ネオ・日光写真


日光写真を憶えていますか?

 日光写真で遊んだ記憶のある年代は,おそらくは昭和40年代に子供時代を過ごした世代が最後かと思います。
 昔の日光写真は,駄菓子屋や学校の近所の文房具屋で売っているような,チープなおもちゃでした。厚紙製のホルダーに「種紙」と呼ばれた白黒反転した絵の描かれた原版を,印画紙の上に重ねてセットし,日光に当てて感光させ,適当に発色したところで水洗いして乾かすと完成!と言うもの。感光した部分が青くなるので,白黒が反転した図柄の紙を使って,焼き付けていたのです。
 私も,小学校低学年の時期には,学研の科学のふろくだったか,別の雑誌のおまけだったか忘れましたが,日光写真のキットがついていて,面白くて,あっという間に印画紙を使い果たした覚えがあります。小学校高学年のときには,クラブ活動で(理科クラブです!),理科の先生が印画紙に塗る感光剤の原液を調合してくれて,みんなで印画紙作りから楽しんだ記憶もあります。感光剤の組成については記憶に残っていませんが,確か,けっこう危険なもの(今では廃棄物として出せないような有毒物)が含まれていて,そのために,日光写真が廃れていったような話を聞いたことがあります。


日光写真のワクワク感をふたたび…

 時は流れ,21世紀。日光写真どころか,銀塩写真の将来も危ぶまれるような時代。
 こんな時代にも,光で青い色に焼きこむ,感光式の印画材料が,まだ生き続けています。

 ……それは,ジアゾ式複写機。いわゆる「青焼き」ですね。
 ジアゾ式複写機そのものは,原理が簡単なこともあり,昔から使われていました。ただ,昔は湿式のものでしたが,今は乾式が主流。感光紙の感度も,日光写真よりはずっと高く,実用品としての機能を備えています。
 乾式ジアゾペーパーは,熱処理すると発色します。発色させるだけなら,専用の機械を使わなくても,ラミネーターを通すだけでもOKですし,アイロンをかけても構いません。しかも,カタログを見ると,感光部が白く抜けるポジタイプと,感光部が青く焼けるネガタイプのペーパーがある。昔の日光写真の雰囲気を味わいたいのなら,ネガタイプなのでしょうけど,やはりポジタイプのほうがお手軽なので,ポジタイプのジアゾペーパーを入手して,あれこれ遊んでみることにしました。


 ところが,小口販売をしてくれる所が,なかなか見つかりません。結局,科学教材を扱っているお店の通販で購入。購入価格の5割を超える送料が上乗せされ,ちょっと高い買い物になってしまいました。
 最少量でも,B5判が250枚。当分遊べそうです。




 私が購入したのは,富士の「コピアートペーパー」。乾式ジアゾペーパーであれば,この製品でなくても構いません。


 さて,さっそく,感度のテストから。
 天気が悪くてお日様も出ないし,平日は帰宅時刻には暗くなっているし,なかなか日光に巡り会えません。仕方が無いので,蛍光灯で実験です。

 30Wの蛍光灯から10cmほどの距離で感光させます。



 露光時間と共に,色が薄くなっているのが分かりますね。元々が設計図とか文字の複写用ですから,ガンマ値が高い(=ハイコントラスト)ことを予測していたのですが,そこそこにハーフトーンも出そうです。ハーフトーン領域での粒状性は,お世辞にも良いとは言えませんが,湿式ジアゾペーパーよりは上等だと思います。もちろん,昔の日光写真と比べたら,はるかに高品質。




 手元にあまり良い材料がなかったので,とりあえず,ボールペンを乗せて,蛍光灯の光で焼いてみました。
 「日光写真」としては,優秀すぎるくらい,しっかり写し出されます。


太陽を試写

 乾式ジアゾペーパーを使った科学実験遊びとしては,虫眼鏡付きの暗箱を工作して,ジアゾペーパーを印画紙に使った「カメラ」の実験が,いくつかのサイトで紹介されています(興味のある方は,検索してみてください)。でも,ここは「天文ネタ」のサイト。しかも,「あやしい天文工作室」。やはり,「写真」をやるなら,天体写真を試みたいところ。
 ジアゾペーパーは,印画紙としても感度の低い部類に属する紙。光量のたっぷりある相手じゃないと,手が出ません。……と言うことで,太陽の撮影を試みました。

 しかし,天候不順で,なかなか太陽が顔を出してくれません。
 やっとこ雲間からちらっと顔を出した太陽を狙い,撮影を敢行。
 撮影方法は簡単です。天体望遠鏡で太陽を捉え,投影法で太陽をスクリーンに映し出し,そこにジアゾペーパーを置いて感光させます。



 BORG76ED+PL25mmアイピースで投影した太陽像。
 露出時間は5秒ぐらい。望遠鏡を固定して撮影したので,日周運動で像が少し流れています。太陽像の左上と右下のエッジがボケているのは,日周運動によるブレです。周囲の青い部分は望遠鏡の影。口径76mmの望遠鏡で直径約60mmの像を作っていますので,得られた太陽像は直射日光よりも明るくなっています。

 得られた画像を良く見ると,太陽の光球面の周辺減光の様子も分かりますし,この日は小さな黒点しか出ていなかったのですが,辛うじて黒点も捉えています(黄色い矢印の先)。
 もっと雲の少ない日に,もっと口径の大きな望遠鏡で撮影するなら,露出1秒ぐらいで撮影できそうです。


利用法を考えてみた

 いかがでしたか?面白そうでしょう?
 「日光写真」で本当に太陽を捉え,黒点も撮影できたと言うのは,科学実験ネタとしても,十分な可能性を持っていると思います。日食の時とか,もっと大きな黒点の出ている時に,こんな実験が出来たら,イベント的にも受けると思います。なにしろ,現像用の熱源さえあれば,その場で太陽を撮影して画像をお持ち帰り出来るのだから,演出次第で,公開観望会などにも応用出来そうです。

 大口径の望遠鏡をお持ちの方は,これで月の撮影にチャレンジしてみる手もあります。「手作りカメラ」の作例を見ると,昼間の景色をF10ぐらいのレンズで撮影した場合,15〜25分ぐらいの露出時間を要求しています。F10と言う口径比は,シュミットカセグレンやマクストフカセグレンの標準的な口径比ですから,その直接焦点で20分ぐらいガイド撮影してやれば,ジアゾペーパーに月をダイレクトに焼き付けることが出来ると思います。単位面積当たりの輝度が高い金星なら,もっと短時間で写せる可能性が高いので,金星の視直径が大きい時期を狙って試してみては,いかがでしょう。


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