ステレオ月面写真の作り方


 当サイトで公開中の「ステレオ月面写真」の作り方を御紹介します。
 そんなに難しいことはしていません。比較的手軽に,月のステレオ写真が楽しめる方法ですので,ぜひ,試してみてください。


1.ステレオ月面写真の原理

  立体視の原理

 人がものを見て立体的に認識するためには,まず,両眼で対象を見ることが必要です。しかも,「視差」が得られることが重要です。人の左右の目は,60mmぐらい離れていますが,このために,左眼と右目では,微妙に視点が異なり,左右で微妙に違った像を見ていることになります。これを大脳の視覚領野で1つの像として統合する際に,この視点のズレによる差を立体物として認識するのです。
 立体視の可能な距離は限られています。人の目で視差が認識できないほど遠くにあるものは,立体視出来ず,平面像として認識されます(実際には,ものの形状から,経験的に立体物であることが想像できるので,日常生活の中では,立体的に認識出来る距離と出来ない距離の境界は曖昧になっています)。


左右の像の差を認識できるだけの視差があることが,立体視の条件

  月を立体視する条件

 人が立体視可能な距離は,対象の形状による違いや個人差もありますが,おおよそ数百m以内(左右の目の幅を60mmの人なら,理論上はおおよそ620m),とされます。意外と遠くまで立体を認識するようですが,こまかい距離感を認識させるには,もう少し近くないと難しいでしょう。大雑把に考えて,その1/10の距離,つまり数十mの距離であれば,誰でも文句無しに距離感が掴めているはず。「ステレオ月面写真」を作る場合も,この「誰でも容易に立体を認識出来る」と言うレベルの視差を作ってやることを目標にします。

 遠くのものを立体視するためには,より大きな視差を得る必要があります。より大きい視差を得るためには,左右の目の間隔=基線長を,うんと長く取ってやることです。もし,あなたの左右の目の間隔が60cmあったら,理論上はおよそ6km先のものまで立体視出来ます。月は約38万km離れていますから,これを立体視するために最低限必要な基線長は,約37kmとなります。これでは距離感が認識できるかどうか,ギリギリの線なので,この10倍の視差を得るためには,370km離れた場所から,同時に月を撮影する必要があります。これをステレオ写真に構成すると,数十m離れた場所に,ぽっかりと月が浮かぶような立体感が得られます。
 しかしそれでも,月の表面の凹凸を見るには,ちょっと苦しい。

  より長い基線を

 月面の凹凸をリアルに見せるステレオ写真を作るには,もっと長い基線が欲しい。例えば,ヨーロッパとアメリカで,月を同時撮影するようなことをすれば,数千kmの基線長が実現します。完成したステレオ写真の月の向きが横倒しになりますが,南北方向にパートナーを求め,日本とオセアニアで同時撮影することも不可能ではありません(このほうが,南中時刻がほぼ揃うので,撮影条件を揃えやすい)。しかし現実には,同じ条件で撮影してくれる,同じ機材を持ったパートナーを探すのは大変ですし,両方の撮影地の空の条件が揃う確率も低い。

 そこで,地球の自転を利用します
 東京で撮影する場合,1時間隔てて2回,月を撮影すれば,地球が自転して,約1350kmの基線を得ることになります。もちろん,この間に月も公転していますので,月齢もやや進み,月面に当たる太陽光の角度も,0.5度ほど動きますが,これはとりあえず無視します。


地球は自転している。
Aの位置で月を撮影し,しばらく間隔を置いてから再び撮影すると,
撮影者はBの位置に動いているので,長い基線を得ることが出来る。



 1時間隔てて撮影した月の写真からステレオ写真を構成すると,理論上は10数m離れた場所に月が見えているのと同じ視差が得られています。撮影間隔を2時間にすれば,見かけ上の月の位置は数mの距離にまで近寄ります。しかし,あまり撮影間隔を開けると,前述の「月齢の進み」が無視できない状況になって来ます。特に月面の拡大撮影で,欠けぎわを狙うと,日の当たり方の違いがはっきり見えてしまいます。
 そこで,撮影間隔のおおよその目安として,月の全体を撮影する場合は,欠けぎわの状況をある程度無視出来るので,2〜3時間の間隔を置き,視差を大きめに取り,月面の拡大撮影では,撮影間隔を1時間半〜2時間程度に抑えるようにしています。


東京ぐらいの緯度の地域で,1時間半〜3時間ぐらいの間隔を置いて
月を撮影した場合,このような視差を得ることが出来る。




実際のスケールはこのぐらい。
地球の直径は約12700km,月の直径は3476km。


2.ステレオ月面写真の撮影

  撮影に適した月齢

 「ステレオ月面写真」の場合,視差を得る作業のために,通常の撮影よりも,撮影に適した条件に制約が発生します。三日月のように細い月では,撮影間隔がじゅうぶんに取れず,視差を得ることが困難です。
 理想的には,南中時刻を挟んで撮影したほうが,撮影条件も揃えやすく,後の画像処理も楽になりますので,上弦を少し過ぎた辺りから,下弦の少し前ぐらいの月齢が,撮影に適した月齢となります。月の拡大撮影を経験した人は御存知だと思いますが,満月前後は,太陽光が正面に近い位置から月を照らすので,クレーターの立体感が見えなくなってしまいます。つまりこの時期は,一般には拡大撮影やクレーターの観察には向かないのです。しかし,ステレオ月面写真では,満月に近い時期は,月の全体像を球体に撮影するチャンスでもあります。また,満月と言っても,月が完全に太陽の真正面を向いているわけではなく(ぴったり真正面なら,皆既月食になっています),月の端のどこかが,必ず欠けていて,そこには立体視に適した「欠けぎわ」があります。しかも,月はいつも同じ面を地球に向けているのではなく「秤動」と言う動きにより,月の端のほうには,見えたり見えなかったりするエリアがあります。そうした,レアな地形を撮影するチャンスがあるのが,満月前後。月面図とにらめっこしながら,満月の縁を眺めてみるのも,面白いものです。

  撮影に適した時間帯

 地球の自転を利用して基線を取る場合,もうひとつ,注意すべき点があります。
 それは,地球も丸い,と言うこと。
 月の出,月の入り近くの時間帯に撮影すると,気流の条件が悪くなるばかりでなく,月に対して,基線を斜めに引くことになってしまいます。つまり,横目で月を見るような形になってしまう。月の南中時刻前後の撮影に比べると,撮影間隔の割には,じゅうぶんな基線長が取れません。しかも,南中時刻の頃のほうが,月の出,月の入りの頃に比べると,ちょっとだけ月に近くなってしまうので,最大で2%近く,撮影地と月との距離が変わってしまいます。実際に月を撮影して,画像を重ね合わせてみると,大きさの違いが分かります。

 ですから,理想としては,南中時刻を中心に,前後に等間隔離れた時間に撮影をするのが望ましいわけです。

 しかし,半月に近い月では,そう言う条件を得るのが難しいので,撮影後に画像の大きさを調整したり,大気の影響を補正したりする作業により,なるべく条件の近いペア画像を作るようにします。

  撮影方法

 ステレオ月面写真の撮影は,基本的には普通の月面写真と同じです。撮影条件は機材によって異なりますので,各自の機材に合った撮影条件を探し出してください。天体望遠鏡をお持ちでない方も,望遠レンズで月の全体像を撮影してステレオ化することも可能ですし,もし,双眼鏡をお持ちであれば,双眼鏡を三脚に据えて月を導入し,それをカメラで覗くようにして撮影すれば,そこそこの拡大像が得られます。フィールドスコープをお持ちの方は,今流行の「デジスコ」のシステムで簡単に撮影が出来ます。

 撮影の際に注意すべき点としては,地球の自転方向とカメラの向きが平行になるように,カメラの傾きを調整すること。月は日周運動(つまり地球の自転)でゆっくり動いていますから,その進行方向とカメラの水平のラインを揃えてやるようにします。この向きが,画像をステレオに加工する時に,重要な意味を持ちます。赤道儀をお持ちの方は,天球上の南北方向に画角を合わせると言うのは,撮影のテクニックとして,十分に承知している話ですね……。

 撮影時のコツとしては,とにかく,ピント合わせを丁寧に行ってください。デジタル機材なら,撮影結果を見ながらピント位置を追い込むことが出来ます。望遠レンズでの撮影の場合は,マニュアルフォーカスで操作するほうが,結果が良い場合が多いと思います。双眼鏡や望遠鏡を利用した撮影では,双眼鏡,望遠鏡の側で丁寧にピントを出し,カメラのほうのピント位置は無限遠に固定,絞りは開放にしておきます。
 露出時間は,満月の場合,昼間の地上の撮影と同じくらい。半月では,その2〜4倍が目安です。自動露出に任せると,バックの夜空と平均して,月が白飛びするほど露出オーバーになることがあります。マニュアル露出にするか,マニュアルが不可能な場合,露出補正で対処できる場合もあります。また,スポット測光の出来るカメラだと,月の明るい部分を測って,適正露出を割り出してくれる可能性もあります。いずれにしても,露出条件を変えて何枚か撮影しておくほうが無難です。


3.ステレオ月面写真の画像処理

  画像の選択,位置合わせ

 ここからはデジタルデータになった画像の処理,加工方法を御説明します。銀塩で撮影した場合も,スキャナ等でデジタル化してから,作業を進めてください。

 まず,左目用画像と右目用画像が,同じような仕上がりになっているペアを探し出します。ピントの出来不出来や,気流による画像の歪みなどもありますので,多めに撮ってバンバン捨てるような形にならざるを得ないのです。

 作業を分かりやすくするため,天体望遠鏡で撮影した画像は,画像処理を始める前に,あらかじめ,正立像にしておきます

 次に,選んだ画像の,仮の位置合わせを行います。これは,左右の画像の位置や向きを揃えるための予備作業です。レイヤ機能と画像の任意角度での回転,拡大縮小,反転などの機能が使えるペイント系ソフト,ないしはフォトレタッチソフトが必要です。
 まず,どちらかの画像をコピーし,もう一方の画像の上に別レイヤを作って重ねます。乗せた画像を加算合成ないしは減算合成に設定し,移動,回転,拡縮により位置を合わせてゆきます。減算合成にしておくと,ぴったり重なれば真っ暗になります。このときの拡大率と回転角度を,コピー元の画像に適用します。
 なお,月面の端のほうは,中央部に比べると遠くにあります。月面の端のほうを写した画像で,中央寄りのエリアと端のほうをぴったり位置合わせしてしまうと,本来は球体だったはずの月が,平面のお盆の上にデコボコがついているような,妙な見え方になります。遠いところは画像間隔を広く,近いところは画像間隔がやや狭くなるように位置合わせをすると(但し,平行法の場合。交差法は逆の設定をしてください),違和感がなくなります。

  画質調整

 画像の回転とサイズ調整が終わったら,左右の画像の調子を揃える作業をします。色調,明るさ,コントラストを中心に,なるべく左右の差を小さくしてゆきます。色調の調整が大変なら,この段階でモノクロ化してしまっても,構いません。月は彩度の低い天体なので,色がついていなくても違和感がありません。
 また,どうしてもピントの差が生じている場合があります。ある程度はアンシャープマスクなどで救済しますが,片方の画像だけでもシャープであれば,立体視したときに,シャープなほうに引っ張られて,かなり綺麗に見えるので,ピンボケの救済目的であるなら,あまり過剰に画像をいじらないほうが良いでしょう。

  切り出し

 次に,立体視に必要な部分だけ,画像を切り出します。月の全体像なら,月の中心と画像の中心を揃えて切り出し,月面の拡大撮影なら,主題にしたい地形を中心に切り出すのが基本。もちろん,左右の画像の切り出しサイズは揃えます。大きさはあまり気にしなくても大丈夫ですが,最低限,幅200ピクセル以上の大きさで切り出してください。この作業では,切り出す位置が最も重要になります。特に,前後関係の大きく変わる,月面の端のほうを切り出す場合,一番手前に来るものを基準に切り出し位置を決めるのが無難です。その位置より奥まったエリアの画像は,おそらく,左右で微妙に切り出されている位置がズレます。そのズレが立体感を作るので,無理に切り出し位置を合わせ直さないでください。

 この切り出した画像は,一時保存しておきます。ファイル名に,ペアの相手や,左右どちらかが分かるような工夫をしてください。ペーパーに出力する場合,これを使います。


 切り出した元画像の1枚。
 BORG76ED+LV15mm+CASIO QV-2900テレ端で撮影した画像から,必要な部分を切り出しています。
 元画像の合成焦点距離は1600mm(35mm判カメラの10667mmに相当)。
 1ピクセルが0.485″に相当します。
 望遠鏡の理論上の分解能が1.5″ですから,分解能以上に拡大していることになります
 (そのため,少しボケた感じになっています)。
 この段階で色調,コントラスト,明るさ,シャープネスなどを調整し,
 最終的には,望遠鏡の性能と見せたい主題となる地形に合わせて,縮小します。


  ステレオ化

 さぁ,いよいよステレオ化です。
 裸眼立体視には交差法と平行法があります。交差法が得意な人は,左目用を右に,右目用を左に配置して,2枚の画像を並べます。平行法では,右目用が右側,左目用が左側にくるように配置します。
 ここで問題になるのは,左右の画像の間隔。交差法では大きな画像でも大丈夫ですが,平行法の場合,モニター上で左右の画像の間隔が,自分の目の幅よりも少し狭くなるぐらい(60mm弱)に配置すると見やすくなります。幅広の画像でも平行法が出来る人は,大きめの画像でも構いません。いずれの場合も,極端に大きい画像は,裸眼立体視が難しくなりますので,大きさはほどほどに。見え具合を確かめながら作業を進めましょう。

 参考までに,多くのノートパソコンが採用している,14インチの液晶画面で1024×768ピクセルの解像度の場合,平行法で見やすい画像サイズは,幅200〜240ピクセルぐらい。これが2枚並ぶので,全体のサイズは,幅400〜480ピクセルぐらいになります。
 ステレオ化する前の段階までは,大き目の画像で操作して,ステレオ写真にまとめるときに,適切なサイズに縮小するようにします。縮小することで,ちょっとシャープになりますし。


完成品。平行法で見てください。画像の幅は左右各々,300ピクセルあります。
A4サイズのノートパソコンの標準的なディスプレイで見る場合,
この2/3ぐらいのサイズのほうが立体視しやすいでしょう。
(慣れている人は大きな画像でも平行法が使えます)



↓画像1枚あたり幅220ピクセルで表示




4.ステレオ月面写真を楽しむ

  立体視

 1990年代後半に「裸眼立体視」の本が流行した関係で,裸眼立体視の技術を身につけた人が多いと思います。Web上でも,紙の上でも,特別な道具無しで,もっとも簡便に立体画像が楽しめる方法ですので,ぜひ,裸眼立体視でお楽しみください。
 裸眼立体視には「平行法」と「交差法」があります。平行法は,右の画像を右目,左の画像を左目で見るもので,交差法では,右の画像を左目で,左の画像を右眼で見て,立体視をします。
 基本的には,平行法の画像は,左右の画像の間隔が目の幅よりやや狭いと見やすいのですが,慣れてくると目の幅より広い大きな画像でも立体視が出来るようになります。交差法では,画像の幅に制約が無く,平行法よりも大きな画像を見るのに適しています。当サイトでは,ステレオビュアーの利用も考慮し,すべて平行法で画像を掲載しています。もし,交差法のほうが見やすい,と言う場合は,お手数ですが,画像を一旦ダウンロードし,フォトレタッチソフト等で左右を入れ替えてみてください。

  ステレオビュアー

 裸眼立体視が難しい方は,ステレオビュアーの自作をおすすめします。同じ焦点距離の虫眼鏡が2個あれば,紙細工で簡単に作れます。虫眼鏡2個だけでも立体視が出来てしまう人も少なくないと思います。100円ショップで最も度の強い老眼鏡を1つ買う,と言う手もあります。


5.Tips

  文字を入れる

 サイト内には,手前に浮き出る文字が入っているステレオ写真があります。
 これを作るのは,そんなに難しくありません。左右に同じ文字を入れ,左右の文字の間隔を,左右の画像の間隔より数ピクセル,狭くします。狭くするほど手前に飛び出して見えますが,あまり狭くすると立体視が難しくなります。逆に広くすると,画面より奥に見えることになりますが,月面より遠くに文字が見えてしまうのは違和感があります。


6.他の方法

 月面の立体視には,ここで紹介した方法以外の手法もあります。
 いくつかの手法について,簡単に触れておきます。

  秤動を利用する方法

 月は一見,いつでもこちらに同じ面を向けているように見えます。
 これは月が地球の周りを回る公転の周期と,月の自転周期が一致しているためで,そのために,地球上からは月の裏側を見ることが出来ません。しかし,月の公転軌道が完全な円でなかったり,軌道面が傾斜している等の理由により,少しだけ月の見えている部分の角度が変わります。この,わずかな首振り運動が秤動(ひょうどう)。秤動により,私たちは地球上からでも,月の表面の59%を見ることが出来ます。
 ……これが,立体視にも使えます。

 秤動を利用すると,地球の自転を利用した時よりも,大きな視差が得られます。
 2〜4ヶ月ぐらい隔てた,同じ位の月齢の写真を撮影し,立体視しやすい視差を獲得します。秤動の具体的な向きや角度については,「天文年鑑」などのデータブックで調べておきましょう。しかし,月の欠け際が同じような光の当たり方になるような画像のペアを得るのは,かなり難しいので,クレーターの拡大撮影は素直にあきらめて,満月の全面撮影を狙うと良いでしょう。
 もうひとつの弱点としては,写真の向き。自転利用によるステレオ写真では,確実に東西方向に視差が発生しますが,秤動利用の場合,視差の得られる方向はバラバラです。つまり,ステレオ写真にした時の月の向きが,一定しません。横倒しの画像で立体視を強いる可能性もあるわけです。

 しかし,大きな視差が得られるのは魅力です。条件が揃えば,10度近い視差を得ることも不可能ではありませんが,視差が大きすぎて,かえって立体視をしにくい画像を作ってしまう可能性もあります。視差が5度もあれば,35cmほど離れた場所にあるボールのようなイメージで立体視が出来るはずです。5度の視差を得るためには,4ヶ月位隔てた満月の画像を合わせると良いでしょう。1,2ヶ月差の満月のペアでも,十分に立体感のある画像が得られます。

  遠隔地で同時撮影

 地球の自転を利用したステレオ写真では,撮影間隔を広く取るほど視差が得られる反面,どうしても,月齢が進んでしまい,若干の誤差が生じています。
 そこで,地球上の遠く離れた場所にパートナーを求め,同時に撮影します。そうすれば,月齢の揃った,視差のある画像が得られるわけです。例えば,北米と欧州の,同じくらいの緯度の場所で,月を同時に撮影すれば,数千kmの基線長が得られ,立体視に十分な視差が得られるわけです。
 この方法にも問題が無いわけではありません。
 まず,時差の問題。こちらでは月が出ていたのに,パートナーのほうでは月が沈んでいたり,昼間だったりしたら,お手上げです。時差3〜4時間の場所にパートナーを求め,月の南中時刻を挟んで,同時撮影するのがベストです。この方法だと,半月の撮影はかなり苦しいので,満月の前後数日間が撮影チャンスとなります。

 別の方法として,南北にパートナーを求める方法もあります。
 但し,この方法だと,横倒しの画像で立体視する必要があります。
 しかし,撮影時刻を揃えることが容易で,上手くやれば三日月でも立体画像が取得できます。日本の南方にパートナーを求めるとなると,インドネシアやオーストラリア方面となります。日本の場合,東西方向にパートナーを求めにくい位置にあるので(東側は海,西側は中央アジアの高原地帯が撮影に最適な場所となってしまう),南北方向での撮影のほうが現実的かも知れません。
 ネット環境の発達した地域同士を結べるなら,2ヶ所で同時生中継をして,リアルタイムの立体視なども,可能だと思います。

  飛行機や人工衛星を使った方法

 西から東に向かって飛ぶ飛行機から撮影すると,効率良く視差を獲得できる可能性があります。日本からハワイやアメリカ大陸に向かって飛ぶ飛行機から月を撮影した場合,地上で撮影するよりも,同じ撮影間隔で1.5〜1.7倍ぐらいの視差が得られるはずです。もちろん,機内からの撮影では,月の拡大撮影は困難ですので,手持ち撮影で月の全体像を撮るのが精一杯だと思います。満月の夜に搭乗する機会があったら,試してみます?

 人工衛星でステレオ写真を撮る手法は,まぁ,我々庶民には,あまり現実的でありませんが,アポロ計画では,実際に月まで行って,月の立体写真も撮影されています。地球を周回している人工衛星の速度なら,10〜20分程度の撮影間隔で,大きな基線が取れます。将来,宇宙旅行が現実のものとなったら,考えてみますか?
 それより実現性の高い方法としては,天体観測衛星の利用。ハッブル宇宙望遠鏡などで試してくれたら,面白いのですが……。


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