釣り人は自然の監視人


渋田川のフナに異常発見 病名は穴あき病か?
畑野和博(横浜勤労者釣りの会)

●はじめに

 釣りはフナ(鮒)にはじまりフナに終わるといわれるくらい、フナの話をすれば誰にでも通じたのが今ではフナの話をしても通じなくなった。本当に今はフナを釣るところがなくなってしまって、もうだれも釣りができなくなってしまった、というのが現状です。
 でも神奈川県には渋田川という良い川があったんです。ぼくも十数年前まではここに通ったんですがどんどん川が汚くなった、屎豚川だというくらいひどかった。豚の屎尿とかが多くて臭いがひどかったんですね。それ以来ずいぶん行かなかったんですが、近年東京の釣り仲間からフナは渋田川がいいよということを聞いてもう一度行ってみたんですね。1998年春のことです。(場所は図1参照)ところが、釣れるんだけれど穴のあいたフナばかりなんですね、それでまた行くのはやめてしまった。でもなぜこんなフナが釣れるのか、不思議なんで秋になってもう一度行ってみた。そうすると今度はきれいなフナが釣れる。ところがまた翌年になるとまたおかしフナが釣れだしました。(表1参照)

●異常なフナの病名は

 こうしたおかしなフナがなんて言う病気なのか図書館で調べたんですね、どうも「穴あき病」というらしい、ということが分かった。この病気ではフナは死なないそうです、そして水温が上がれば治ると書いてありました。ところが9月になると病気がなくなるのは不思議ですね。川の水温が急に下がるわけはないので、穴あき病の発症は水温だけのせいではない、と思うんですね。
 それで、魚病学の本を探がすんですが、最近の資料はまったくない。これは研究されていないんだと思って、行政のほうに聞きに行ったんです。
 はじめ、神奈川県水産総合研究所内水面試験場というところに行ったんです。ここで1時間以上も話を聞いていただいて、病名は「穴あき病」だとわかった。そのうえ原因や発症のメカニズムも教えていただいた。それは「ストレス」なんだそうです。でもストレスの理由はわからない。いっぱい理由があるんでしょうが、問題はここにあったわけです。
 こんどは、神奈川県環境科学センターを紹介してもらった。水質環境部というところなので、これでわかると勇んで行ったんですよ。ところが、「ここでは排水をやっているがどこの誰かが流したものかわからない川は調べていない」という返事なんですね。報告はうかがっておきますというだけなんです。ぼくは、身近な環境を見ていくことの必要性を痛感しました。行政まかせではだめで、魚のことは釣り人のほうが知っている、我々が果たす役割の大きさを感じました。
 そうして、県の大気・水質課にいきました。ここでは環境白書というものを出しているんですね。ここでの異常フナ調査の結論は「この課では、環境基準項目の県独自の調査項目を加えて調査し、環境白書として公表している。現在の調査項目ではフナの病気、発症原因を特定するのは難しい」といわれました。ただ、「これからも調査項目を増やして見直しをしていくので、これからも調査を続けて報せてください」という話でした。

●渋田川の水質は

 これでちょっと救われた気がしたんですが、それでも県の調査項目に入ってないことは調べないですよね。
 県の環境部水質保全課では、「リバーウオッチング」を勧めており、そのパンフレットをみせてもらいました。でもここにフナは入ってないんです。へラブナはあるけどマブナはない。もう普通のフナは入っていない。そのうえ、これには魚がいるかいないかは書いてあるが、病気になったらどうするかということは書いてない。さあ川に行きましょう・・と言っても普通の川のことは書いてない。フナなんていうのは、昔はそこいらのちょっと汚れた川にいたんです。そういう、いわば[里川]は念頭にないんです。
 唯一「水産用水基準」という資料を見せてもらったことが大きいですね。この中にいろんなデータが載っている。これは、養殖水産業を行うときの望ましい水質を判断するさいの基準とされているもので、「当たり前の水域の自然の水に近い」というものです。これを渋田川と比べてみたんです。(表2参照)
 この表のほかにも、渋田川では、「当たり前の水域」では検出されるはずのない汚染物質がずいぶんある。重金属(カドミウム、鉛、砒素・水銀などが微量ながら含まれている)、有機溶剤(ハイテク産業汚染物質で、ジクロエチレン・ジクロエタンなども検出)、農薬(製造別にみると、殺虫剤42%、殺菌剤28%、除草剤28%、その他2%)が検出されています。渋田川はこんなに汚されていることが、この資料からわかりました。

●これからどうしたらよいのか

 ところがこれでおしまいなんです。これ以上すすめなくなった。そういうときに、グリーンネットで報告してみないかという話があって、新しい展開が生まれるんじゃないかと思って報告させていただいたわけです。
 平松先生の「イギリス緑の庶民物語」を読むと(会報19号参照)、緑保全のコモンズ協会のやっている運動が書いています。それは「歩くこと」を呼び掛けているんですね。「散歩に行くことが環境運動になる」といっています。「歩行道」を歩いてそこで気のついたことを報してほしいと言っているんですね。運動が理念だけでなくて実際的な形で根付いていることをこの本で知らされました。
 これは、ぼくらの言葉で言えば、「釣りにいくことが環境運動になる」ですね、フナを釣りながらおかしなことがあったらそれを報せることが必要なんだと思ったわけです。ところが神奈川県ではもうそういう釣り場がない、これが大きな問題だと思っています。お金をとってやるだけの釣りではなくて、誰でもが釣ることのできる川と、フナのような普通の魚がいなくなっている。いないかどうかも本当は調べていないんだから断言しちゃあいけないでしょうが、釣りをする人が言わなければわからないことですから、「みなさんもっと釣りをしよう」って言いたいんですね。
 ぼくらの調査も延べ61人の参加、といってもわずか8人でやっているんです。もっともっと幅広く調べていきたいと思っているんですが人手もほしいし、これからどういうことを調べていったらよいかも教えてほしいと思っているところです。

質 疑
Q 渋田川のフナだけが穴あき病なんですか
A それはわからない。たった8人がやっているだけなんですから。神奈川県以外のフナでこうい病気のフナはみたことはありません。でも、実際に釣ってみないとわからない。川の上から眺めて見たってフナのことはわからないんですよ。 何のストレスが原因かもわからない、ほかの理由かもしれないし。核心まで行っていない、まわりをうろうろしているだけなんです。

Q フナは弱い魚なんですか
A いや、普通に言えば強い魚ですよ。溶存酸素が少なくても生きていける魚です。バケツに入れておいても生きている、ヤマベやハヤはすぐ死んでしまいます。ところが、こういうストレスにはヤマベやハヤよりも弱い、ヤマベやハヤは平気でもフナは病気になってしまいます。なにをもって強い弱いというか、決まってないですね。現代の情況にフナは適応できなくなっているのかなと思います。

Q 平塚市でも河川の水質検査をやっているんです。鈴川では、使ってはいけない除草剤を使って  いましたが、今は禁止されている。生活排水の問題もあるのではないでしょうか。
A 魚を釣った場所はこの地図のところです。鈴川は意識して釣ったことはないですね。フナに特定の病気でほかの魚にはでていない。40年以上もフナを釣っていますが、ここのフナだけですね。ここには漁協もありませんし、フナの話を漁協の人にしても反応はありません。入漁料で食っているわけで、アユだけですね、大事にするのは。水産価値がないという魚はこういうふうになっていくんですね。

Q 生態系の異常なんだから環境の保護のために行政に働きかけてはどうでしょうか。この表をみてもアンモニアの表出も多いですし、家畜の屎尿処理の問題もあるし。生活排水もひどいみた  いですね。
A 県などの担当者では「水質基準の指標になっていないんでできません」というだけでなにもしてくれません。家畜の屎尿のこともきいてみると「基準は守られています」というんですね。ただ、この基準自体がずいぶん甘いんだそうです。釣った場所は、伊勢原と平塚の境目ですが、ここに流れこんで入ってくるのは伊勢原市の水ですね。
A(出席者) 伊勢原の鈴川にアユを放流している人がいるんです。それはこの川は汚くてアユは住めないということを証明するためだっていうんです。伊勢原では日向川以外はひどいと言っていいんじゃないでしょか。そういう川の水がこの渋田川にも流れだしているんだと思います。畜産排水、生活排水も流れ込んでいる。今や、日本全国、川がゴミ捨て場になっているのが現状です。

Q 渋田川だけに穴あき病のフナがいるということは、原因がなぜでこれからどうするかというこ とを言っていかないといけないのではないでしょうか。市民の川として考えていくうえでも必  要なことだと思う。地元住民の間では桜並木をここまで広げようという動きもある。桜を植え  ることと河川を良い環境にしようという動きは矛盾しないので、平塚市に働きかけていくこと  もできるのではないか。

A あんまり「環境運動」だけになるとフナ釣りすらできなくなっちゃう。そういう運動にはなってほしくない。釣り人は自然保護団体から目の敵にされているところがあります。テグスをおきっぱなしにして鳥の被害が大きいとか、水辺をころすとか、釣り人の全部が全部そういうことをしているわけではないんだけれどもね・・・。 釣りは駄目だというのではなくて、生態系全体をみて、身の周りの自然を保全していく、魚釣りくらいしたって問題がないくらいの自然を残すような努力が必要だと思うんです。釣りをすることと環境を守るということとは矛盾しないと思うんです。魚が住める水域を保全していこうということが大きな目標なのですから、これからも、この病気の原因を見付けだして、なんとかしてきれいな川にしたいと思っています。

(1999.12.18  かながわグリーンネット研究会にて)