってしまうことになります。
 私の撮影システムでは,BORGの場合はLVシリーズのアイピース(見かけ視界50°,アイリリーフ20mm),フィールドスコープではワイドアイピース(見かけ視界57.6°,アイリリーフ13mm)と言うアイピースを使っています。
 この選択でも,QV-8000と組んだ場合,ケラレが残ります。QV-8000/2800/2900のレンズは,ズームしたときにレンズが飛び出さなくて便利なのですが,要するに,保護ガラスの後ろにレンズを引っ込めた構造なので,アイピースとカメラレンズの距離が遠くなってしまい,ハイアイ型のアイピースでないと,大きくケラレるのです。

 そこで,超ハイアイのアイピースでも作ってみたら,どうだろうか?……と言うのが,今回のアイピース製作の目標。
 できれば,写真撮影に耐えられるよう,像の歪曲が気にならないようにしたい。像が平坦なほうが,眼視用に使ったときも,快適ですしね。見かけ視界も,最低でもLVの50°は目標にしたい。

 ……これで方針決定!

入手可能なジャンクレンズで,どうデザインする?

 今回のアイピースのテーマは,「ハイアイ&フラット」。
 しかし,例によって,目的に合致したレンズなど,入手できるわけ無いので,おおまかな設計コンセプトだけ考えて,それに近いジャンクレンズを探しに行くことにします。

 まず,アイリリーフを長く取るデザインを考えます。
 手元のLVのデザインを見てみると,広角タイプの代名詞であるエルフレのようなレンズ構成で度の弱い(=焦点距離が長くてアイリリーフが長く取れる)アイピースを作り,その対物レンズ寄りに凹レンズ系(対物レンズの焦点距離を伸ばす,バーローレンズのような構造で,この部分の度を強くすれば,アイピースのトータルの焦点距離が短くなる)を加えることで,アイリリーフを損なうことなく,所用の焦点距離を得ています。
 また,一番後ろの「眼レンズ」の度を弱くすることで,アイリリーフが稼げます。

 低倍率の双眼鏡などで,ケルナーないしはケーニヒタイプ,あるいはその変形のアイピースが使われ,アイリリーフを稼ぐ設計にしていますが,この辺のアイデアを盗むのも良さそうです。特に安価な双眼鏡の場合,コスト的制約のある中で,シンプルでハイアイなアイピースが作られているわけですから,このアイデアも拝借出来そうです。

 そこで……

 基本設計は「ケルナーもどき」とします。
 ケルナー式と言えば……



 左側が対物レンズ側の「視野レンズ」,右側が目玉/カメラ側になる「眼レンズ」です。
 ケルナー式は眼レンズを2枚玉にすることで,1枚玉×2枚のラムスデン式よりも,収差補正が良くなっています。
 この構成のまんま,双眼鏡に組み込まれているものもありますが,おおよそ見かけ視界50°です。アイリリーフはアイピースの焦点距離に比例する面がありますので,双眼鏡に使う低倍率用の長焦点アイピースなら,アイリリーフは確保されます。また,双眼鏡用のアイピースは,元々収差の発生しやすい短焦点対物レンズを持つ双眼鏡の設計においては,プリズムとアイピースを含めて総合的に収差を打ち消すように設計されているようで,その目的にもケルナー式ないしはケーニヒ式が使いやすいようです。

 しか〜し,自作の面白味の1つは,市販品にないものを作る楽しみ。
 単純に教科書どおりのケルナー式を作るのでは当たり前すぎて面白くないので(笑),結局,こう言うことにしました。



 視野レンズ側を2枚にして,その合成焦点距離で度を稼ぎつつアイリリーフを確保しました。一番対物レンズ寄りにメニスカス凸を配置して,フィールドフラットナーを兼ねます。両サイドのレンズの焦点距離は100mm,真ん中のレンズの焦点距離は80mm。レンズのゴミにピントが合わない位置で,像が最もフラットになる位置関係を実験しながら割り出し,アイピースに組み上げます。……なんといい加減な工作!!……あり合わせのレンズなんだから,ま,細かいことは気にしないでください。

 組み上げたのがこれ。



 右は比較用のLV15mmです。
 ラップの芯やトイレットペーパーの芯を使い,レンズを設計どおりの位置に配置,固定し,誠報社の31.7mm→36.4mmのスリーブアダプターにくくりつけてあります。LVと焦点位置を合わせたかったので,さらにBORGのプラ延長筒(直販価格200円!)を履いています。この状態で重量は60g。LVの半分以下です。この軽さなら,接眼部に負担をかけません。筒内の艶消しは,墨汁で済ませました(なにせ,紙ですから…)。外装は,望遠鏡を作ったときに余っていた,黒のカッティングシートです。
 実はプラ延長筒と本体の間に,凹レンズ(バーロー用)を入れるスペースを作ってあります。手元に用意してあった凹レンズをはめてみたのですが,焦点距離は1,2mmしか縮まず,アイリリーフが35mmになって,長すぎて覗きにくくなってしまいました。しかも,収差もやや大きくなり,凹レンズ面のゴミも見えてしまいます。もう少し度の強い,適当な凹レンズが見つかったら,もうちょっと試してみる予定。



 右がビクセンLV15mm。左の自作品は,アイリリーフが長いのにアイカップはありません。眼レンズも直径30mmをフルに活かしています。この辺りが,デジカメと組み合わせることを意識したデザインです。
 LVと較べると,コーティングが貧弱で,反射光が目立ちますね…。

性能を検証する

 では,性能の検証です。測定器具など持っていないので,簡易的に測定しております。多少の主観的な部分と数字の誤差はお許しください。

 アイピース全体の焦点距離は28mm。6cmF4鏡筒と組み合わせると,倍率は8.6倍,ひとみ径7.1mmです。ほぼ有効最低倍率ですね。
 肝心のアイリリーフですが,28mm確保されました。
 一方,見かけ視界は50度を少し越えるくらい。スペック的には標準的な視界でしょう。
 コーティングの良くないレンズが含まれるせいか,ゴーストが少し出ます。その主要な原因は眼レンズ側からの迷光なので,アイカップなどを工夫すれば,改善の余地はありそうです。
 視野はフラットで,視野の周辺でも像は歪みませんし,ピントも甘くなりにくいのですが,色収差が気になります。短焦点アクロマートと組むと,視野の中心から50%ぐらい離れると,青い色滲みがはっきり見えちゃいます。長焦点の対物レンズや,BORG76ED(F6.7)と組み合わせると,色収差は目立たなくなりますから,対物レンズとの相性の問題もありそうです。

 では,実際に撮影テストしたら……と行きたいのですが,まだ結果が出ていません。
 いずれ御報告したいと思います。
 当面は眼視性能の検証と,BORGと組み合わせた写真撮影を試みたいと思っています。

 さて,製作コストは……レンズが合計600円,スリーブアダプターが900円,延長筒が200円。紙筒は廃品ですから,ゼロ。お遊びのためのコストとしては,許せる範囲でしょう。

アイピースを気楽に作ってみませんか?

 自作アイピース第2弾,いかがでしたか?
 私自身,機械系の人間でも光学系のエンジニアでもありませんから,あまり難しいことは考えず,見よう見真似で試行錯誤を楽しみつつ,あくまでも「素人レベル」の発想で工作していますから,これをさらに真似して遊んでみるのも,簡単かつローコストで,いいんじゃないかと思います。その気になれば,ガラクタレンズは見つかるものです。私は「コプティック星座館」のジャンクコーナーをかき回して,1つ200円でレンズを調達していますが,廃品になったカメラや双眼鏡,プロジェクターなど,レンズが使われている「ゴミ」の中から,掘り出し物の良いレンズが見つかるかも知れませんよ。もちろん,虫眼鏡やルーペだって立派なレンズ。こうしたレンズを寄せ集めて,面白くてよく見えるアイピースが出来たら,痛快じゃありませんか。
 私は31.7mmスリーブの「アメリカンサイズ」でアイピースを統一しているので,小さ目のアイピースを作っていますが,もし,大き目のレンズが入手できるようだったら,2インチサイズのアイピースを作ることをおすすめします。市販の2インチアイピースは,安くても1万円ぐらいする高価なもの。これを数百円のガラクタレンズの組み合わせで作れば,抜群のコストパフォーマンスです。また,大き目のアイピースのほうが工作も楽ですしね。さらに,鏡筒まで自作してしまうなら,あえて31.7mmや2インチ径のスリーブにこだわることなく,自由な発想でアイピースが作れることになります。
 自由な発想で製作者の気持ちが具現化するような,楽しい望遠鏡工作が出来たら,最高じゃありませんか。


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