環境連続講座1999「ゴミと環境保全」
スウェーデンの環境保護  廃棄物処理・リサイクルを中心に
交告尚史 

 私は法律が専門ですが、昨年まで1年間ウプサラ市のウプサラ大学で環境法を研究してきました。
ウプサラという都市は日本で言うと芦屋市と同程度の規模、関東だと秦野市くらい、とお考えください。ゴミ問題の専門家ではありませんが、私の生活した経験をお話いたします。

◆家庭ゴミはどうしているか

 各家庭にはハンドブックが配られ、システム化された処分をしています(図1)。余談ですが、この国はシステム化が国民性なのかもしれないと思われましたね。なにしろファイルひとつとっても国中が統一されているんです。ゴミも同じで、決められた容器に入れて処分する。分別の種別がハンドブックによると、11に区分されてゴミを出すように決められています。
 高度分別と訳していいのかどうかわかりませんが、分別の程度を高める、特に、焼却ゴミと生ゴミを分けることを積極的に実施させているところでした。
 生ゴミというのはコンポスト処理をするということです。
 一般家庭はこの2つの容器を買って使用するわけです。私の住んでいたのは集合住宅でしたので、ゴミ小屋がある。そこに分別して持っていくんですね。この小屋に容器がいくつかあって、分けて入れる。私はそれにあわせて部屋でも分けて置いていました。この国は気温が低いので1週間くらいゴミブクロに入れて外においても腐らないんですね・・。
 また、酒は所定の販売所にいかないと売っていない。自動販売機なんかもちろんありません。だから、ペットボトルでも缶でも自分でスーパーに持っていって処分する、処分した分はレシートで費用が返ってくる仕組みです。だから、普通のゴミには入らないんです。日本みたいに自動販売機のジュースみたいな缶も見ませんでした。
 新聞・雑誌は所定の場所に置いておく、回収して再生しているようです。いろいろな専用の容器があって、ダンボールや菓子箱も区分するし、卵も決まった容器があるんですね。本当に詳しく分別しなければならない。それが、収集のコストに反映される仕組みになっている。

◆生産者責任

 スウェーデンという国では、ものを作った人が最終責任を負う仕組みになっているんです。「アンスヴァール:責任」という言葉がラジオでもテレビでも毎日のように聞かされるんです。この国では、責任は個人にかかってくるんですね。オンブズマンという制度はご存じでしょうが、結局だれが悪かったのかが問われる国なんです。役所でも、日本みたいに上司が頭を下げて済ませるという責任の取り方はないんです。ゴミ処理の話から少しはずれますが、この責任という考え方に大きな違いがあること
を念頭におく必要があります。

◆一般家庭でのゴミ処理

  家庭では、次の3つの選択肢があります。

1.2つの容器を用意し、生ゴミは130リットル入りの容器、焼却ゴミは190リットルで、収集は隔週か月1回を選択する。もちろん隔週のほうが手数料が高い。
2.生ゴミは自分でコンポスト処理して、焼却ゴミだけを収集に出す。
3.容器を隣人と共有する。

 法制度からみると、ゴミの責任は市にあるということなんです。費用は市に直接払うか、収集担当者に払う。年に1回かその程度で請求書がくるようですね。この国は毎月収集するようなこまめに取ることはしないんです。あとで請求書がきて郵便局から支払う。払わない人がいるんではないかと私は心配するんですが、この国では公共料金を滞納していると、それが当別の機関に回りそこから請求されるので、きちんと支払うようですね。
 また、ゴミを分別すると、25%手数料が安くなるし、さらに収集回数を減らせば安くなることはわかりますね。これは再利用・リサイクルの促進のために誘導方法として手数料で差をつけるという考え方ですね。スウェーデンではもともとこの考え方が違和感を持たれていないんですね。法的にも決められている。

◆法体系
 清掃法が基本的にあって、それを補完するために法律がいろいろと決められています。施策部門(政府)と執行部門は別であるという仕組みになっていて、日本でいう省令のようなルールを執行部門で作ることがあります。
 清掃法では、リサイクルと廃棄物処理を同じレベルで考えていて、エネルギーを節約するためにあるいは環境保護の必要のために廃棄物処理は行なわれなければならない。健康維持と環境保護の観点から支障の生じないような廃棄物処理を行なわなければいけないと書かれている。
 実施のための役割分担は、コミューン(市)が責任をとるが、新聞とか紙箱とかのように、ものによっては生産者が責任をとらなければならないものもあります。

◆循環型社会にするためには

 スウェーデンでいま問題になっているのはコンポスト処理をすすめていくべきかどうかであって、二つの見解が議論されています。
●積極派
 コンポスト推進派の国民党の立場では、コストは覚悟しなければならない。コストを下げるためにはコンポストの積極的な使用が望まれ、家庭でのコンポスト処理を普及させるようにさせたい。コンポストは農業には使えないが、その外の用途、公園で
の緑地や道路の縁には使える。環境経済学者たちもそういっている。
●見直派
 生ゴミ処理をもう一回考え直す必要があろうと言っている。それは、生ゴミの処理には処理場まで運ばなくてはならず、運搬コストがかかってしまう。コンポストの売却収入とのバランスがとれないし、家庭でのコンポスト処理にかかる手間もコストのうちであり、老人や家庭介護を必要とするような家族では分別するための負担も大きいので、もう少し見なおしてはどうかという意見もでている。

 今日の話はウプサラ市での経験が基になっているので、今後のタイムスケジュールをみるとコンポスト導入になろうと思いますが、EUとの関係で今後どのようになっていくかをみていかなければならないと思っています。

★質 議
Q   コンポストされたゴミは日本では農業でも使われていると思うが。

交告 生ゴミ用のバケツを買わされており、それに入れて収集に出す。焼却用は別の方式である。たぶん市町村によって多少は違っている。この国は、土質自体が重金属の割合が多く、コンポストにも重金属の含有量が多く、農業用には使いづらいと、わたしは判断した。また、小さいけれど危険なものも入っているようです。

惣田 日本でも農業では使われていない。コンポストの成分にどうしてもガラスがはいっていて除去できないんですね、0.01%くらいですがこれ以上は無くせない。だから野菜栽培には絶対使えませんよ。危ないものが入っているんだからなかなか使用には踏み切れないのが実情です。

Q   自動販売機がないとは

交告 酒に関しては厳しい国で、社会的な規範として酔っ払いが外にはいないような風土がある。酒は決められた場所でしか買えない。社会的なコストが掛かるようなことはしないことが一般常識になっている。その他の飲料は日本のような気候でもないので外で買ってまでして飲む必要がないのではないだろうか。

Q  リサイクルの先進国と言われているが

交告 ウプサラだけを見れば、2000年に家庭ゴミの再利用はゴミの半分を目標にしている。そのうち、焼却ゴミが約半分となっている。完全な高度分別を実施し、産業廃棄物も分別させ、建設廃棄物等の有害な廃棄物を分別させるようにしたいと言ってい
る。自然保護には厳しい国であり、伝統的な農業形態を保持することで、環境を守っているという面もあるようだ。

Q  コストについて

交告 具体的な資料はもらってきていないが、税金が高いことは事実だし、私の場合は処理費がアパートの家賃にも含まれていた。各家庭に処理の際の料金表が配布されていて、各人がどの方法をとるかを自分で決めている。
                                                    
 (於1999.4.10 神奈川県民センター)

こうけつひさし 神奈川大学法学部助教授 神戸大学法学部卒業後同大学院に学ぶ。
1985年より神戸大学に勤務、1993年より神奈川大学法学部助教授。行政法と環境法を
担当。目下のテーマは自然保護。趣味は昆虫採集。
連絡先 神奈川大学法学部 〒231-8686 横浜市神奈川区六角橋2-27-1