5cmF14屈折望遠鏡……小型望遠鏡を楽しく使う方法を考える…… (現在進行中)


アクロマートレンズの実力

 最近では,焦点距離の短いアポクロマートレンズを使った屈折望遠鏡が,いろいろと製品化されていますが,本格的にアポクロマートレンズの望遠鏡が増えてきたのは1980年代頃からで,30年前のアマチュア向け屈折望遠鏡のスタンダードと言えば,口径5〜8cmぐらいで焦点距離の長い,アクロマートレンズでした。その口径比(F値)は11〜20ぐらいで,F15前後のものが一般的でした。口径6cmなら焦点距離900〜1000mmぐらい。
 今ではそんなスペックの望遠鏡は少数派です。低倍率が得にくくて広い視野が得られない,鏡筒が長くて扱いが不便,長い筒を支えるために,それなりに丈夫な架台も必要……と言った,不便な点が目立つせいでしょうか。

 しかし,長い焦点距離にはワケがあった。

 Fが大きくなると,収差が目立たなくなるのです。一説には,口径(D)をcmで表して,2.4D以上のF値があれば,色収差に関して,アポクロマート条件をほぼ満たす,と言う話。アクロマートレンズと言うと,青紫色の焦点位置が補正しきれず,月や明るい星を見たときに,青いベールをかぶったように見える,と思われがちですが,十分にFを長くすることで,その問題を軽減し,色のにじみを抑えた良好な見え味が得られる,と言うことです。
 口径8cmで,さきほどの2.4Dをクリアするには,焦点距離が1500mmを超えてしまいますが,口径6cmなら焦点距離900mmでOK,口径5cmなら焦点距離600mmほど,と言うことになり,小口径ほど色収差の問題を解決しやすいことが分かります。
 昔の入門者用望遠鏡は,このセオリーを踏まえていたんですね。


そこで,口径50mmである。

 実は,私が小学校の頃,初めて手にした望遠鏡が,6cmでF16.6(=焦点距離1000mm)だったんです。この望遠鏡で月や土星を見て感動し,あれやこれやとガイドブックに出ている天体にチャレンジしたものです。でも,3年も使っていると,写真が撮りたくなって,赤道儀に載った,もっと良い望遠鏡が欲しくなってきました。

 何が不満だったのか?

 まず,視野が狭かった。付属のアイピースで得られる最低倍率は50倍。しかも,見かけ視界が35度ぐらいしかない,超安物。80倍で月が視野から大きくはみ出し,視野の周辺部の像はボロボロ。これでは面白くありませんし,天体の導入も大変です。そして,架台がグラグラで,微動装置すら無かった。こんな状態で125倍(実視界0.28度!)のアイピースがついていたのですから,大変でした。その後,どうしても低倍率が欲しくてAH40mm(アクロマートハイゲンスと言うやつです)を買ってみたものの,24.5mmのスリーブでは,そんなに視野が広く取れるわけない(今ならすぐに気がついただろうけど,当時はアメリカンサイズや2インチサイズは,まず,お目にかかることは無かったので,これしか選択肢が無かったのも事実)。

  「長い,視野が狭い(低倍率が出せない),架台がヤワ」……この三重苦は,当時の入門者用望遠鏡に,ほぼすべて,「標準装備」されていいました。

 しかし,Fの大きい小口径アクロマートレンズは,クリアな見え味,軽さ,安価と言ったメリットがある。これを生かし,かつての小型屈折望遠鏡の弱点を克服してやれば,子供にも使いやすい,ゴキゲンな小型望遠鏡が作れるかも知れない。安価でありながら,取り回しが良く,軽量で,良く見える望遠鏡が作れないものだろうか?……そこで,小学生の子供が自力で使いこなせることを目標に,スペックを決め,デザインを考えることにしました。


 ……例によって,ジャンクレンズの物色。狙いは6cm以下の長焦点アクロマートレンズ。
 そこで,たまたま見つけたのが,直径51mm(有効径50mm),焦点距離700mmと言うレンズ。貼り合わせのアクロマートレンズですが,周辺部にバルサムの不良があるために,ジャンク価格980円ナリ。「安価」の命題は余裕でクリアです。2.4Dは十分にクリアしていますし,PL25mmと組み合わせると28倍で,約1.8度の視野が得られますから,低倍率も何とかなりそうです。


安くて使いやすい鏡筒を…

 鏡筒の工作です。



 主要部分はほぼ完成した状態です。
 まだ塗装などはしていません。
 ファインダー,鏡筒バンド,接眼アイテムを除いた状態で約800g。軽量です。

 筒はVU50塩ビ管。この内径は56mmあります。レンズ押さえには,50mmライト管の輪切り(内径50mm,外径53.5mm)を使い,VU50管との隙間は塩ビの薄板を巻いて埋めています。筒が細くて遮光環の工作が困難でしたが,ドローチューブを長くして,その先端部が遮光環代わりになるように寸法を取りました。内部は艶消し黒塗装です。



 対物レンズ押さえを兼ねたフード。外径が鏡筒と同じなので,接続すると鏡筒と一体化します。レンズの周囲が少し光っているのが見えますが,それが問題のバルサム不良部で,少々乱反射します。そのため,いくら遮光処理をしても輝星の周囲にうっすらと不整形のハロが見えます。ジフラクションリング自体は綺麗なのですが,少しコントラストの面で損をしています。まぁ,木星と金星を見ない限り,気になりませんけど…。



 接眼部です。摺動による粗動と,ヘリコイドによる微動の組み合わせでピントを合わせます。
 鏡筒のVU50管の内側に50mmライト管を固定し,その内側にVU40管の間を入れて摺動させています。摺動部はカグスベールを貼ってあります。

 アイピースアダプタはVP25管用の継ぎ手が内径32mm強だったので,それをVU40管に押し込み,塩ビの薄板で内径を微調整し,4mmのネジを抜け止めにつけています。この写真では31.7mm→36.4mmアダプタを付け,36.4mm天頂プリズム→直進ヘリコイドS→31.7mmサイズのアイピース,と言う接続方法ですが,ヘリコイドを使わないなら,直接,31.7mmの天頂プリズムをつけて,シンプルな構成にすることも出来ます。



 鏡筒バンドです。今のところ,カメラ三脚+微動雲台に乗せていますが,いずれ,フリーマウントを作る予定です。
 このバンドも非常にシンプルで,VU50管の輪切りにスリットを入れ,底に1/4Wネジを切った塩ビ板を貼り付けただけです。VU50管の輪切りの弾力で筒を掴んでいるだけなので,鏡筒の前後バランスを取るときも,適当にスライドさせるだけ。



 鏡筒バンド単体では,こんな姿です。
 上のほうにスリットが見えますね。




 ファインダーのように見えますが,照準と言うべきでしょう。中は素通しです。まだテスト中なのでデザインが良くありません。
 照準の台座は鏡筒バンドと同じしくみで,フリクション固定で,回転,前後スライドも自由に出来ます。台座の上にVP13用のT字ソケットを貼り付けました。これだけでは,視野が広すぎるので,VP13管を短く切ったものを継ぎ足しています。これで視野約9度以内になります。
 照準の上にビニールテープで貼ってあるのは,某コーヒーチェーンのストローを短く切ったもの。塩ビ管の照準で大まかな導入をし,細かいところはストローのほうを使おうと言う,二段構えなのです。……それにしても,いい加減な工作なので,もう少しデザインは考え直します。素通しで誤差0.5度以内の導入が出来るようにしたいのですが……。



 照準を後ろから眺めると,こんな感じ。
 太いほうでだいたいの狙いをつけ,ストローで狙いを定める,と言う使い方を考えているんですが……。


肝心の見え味ですが…

 だいたい光軸も合ったので,いくらか観望してみました。
 土星は綺麗に見えます。カッシーニの空隙は,ちょっと難しいかな。でも,A環/B環の濃度差とか,本体の模様らしきものも,辛うじて認識出来ます。木星も,縞が2本,しっかり見えます。アクロマートレンズの宿命である青紫系のハロも,ほとんど目立ちません。短焦点のEDアポクロマートに匹敵する,と言ったら言い過ぎかな……。暗い星に関しては,口径なりの見え方ですね。
 当たり前なんですが,明るい天体には強いですね。月とか惑星を,100倍以下の倍率で眺めるのには,良い望遠鏡です。星雲状の天体には弱いようですが,主要な星団とか,二重星など,初心者が眺めて理解しやすい天体は,ひと通りOKでしょう。


試写!

 土星を試写してみました。
 実は,それが,意外と難しかった……。と言うのも,接眼部の剛性は,眼視使用が前提ですから,デジカメ+アダプターで400g近い重量増となると,ドローチューブの摺動部がたわみ,光軸が怪しくなります。まぁ,長焦点ですから,光軸にはさほど敏感でもないのですが,強拡大の写真撮影では,やはり気になります。
 ……そう言った問題を一切無視し,とりあえずシャッターを切りました。



 光軸がやや甘いのは御勘弁ください。
 7枚コンポジットしています。

 5cmなりの実力は出ていると思います。この写真は色調をいじっていませんが,アクロマートにありがちな,黄色っぽく写る傾向も少なく,比較的良好な色の再現性を見せています。分解能は5cmなりのものです。なんとなくA環が見えるかなー……と言う程度の写りです。土星の本体も,なんとなく色調にグラデーションが見え,単色ではないな,と言うのが分かります。

 このぐらいの性能が出ているなら,まぁ,合格点でしょう。特に色の再現性はすぐれています。

……で,続く

 とりあえず使える状態になったので,製作記事を公開しました。この望遠鏡は,まだ構想の半分も出来上がっていません。これから,運用しながら,より使いやすく,よりカッコ良くなるよう,手を入れてゆく予定です。工作に進展がありましたら,記事を追加する予定です。


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