鎌倉・広町の自然を守る運動について
その歩みと問題点−経済重視から環境重視の思想への転換を
大木章八(鎌倉の自然を守る連合会事務局長)
 

 はじめは私たちの身の回りの単なる里山であった広町の緑地が、近年になり三大緑地といわれるようになった。私は、この地をどのように守るか、20年にわたって地元の力をまとめて運動を続けてきました。今、本当に保全をしなければならないとう情況にきているという現実があります。そういう運動の過程から、自然保護運動の問題はどこにあるか、日頃の考え方を話してみたいと思います。

1 保全の困難性と問題の所在
 広町緑地の場所は地図をみていただければわりますが、この地域で唯一の緑地です。このほか、台峰緑地、常磐山とあわせて三大緑地といっていて、現在では鎌倉では守らなければならない緑と考えられています。
 こういう町中の自然を守ろうとすると大きな問題がでてきます。それはなにかというと、問題になる土地は民有地なんですね。市民の財産は憲法で保証されているんです。地域の保全運動の課題は私有地をどうするか、保全したい、市当局がそう思ってもどうすべきなのか、里山を対象とする法制度では、開発は制限しているのですが開発をしようとしていることに許可をしないということはできない。または、土地の価格が買取をするようなことになる。これが買取をできるような値段ではなくなっているのが日本の土地の値段なんです。これが土地を守ることをあきらめてしまうことにつながり、開発されてしまう。
 鎌倉市の予算は、昭和60年頃をみると全予算の三分の一ぐらいが土木建設予算で占められていた。そして、予算策定にあたっては緑地にお金を使うという思想がないことが実情です。当時からこのことが問題だと思っていた。行政のあるべき姿を環境
重視の施策にしなければならないと主張してきた。ところが緑地はただでは手に入らないんですね。
 それで、昭和61年に緑地地保全基金という制度を鎌倉ではじめさせた。この緑地保全基金の考え方は日本では相模原市が最初なんですよ。昭和60年に日本で初めてはじめた。これを参考にして鎌倉にも導入してもらった。それから20年たって、現
在では111億円の基金が積み立てられている。日本では最高額ですね。守るべき緑地をお金を使って守ろうというんです。ただ買って守るといってもそれだけではない、私は、土木建設費の経費の30%を環境に使えと言い続けてきた。

2 解決策は行政を動かすこと 

●広町の運動の原点 
 一般の市民が、民有地を守るにはどうすべきか。まず第一は、市民に協力してもらうことです。言うまでもないことですがこれが根本です。
 広町の例でいえば、開発の動きが出てきたときに、私は、地域環境を守るのに、自治会が中心になるべきだと考えたのです。自治会という普遍的な団体がやるなら私もやろうと思ったのです。
 このとき、これは「地域エゴではないか」と疑問を持って、この運動をはじめたころ仲間と話し合ったのです。そんなことはないよ、問題を外部の人に知ってもらって、判断してもらえばよいのではないか、だから運動することがはじめなんだといわれました、まさのそのとおりだと思ったのです。それが昭和54年のことです。
 緑地を守るには、そのまわりの自治会が運動の主体になることが、大事だったのです。単に個人の動きではない、もっと合理的な裏付けがないと動けないんですね。これが、行政に対しても市民にとっても、運動の信用になっていると私は思っています。さらに、まわりの自治会のいくつかが参加してくれて、現在は7自治会が参加しています。そうして、この緑地の取り巻くすべての自治会が入ってくれたんです。それが、この運動を理解してもらうきっかけになったんですね。

●選挙と無関係ではいられない
 選挙が重要なんですが、自治会は政治に関与しない、中立だという思想があるんですね。だからといって、環境重視の議員が当選するのを待っているだけでは仕方がない。それで、市会議員の候補者にアンケートをとり、候補者の緑に関する考え方の情
報を流したんです。そういうことを続けていると議員のほうも、緑を守ることに表立って反対する人は少ないんですね。
 やはり、行政を動かすのは、選挙をさけて通れない。鎌倉の現実をみると、市長に緑保全派の方を担ぎ出した。その時点の市長が開発止むを得ないと言っていたことを、市長が変わったことで、開発凍結の方向になった。これはデリケートなことなんですが、行政を味方にしようというスタンスで活動をしてきたことが広町の緑を守るためには、大きな力になっていると思います。行政を味方にすることをスタンスとして、活動してきました。

3 緑地保全運動の課題
●個人の財産権は侵害できない
 鎌倉だけでなく、各地でもいろいろな法律を緑を守るために作っています。でも、条令で緑を守らせることにはつながらないんです。私有地を守るという基本的な思想が根底にあるんですから。正当な理由なしに土地利用の方法を決めることはできない。所有権がきちんと定められているんです。
 こうした条令では無効だといっても、それが違法かどうかは、裁判を待つしかないんのが日本の現状です。だから、法律や条令でどういうふうにきめても、裁判にかけて答えをだしてもらうまでは、法律上の決定ではないんですね。
 開発に住民の同意が必要だという条令をつくった市もありますが、これも裁判に持ち込めば変えられるかもしれないんですね。ただ、大手の業者では、裁判をしてまで自分の権利を主張するようなことまではしない。つまり、日本では、どんなに条令で決めても、それだけでは土地は守れない、行政だけで勝手に利用することはできないんです。
 だから、環境保護なんてできないよと行政の人たちは考えている。環境保護行政だけの問題ではなくて、土地の価格が高すぎることがいろいろな点で問題になっています。土地の公共性ということを考え直すことも課題ではないでしょうか。
 土地緑地保全法が昭和48年、金丸さんが建設大臣のときにできたものです。土地の市街化を保全しよう。まさに、鎌倉の緑地を守るための法律のようにできたものですが、財源的な裏付けが無くて実現できなかった、というのが現実です。秦野市のように、市街化調整地域ならできるんですが、これは例外で、市街化区域ではうまくいかない。

●資金の調達
 私は当時から、施設よりも緑を、公共事業にすべて使うのではなくそのうちの20ー30%は緑地保全に使うべきだと、ようやくそういう流れになりつつありと思っています。もう、開発は善だという思想は変わりつつあると思っています。そうなったら、財源難で積み立てられなくなってきた。
 鎌倉の場合には、緑地保全協力金というような名称で観光客から協力を求める仕組みするべきだと提案してきているのです。鎌倉に来る観光客一人から100円協力してもらえば一年間で20億円になる。10年続ければいくらになるかと思うと・・・、この鎌倉の歴史と緑を楽しみにくる人たちに緑を守るために協力してもらうことはいいアイデアだと思うんですが、まだ実行に移されてはません。
 そのほかにも、自分の税金の内の何%かを、緑を守るために使うべきだという運動ができないだろうかと思っています。市民のかたがたに聞いても賛成されますし、自分の税金の使い方を行政に指示するような方向にすべきだと思っています。ところがそういう仕組みになっていない。もっと働き掛けてよいことだと思います。また、環境税を考えました。環境税といっても、いま話題になっているのは炭素税ですが、これを緑保全にするような税制にすべきではないかと考えています。

4 鎌倉の緑保全には
●法の限界
 広町緑地は市街化地域なんです。開発してもよいですよ、という地域なんです。この用途指定がなされたのが、昭和45年なんです。このころは、開発することは善だと考えられていた時代なんです。この緑地指定そのものが問われる時代にきていると考えています。本来都市計画とは、環境を含めた計画でなければならないと考えています。
 この地域指定は県知事によって決められるんです、それは変えることもできるんです。法的にはできるんですが、通常逆線引きといっているんですが、財産権の問題になる。市街化区域なら100万円だった土地が市街化調整区域になれば数分の一の地
価になってします。現実にはできないというのが行政の言い分です。でも、私は地域指定を変えることは可能だといまでも考えています。

●運動費用は自治会費
 ご存じのように、広町は地価が高いんです。通常のトラスト運動ではとてもカバーできない。知床みたいな山ならトラストができても、鎌倉では大変な金額になる。いま、市民募金で2000万以上が集まっていますが、とっても比較するような額ではないんですね。しかし、運動をはじめたころはまったく理解されなかったこの運動がでもいまでは市民に考え方はわかってきていただいている。自分たちの集めたお金だけでは無理だが、募金運動は大事な働き掛けのできる事柄だと思っています。

●運動体は自治会
 私たちの守る会は、自治体の連合体なんですね。7自治会から委員が集まって考え、それをまた住民に戻している。3500所帯という住民みんなの考えなんだということは大事なことなんです。
 たとえば、署名運動でも大勢の市民に協力してもらえる。自治会がやっているということだからか協力してもらえるのではないでしょうか。それと、緑を守るための運動費用を自治会費からだしている。このことは大切なことだと思っています。自分の金を出すことで、自分が参加していることを意識する。活動に責任をもって行なわざるをえない。ボランティア運動とは無償だといいますが、単にそれだけではなかなか続いていかないのも事実だと思います。お金をだしていることで、お互いに責任をもって活動するのではないでしょうか。
 たしかに、自治会役員と一般住民との意識の乖離をどううめていくかということは、常に課題にはなってきています。自治会とは1年交替だし、もう少しこういうものもボランティアというか、楽しみながらできるものにしていかないと続かないと思っています。

5 自然保全運動の課題
 もう一度いいます。予算に「緑の保全基金」を作らせることは大事だと・・・行政側の議員さんや市長さんの多くは、市民の税金を従来型に使用することはできても、新しい考えで税金を使うことはしないですね。これは市民が監視していかなければならないことだと思います。
 民主主義の原点に戻ること、つまり住民のためのコストを考える、住民のためには何が必要なのかを考えてもらえれば、緑を守るということはそれほど大変なことにはならないと考えているんです。
 土地のことをいえば、行政側は土地の価格に対する感覚が大変甘い。それは、自分のお金だという意識が無いせいです。こういう、壮大な無駄遣いがなされていることが、市民は知らないで、すんでいる。ここらへんを監視していくことが大事です。緑基金を創るくらいの分は出るんじゃあないか、とも感じます。
 私は、これからの保全運動には、緑地保全基金を予算を何%か認めさせることが、大事だと思います。市民が税金の使い方を決めていく姿勢を持っていないと、行政を動かすことはできないのではないでしょうか。
 

質 疑
Q 井上ひさしさんたちのトラスト運動が話題になっていますが一緒には行動しないのですか。
大木 新聞でも興味ありげに書いていますが、緑地を守る運動を長年続けてきたのは、私たちの会なのです。最近になって、井上さんやなださんが声を挙げてきた。そのことに反対するわけではないんですが、自治会が中心なっている私たちの運動は、政党色がはいてくることはなじまない。なかなかユニークな運動をするかたがいたりして・・。それで私たちは自分たちの運動をやっていればいい、と思ってすいます。なんで分派活動をやっているんだと書かれたりしていますが、興味の中心が緑を守ることでなくなっているのは困ったことだとも思っています。自分たちの会の行動を理解してもらえればよいのではないかと思っているところです。

Q 本当に、広町の緑地は守れると思いですか。
大木 当初、広町の緑地は、たいした山ではないと思っていたんですが、鎌倉市民だけでなく県民にも運動の意味を理解してもらえるようになったことが力になっています。
 第二に、神奈川県の地域環境長さで、自然度の最も高いA1ランク、保全すべき緑地だと評価されたことがあります。単なる地域エゴで残せといっているのではないことがわかっていただけた。急がず休まずやってきたことが評価されたと思っていま
す。広がりが保全運動の原点と思っています。

Q その具体策があるのでしょうか。
大木 広町のすべてを買い戻すには250億ともそれ以上とも言われていますが、実際はそんなにかかるわけではない。開発をしようという業者にとって、開発を無理強いすることは世論に敵対することだから、大手という立場上したくない。鎌倉の緑を破壊して開発しようとすること自体が事業計画として間違っていたんだ。だから私たちはこれは、不良債権だと思いなさいといっているんです。実際、元手さえ戻ればよいと考えれば決して無理な金額にはならないと考えて運動をしています。
 それと、日経新聞の社説にあったように、グリーンコンシューマーという考え方が市民に浸透してくれば、民間業者は無理なことは言えなくなる。言えないというより、自分たちの利益をあげることだけをやって緑を破壊し続ければ、市民がその商品なり会社をボイコットしよう。こういう強い連帯があれば、企業は環境を大切にするようになるのではないでしょうか。
 自分たちの緑を守るために市民と行政とが力をあわせて企業を監視する姿勢が、企業の不当な活動を抑制することが可能になるのではないかと思っています。将来、こういう姿勢を持つ市民が増えることがが環境を守っていく力になるのではないでしょ
うか。

 ★参考 朝日新聞1999年6月17日「揺れる緑地1鎌倉広町」
(本文は1999.7.4  15:30ー 神奈川県民センター会議室・かながわグリーネット総会記念講演より編集者の責任 でとりまとめました)

おおきしょうはち 弁護士・鎌倉の自然を守る連合会事務局長
  鎌倉の自然を守る連合会事務局 tel.0467-31-6080
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