箱根・ポーラ美術館  申請許可とその後

蛯子 貞二
e-mail: te-ebiko@za2.so-net.ne.jp
 ポーラ美術館建設については、残念ながら長官は事業者からの申請許可を出してしまいました。なお、箱根を守る会は11月2日緊急総会を行い、今後の進め方として、委員会を設け論点を整理して、訴訟の準備に入ることを申し合わせました。これまでの経緯と今後について以下ご報告申し上げます。

●報道された中からの問題点
 事業者が、10月27日行った記者会見を踏まえ、翌日新聞各紙(朝日、毎日、読売、産経、神奈川)が本件を報道した。その内から、驚くべき幾つかの点を指摘しておきたい。

1. 館長に文化庁長官経験者(植木浩)が内定していること(朝日・読売・産経)
2. 個別法、特に環境庁の自然公園法に基づく許可後に行うはずの箱根町「開発事業指導要綱」に基づく近隣関係者への説明が既に昨年11月から行われていたこと(毎日)
3. 建設予定地の隣接地約19万平方メートルが買収されており(読売・産経)、その内5万平方メートルを県に寄付(産経)されること。
 これらは、環境庁での許認可審査中に、既に許可を前提とした動きが、事業者と県・町の間で進められていたということで、何のための個別法審査であったかの疑問を強くする。また、各紙は
4.環境庁では、同財団が講じた対策は「風致に与える影響は少ない」(読売)、あるいは美術館への進入路の幅を8メートルから6.75メートルに縮小し屋上の一部を緑化するので「風致に与える影響は少ない」(神奈川)こと、また、「保全と開発を調整する自然公園法の二種特別地域であるが、特定の人の施設でない美術館の公益性とブナが残る森林一帯からみると計画地は戦前に一度伐採され、(自然度に)格差がある」(産経)ことが許可の理由であると括弧付きで同庁コメントを紹介している。

 記者会見のあった翌28日、箱根を守る会は環境庁富士箱根伊豆国立公園・野生生物事務所を訪ね、高橋事務所長および佐山次長から、環境庁の許諾に関し、下記を聴取した。

書類番号:環自国許第275号
日付:平成11年10月25日
宛先:ポーラ美術振興財団 理事長 鈴木常司(申請者)
発信元:環境庁長官 清水嘉世子
内容:自然公園法(昭和32年・法律161号)第17条第3項の規定に基づき、申請者の次の申請に関わる行為を許可する。
国立公園名:富士箱根伊豆国立公園
地域:第2種特別地域
申請年月日:平成10年7月31日
行為の種類:工作物の新築

 この許可には自然公園法第19条の規定に基づき、下記の通り条件を付されている。
1.敷地内の車道や歩道を最小限にする。
2.支障木はできる限り移植し、伐採は必要最小限に留める。
3.工事関係者、作業に対する自然配慮の作業心得を作製し、その遵守に務める。
4. 残土、廃材は国立公園外で処理すること。
5.仮工作物は工事完了後直ちに撤去する。
6.許可申請書に添付されている「緑環境計画」については変更のないように遂行すること(県道沿いおよび下流域)。
7.稀少植物種の移植は許可申請書に添付されている事前調査書に準じて行うこと。
8.工事着手・完成後も自然保護局長が必要と認める期間、工事による植生などへの影響を調べ、報告すること。また問題が発生したときは直ちに中止すること。
9.4半期ごとに、工事の進捗状況を報告すること。

 新聞紙上にある環境庁括弧付きコメントについての整合性については、同事務所では定かにはできなかったが、その内容は10月9日箱根事務所長から聞いた事実とほぼ一致ししていることから、本庁からのコメントであろうことは伺い知るところである。

 箱根を守る会は10月9日の面談に基づき、10月18日、自然公園法第17条の厳しい審査を望む長官宛陳情書を持って自然公園課を訪れたのだが、今回の措置はきわめて遺憾、また、環境庁の許諾前に、県との間で、周辺地区の買収と買収地の一部を県へ寄付する件が決定していたこと、また箱根町「開発事業指導要綱」に基づく近隣関係者への説明が決定の1年前に既に始まっていた行為は、善良な市民を欺くものであり、黙って認めるわけにはいかない。

●このため今後は
● 県に対して
1.長い間の慣例として自然公園法第一種特別地域に準じて守られてきた当該地区が、何故に、建設を前提とした県条例である環境アセスが持ち込まれてしまったのか?
2.環境庁の審査中に、何故に周辺地域の買収・その一部の寄付行為を是認するような措置を講じたのか?

● 町に対して
1.環境庁の審査中に、何故に「開発事業指導要綱」に基づく近隣関係者への説明を認めたのか?
2.行政三者と市民(箱根を守る会他)との間で、長い間の慣例として自然公園法特別保護地域に準じて守られてきた当該地区が、市民への公開なしに、何故に、建設を前提とした県条例である環境アセスを持ち込んだのか?

● 環境庁に対して
1.公の学術調査、および、県環境影響審査委員会の答申で明らかにされた地域の高い植生自然度を無視し、あえて「ブナが残る森林一帯からみると計画地は戦前に一度伐採され、(自然度に)格差がある」(産経)とした根拠は何か?
2. 当会が昭和50年に行った特別保護地区への編入要望に対し、書類番号「環自保第14号」(昭和52年)において「(この地域は)厳しい姿勢で自然公園法第17条の運用にあたっている」ので現行第2種地域であっても、特別保護地区に準じた扱いをすること、また、会の憂慮に対して「(この地域の開発行為については)連鎖的開発現象は今後起こらない」としていた歴史上の事実を無視して、今回当該地域を「保全と開発を調整する自然公園法の第2種特別地域」とあえて定義し、「特定の人の施設でない美術館の公益性(産経)」をもって許可するという変心がどのような経緯でなされ
たのか?
 自然公園内における公益性とは「自然公園法第17条に対する審査指針とその運用(昭50)」に掲げられている事例、すなわち、「現に地滑りが起きている土地又はそのおそれが顕著な土地における地すべり防止工事に関連してなされる工事」および「ある一定の区域を避けて設置するとその設置の意味がなくなってしまう航路標識の新築など」であって、自然を破壊しての集客を目的とした博物館法の美術館は、どう贔屓目にみても自然公園の利用を図る公益性とは言い難く、自然をそのまま保全することこそ自然公園法にふさわしい公益性ではなかろうか。
3. 地下水系を分断して8万立方メートルにも達する土壌をセメントで置き換える行為は周辺下流域をアルカリ化させ重大な現存自然環境の破壊をおこし、美術品保護のためにとられる過度の空気調節設備は冷温帯の最下底域にあるブナ林内の気温を上昇させる危険があるとの当方指摘を無視し、「美術館への進入路の幅を8メートルから6.75メートルに縮小し屋上の一部を緑化するので『風致に与える影響は少ない』(神奈川)」とする根拠はいったい何なのか。
 
 上記は、当会が事業者アセス(案)が突然公開されて以来、アセス上の手続きに則って、意見書、再意見書、公聴会等で述べてきた点であり、特に環境庁に対する上記3点は、昨年12月環境庁長官宛に提出した要望書、また本年10月陳情書においていちいち指摘した点であるが、結果として何ら顧慮されなかった点はまことに遺憾であります。

 私たちは、今回、事業者が用いたこのような手法が全国の自然公園に蔓延し、自然公園が蚕食されることを憂慮するもので、国立公園を愛し利用する国民の一人として、ポーラ美術館建設許可に至る多くの不審の中から、さしあたり上記の点を、その経緯をたどりつつ明らかにすることを関係者に要求し、今後の自然環境の保全活動に資したいと願うのです。皆さまの今後とも変わらぬご支援をお願いする次第です。