伊勢原のオオタカ保護に関し、適切な指導を求める要望書

  私たち、伊勢原の自然と環境を守る会と、神奈川オオタカ保護連絡会は、伊勢原市内で、4年前の’94年から今日に至るまで複数ヶ所でオオタカの観察を継続して行ないました。その結果、今年(’98年)の4月に1カ所で営巣木を発見し、4月中旬から5月にかけて抱卵に続いて、雛が孵っていることを確認しました。
  ところが、現在このオオタカの営巣地周辺には次のような開発計画がひしめいています。

  (1)営巣木からわずか200 mの至近距離に、有料高速道路である、厚木秦野道路の建設が計画され、すでに施工命令まで出されています。

  (2) 第2東名自動車道のトンネル部分に建設が予定されている換気口が、オオタカの生息域に含まれています。トンネル工事に伴うダンプの影響も致命的であると予想されます。

  (3) 営巣地の近くを第2東名へのアクセス道路である、「北部幹線道路」(仮称)が構想されています。

  (4) 営巣地を含む地域に、約50 haの県立公園の計画があります。

 よくご存知のように、オオタカは、’93年4月1日から施行された「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」で、国内希少野生動植物種に指定されました。オオタカは陸上の生態系の頂点に立つ猛禽類であり、オオタカの生息はそこの自然度が高く、豊かな里山であることを証明しています。オオタカは神経質で警戒心の強い鳥
であり、一部でも自然の改廃があれば営巣を放棄したり、雛がうまく育たない可能性があります。

  「猛禽類保護の進め方」( 平成8年8月 環境庁自然保護局野生生物課 )によれば、営巣中心域というものを、「営巣木および古巣周辺で、営巣に適した林相をもつひとまとまりの区域(営巣地)、給餌物の解体場所、ねぐら、監視のためのとまり場所、巣外育雛期に幼鳥が利用する場所を含む広義の営巣地として一体的に取り扱われるべき区域」 と定義しています。そして「この区域においては、住宅、工場、鉄塔などの建造物、リゾート施設および道路の建設、森林の開発は避ける必要がある。」とされています。

  以上のような「法」の主旨を守るなら、オオタカの営巣が確認された以上、上記の(1)、(2)の高速道路計画は一時中断し、最低でも1年半はかけて、オオタカの生息調査を行う必要があります。

  実際に、’93年、住宅・都市整備公団が東京の「八王子川口地区土地区画整理事業」として「リサーチパーク計画」を進めようとしましたが、オオタカの営巣が確認されたため、アセス手続きを中断して1年間のオオタカ生態調査を実施しました。そして計画は中断したままです。

  (3)、(4)に関しては、特に県として、オオタカ保護を最優先にして、計画、構想の再検討が求められます。

 オオタカの生態調査がどうして必要なのかというと、これまできちんと調査されたことがないからです。

 たとえば建設省や、県の都市計画課は、厚木秦野道路に関する環境影響評価書案の見解書(’94年8月)の中で、

「オオタカについては現地調査では確認されませんでしたが、文献調査により確認しております。なお、本種については計画路線周辺での繁殖の可能性も否定できないが、主な生息地である森林域は大部分がトンネル構造であり、改変を受ける面積が少ないことから影響は小さいと考えております。」と述べています。

主な生息地はトンネルではなく、まさに、厚木秦野道路の路線上空なのです。

  第2東名の見解書では、「オオタカについては………現地調査と既存文献の両方で生息を確認あるいは推定しております。現地調査では伊勢原市浅間山東山麓において確認しております。」となって、その後に「大部分がトンネル構造…」と続いています。生息だけでは不十分です。営巣しているのかどうかまできちんと調査する必要があります。だからこそ、このような見解書に対して、環境影響評価審査書では、「特に、計画路線周辺では、……オオタカの生息・営巣が確認されている。したがって、計画路線がオオタカの生息・繁殖に及ぼす影響について学識経験者等を含めた検討の場を設け、詳細な調査を実施するとともに、他の開発事例での対策や効果も研究し、生息環境に配慮すること。」と指摘しているのです。

  そこで貴職に、ぜひ詳細な調査が実現するよう、関係各機関に、下記の内容について働きかけて下さるよう強く要望する次第です。
 

(1)オオタカに関するアセスの事業者責任による調査はきわめて不十分でしたので、行政として専門的な調査委員会を設置して、伊勢原市内のオオタカの生態調査を少なくとも1年半はかけて行ってください。調査にあたっては、地元のオオタカ保護団体などのメンバーを参加させるよう指導して下さい。この調査が終了するまでは、厚木秦野道路や第2東名自動車道の計画は一時中断するよう関係機関に働きかけて下さい。

(2)オオタカの生息、営巣の確認は、伊勢原市のみでなく、秦野、厚木、平塚などの周辺の各市にまで広がっています。長野県白馬村では、長野冬季オリンピック会場予定地にオオタカの営巣が確認されたため、オオタカ保護の立場から会場変更、オオタカ保護条例の制定(資料参照)と、全国でもはじめてといわれる素早い対応をしています。神奈川県として、県内のオオタカ保護のために、条例の制定とか、保護区の設定などの施策を打ち出して下さい。さらに各市の環境関係機関を指導して下さい。

(3)県立公園の計画は、改正されたアセス条例の対象となる、とのことですが、これを待つまでもなく、オオタカの営巣地を含む地域の公園としてふさわしいあり方を至急検討し、結果を地元の住民に公開して下さい。

(4)最近、営巣地の近くの地域のハイキングコース(林道)に、四輪駆動車やオートバイが頻繁に入り込み、ハイカーから苦情が寄せられています。暴走族と思われる車も深夜、早朝などに徒党を組んで出没しているとの情報もあります。さらに現在、ゴミの最終処分場の拡張工事のためにダンプがひっきりなしに出入りしている状況です。これらの行為はオオタカの生息にとって著しい影響を与えかねません。オオタカ保護の立場から、必要で適切な対策を市がとれるよう指導して下さい。

1998年6月19日
  神奈川県知事                        岡崎  洋  殿
  環境部自然保護課野生生物班                課長 殿
 都市部公園課                                 課長 殿

 
伊勢原の自然と環境を守る会     代表  北山 宏之  
神奈川オオタカ保護連絡会        代表   和多田 英哉

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