2作品にまつわる芥川賞について:
この2作品は昭和23年下期の芥川賞選考委員会で候補に上がり、井上靖作品が決まることにはすんなりと決まったが、何れの作品とするかに議論があった。
結果的には、「闘牛」が多数であった。解説にあるその評価は興味深いものだった。
以下にその抜粋を示す。(解説より)
佐藤春夫:
年若な読者でない限り「猟銃」は誰しもあまり好まない作品。「猟銃」をいいと思う読者は多分時代感覚はあるのであろう。その代わりにはきっと文学的教養、もしくはセンスの乏しい人に違いない。
井上は腕達者で作風も常識的ではあるが、すれっからしの下劣なものの無いのがよい。作者の人柄であろう。
石川達三:
猟銃の欠点はかなりはっきりしているし、各選者の間でも同じような欠点が指摘されていた。なかなか巧みな技巧のある人で、小説を面白く構成していく技術を持っている。
舟橋聖一:
「猟銃」を推す。
日本文芸家協会で編纂している「創作代表選集」には、「猟銃」が高点の得票を得、「闘牛」は「現代小説代表選集」の方に、高点が集まった。
「闘牛」の方には、取り立てて、欠点がない。その代わり、月並みである。
丹羽文雄:
「猟銃」を推す。
「闘牛」の推薦は一番無難。井上君の実力は「闘牛」に十二分にあらわれている。第二作のこれを読んだ時、正直なところ私は何の驚異も覚えなかった。もし「闘牛」をはじめに発表して、第二作として「猟銃」を発表してくれたら、もっとびっくりしただろう。
川端康成:
「闘牛」・・・うまさという点では図抜けていた。「猟銃」は「闘牛」を選ぶ支えにはなっていた。この練達の作者には計算の狂いがない。実に面白い作品だが、幾度かくりかえして読めるだろうか。詩精神が乾いてはいないだろうか。
読後感:
「猟銃」の方がおもしろい。筋の運び、謎解き、夫婦の間の心理の綾、感情、愛人と三杉の間の愛情、娘の立場での感情が読者に響いてくる。身近な問題として理解出来る。一方、「闘牛」は自分自身が“闘牛”という賭け事に興味がないテーマであるせいか、身近な世界になってこないことが一番。ただ、最後にきて、勝負を決める場面にきて、さき子が津上とのことにけじめをつけようとするところで、一段とぐっと来る物を感じた。
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