貫井徳郎 『女が死んでいる』



              2020-05-25


(作品は、貫井徳郎著 『女が死んでいる』      角川文庫による。)
                  
          

 初出 女が死んでいる   「女が死んでいる」KADOKAWA(2015年3月刊所収)
    殺意のかたち    小説すばる(1997年8月号)
    二重露出      小説NON(1997年11月号)
    憎悪        EQ(1997年3月号)
    殺人は難しい    携帯電話配信(2011年4月14日〜4月28日)
    病んだ水      ミステリマガジン(1997年4月号)
    母性という名の狂気 小説現代(1997年8月号)
     レッツゴー     オール讀物(2003年12月号)

 本書 2017年(平成29年)8月刊行。

 貫井徳郎:
(本書による)  

 1968年東京都生まれ。93年、鮎川哲也賞の最終候補作「慟哭」でデビュー。2010年、「乱反射」で日本推理作家協会賞、「後悔と真実の色」で山本周五郎賞を受賞。その他の著書に「失踪症候群」「天使の屍」「プリズム」「崩れる」「明日の空」「灰色の虹」「新月譚」「微笑む人」「ドミノ倒し」「北天の馬たち」「私に似た人」「我が心の底の光」「壁の男」「宿命と真実の炎」など多数。 

主な登場人物:

[女が死んでいる]
藤村充哉(みつや) 二日酔いで目覚めたら床に見知らぬ女の死体が。部屋は密室状態だった。小劇団でくすぶる自称俳優、生活費用はホスト。
浜田智花(ともか) 手かがりは女の唯一の持ち物の、手帳に書かれた女性の名前。
繁樹 藤村の10年にわたる付き合いの演劇仲間。力を借りる。
[殺意のかたち]
川添 本所警察署捜査課刑事。やせ形。捜査本部で香坂とのコンビ。
香坂 本庁捜査一課の刑事。40年輩の太っちょ、老獪。

増田加世子
夫 茂雄

安西の車に引っかけられた夫の妻。
・夫 後日くも膜下出血で死亡。
・加世子の妹 田辺昭子

安西孝弘 青酸カリで死亡の被害者、29歳。大手自動車ディーラー勤務。
岡田留美 増田夫妻のマンションの隣の部屋の住人。
[二重露出]

加倉喜直(よしなお)

高卒で蕎麦屋に弟子入りし修行、のれん分けを許され10年前蕎麦屋やを公園前に開き繁盛し出す。ホームレスがトイレに住み込むようになり、悪臭で店の客が次第に落ち目に。

麻井春樹

我慢していた会社勤めを辞め、8年前夢の喫茶店を開く。加倉の二軒隣。蕎麦屋と同様の問題に直面。
[憎悪]
麻紗美 銀座のホステスを辞め、木下という男の愛人に、23歳。

掃部淑子(かもん・としこ)
夫 和正
息子 彰文
(あきふみ)

今最も有名なファッションデザイナー。2年ほど前一回り下の男と結婚、40半ば。
・和正 外見、能力全てにおいて彰文とは決定的に異なる。
・彰文 母親の結婚相手を認めず、母親に軽んじられていて、母親と義父に殺意を持つ。

木下 高輪のシティホテルのバーラウンジで麻紗美と知り合う。
[殺人は難しい]
拓馬 頭がいい、スタイルも顔も、その上優しい旦那。
あたし

最近ミホという昔付き合ってた女と今も浮気をしているらしい夫。ミホなる女が死なない限り、心の平穏は訪れないと実行に・・。

[病んだ水]
礼子

大手の建設会社から出向の形でサンセンに出向の社長の娘。
サンセンは産産業廃棄物の処理するために設立された会社。

社長の秘書。礼子の誘拐事件で身代金を運ぶ役に。
[母性という名の狂気]
娘の亜紀のことを人間と思っていない。人形のように見てしまう。母親失格の認識。いつか亜紀を殺してしまう恐怖。
わたし 亜紀の怪我は妻(佳美 よしみ)の仕業?
娘 亜紀 出生時未熟児だった。幼稚園児になった今、我が強く自己主張で母親を困らせている。
諸岡晴子 夫(光治)の母親。夫に頼まれ亜紀の様子を見守ることに。
[レッツゴー]
レイ(姉 ) お姉ちゃんは24歳。ウエットな娘。不倫で何度も何度も振られビービー泣いている。
ハト(妹 鳩子) ドライな17歳の高校生。
安宅仁(あたく・ひとし) 鳩子が今気になるクラスメイトでアタック中。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 二日酔いで目覚めた朝、ベッドの横の床に見覚えのない女の死体があった。俺が殺すわけがない。知らない女だ。では誰が殺したのか…(「女が死んでいる」)。表題作他7篇を収録した、企みに満ちた短篇集。

読後感:

 短編8作の作品。それぞれひねりを効かせたエピソードで面白い。
 <女が死んでいる>は、本の題名に置いただけあって、取り上げざるを得ない。
 密室殺人の様相だけにどんなクリックがと読者は期待するも、智花の説明にやられた。

 <憎悪>では、麻紗美が知り合った木下という男は、掃部淑子の夫掃部和正と勘違い。月50万の手当で愛人となり、息子から殺されると言われる。淑子という莫大な資産と、負けず嫌いの性格を持つ母親が、年下の若い男を夫に持ち、息子を我が物顔に扱うことに憎悪をたぎらせた彰文の取った行動に読者は驚かされるばかり。思わず読み返さざるを得なかった。

 <殺しは難しい>ではあたしが夫の浮気相手を見つけ出し、殺すことで心の平穏を取り戻そうとするも、夫の策略にはまり見事に虜にされてしまう。

 <病んだ水>は産業廃棄物にまつわる現在の社会問題を含む題材を、娘の誘拐事件で身代金を運ぶ羽目になった私の、読者を惑わさせる仕掛けで見事に欺いてしてやったり。

 <母性という名の狂気>は、先に読んだ芦沢央著の「許されようとは思いません」の「姉のように」に描かれていた児童虐待を犯すかも知れないと悩む母親に似て、条件は異なるも現在の課題を題材にして著者の展開は思いもしない結末へ。

 <レッツゴー>は今までの調子とは異なり、ユーモア小説もどきの面白い展開。しかしやはり一癖もあるひねりにやられた。でもこの話が一番身近に感じて胸にじんときた。


余談:

 廃棄物処理場にまつわる種類の説明に注目。
 (安定型産業廃棄物処理場とは) ゴム屑、金属屑、ガラス・陶磁器屑、建設廃材の、安定五品目だけを処理する処分場のこと。
 (管理型とは) 地下水への汚染を防ぐために、廃棄物を埋める穴にゴムシートを敷き詰め、溜まった雨水は処理して放流することが義務づけられている。
 (遮断型とは) さらに厳しく、雨水を遮る屋根をつけ、穴も厚さ10センチ以上のコンクリートで囲うことになっている。
 改めて参考になった。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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