写真用ルーペでアイピース


ルーペとアイピースの関係
 実は,望遠鏡のアイピース(接眼レンズ)とルーペ(拡大鏡)は,ほとんど同じモノなんです。
 なぜって?
 今一度,望遠鏡の原理を考えてみましょう。

 ケプラー式望遠鏡の基本原理は,対物レンズ(凸レンズ)の焦点位置(主焦点)に出来る拡大像を,さらに虫眼鏡(=アイピース)で拡大して見ている,と言うものです。虫眼鏡を2つ組み合わせて望遠鏡を作る実験をしたことのある人もいると思いますが,あれと全く同じ理屈で,望遠鏡も双眼鏡(除・オペラグラス)も成り立っています。
 もちろん,像がクリアに見えて広視界な光学系を作るためには,虫めがねの対物レンズの代わりに,特性の違うガラスで作った2枚のレンズを組み合わせた「アクロマートレンズ」や,さらに高性能な「アポクロマートレンズ」などを用い,色のにじみ(=色収差)を抑えたり,アイピースも1枚のレンズではなく,2枚以上のレンズを使った,さまざまな設計のものが開発されています。
 アイピースにはさまざまな形式がありますが,その中でもケルナー型エルフレ型などは,ルーペとしても用いられる光学系です。これらは「正のアイピース」と呼ばれ,アイピースのレンズ群のすべてのレンズが,対物レンズの主焦点より後ろにレイアウトされます。顕微鏡の接眼レンズや廉価な望遠鏡に付属しているハイゲンス型のアイピースでは,対物レンズの主焦点位置が,アイピースを構成するレンズ群の中ほどに位置します(これを「負のアイピース」と呼びます)。アイピースは,対物レンズの主焦点の来る位置に絞り環をおきますが,ケルナー型やエルフレ型は,アイピースの対物寄りのレンズよりもさらに対物レンズ側に絞り環が設けられ,ハイゲンス型では,対物寄りのレンズと目に近いほうのレンズの間に絞り環を置きます。絞り環の位置に十字線を張れば,十字線にもピントが合いますから,この位置に拡大して見たいものを置けば,ルーペになるわけです(したがって,負のアイピースではルーペになりません)。

 実際,2枚以上のレンズを使った,倍率5〜15倍ぐらいのルーペの多くは,ケルナー型か,それに似た設計となっています。

 ……だったら,適当な大きさのルーペを望遠鏡のアイピースとして流用しみたら,使えるんじゃないかな?

実験してみました
 さっそく,手元にあった写真用ルーペを引っ張り出します。


 HAKUBA製,10倍ルーペ。
 プラスチックレンズ2枚をプラスチックの筒に収めた,ありきたりの写真用ルーペです。
 仕事場の近所にある写真店で,800円で買ったもの。
 これはもともと,ネガやスライドのチェック用なのですが,デジカメの拡大撮影などにも使っていました。ルーペのすぐ後ろにデジカメのレンズをピッタリあてがって,超拡大マクロ撮影が出来ます。

 これを,望遠鏡用のアイピースとして評価してみよう,と言うわけ。

 ルーペの外径は30mmぐらい。透明なスカートの部分は,34mmほどの直径がありました。
 レンズは2枚ですが,どちらもシングルレンズで,外側に出ている2面は平面です。内側はかなり強い凸レンズになっているようです。このルーペのシリーズには5倍,15倍の製品もあるのですが,レンズの曲率半径で倍率を変えているようです。
 設計としては「ラムスデン」に近い感じ?

 これを,適当にスリーブを加工して,望遠鏡のアイピースの代わりに使ってみると……
 まず,超ハイアイなのに驚きます。アイレリーフは25mmぐらいありそうです。レンズに目が近づきすぎると,視野の周囲がケラれて,狭くなります。さらに,通常使っていたオルソスコピックのアイピースに比べると,だいぶ後ろに合焦位置がずれます。これは,レンズと観察対象の間の距離を取る設計のため,絞り環を置くべき位置(=対物レンズの主焦点位置)が,オルソ系のアイピースよりも,さらに前方になっているためでしょう。この10倍ルーペの「アイピース」としての焦点距離は,30mmぐらいです。見かけ視界はかなり広いように見えました。少なくとも70度はあろうかと言う広さ。視野の中心部の像は思いのほか鋭く,「おおっ!」と思わせます。ゴーストに関しては,コーティングがないために,ちょこちょこ気になることがあります。シングルレンズのためか,視野の周辺ではかなりの色収差が見えますが,低倍率なら気にならないでしょう。

 こんな利用価値のあるものが,実売800円ですよ。
 ビクセンのハイアイ接眼鏡が1万数千円で売られている御時世に,価値ある800円! 800円なら,多少の色収差や周辺像の崩れは,目をつぶりましょう。800円で超ハイアイの広視界アイピースが手に入るなら,いいじゃありませんか。低倍率用途に割り切って,短焦点の対物レンズと組めば,そこそこに楽しめる望遠鏡が激安で作れると思いませんか? 双眼鏡用のジャンクレンズでも安く調達して,10〜15倍のルーペと組めば,教育的にも大変面白く,しかも,ちゃんと月のクレーターぐらいは見えちゃう実力を持った望遠鏡が出来るってことですよね。さらに,対物レンズを100円ショップの虫眼鏡で代用すれば,もっとお手軽に工作が楽しめます。このレベルの性能と価格なら,小学生の夏休みの宿題にもぴったり。

 ……いかがです? こういう星の楽しみ方も,けっこうイケルと思いますよ。


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