ストップ・ザ「むだな開発と環境破壊」
−神奈川の自然保護と財政再建をめざして−
報告5.横須賀市芦名に神奈川県が計画をすすめている
産業廃棄物最終処分場」の問題
アベトンフォーラム

◆計画されている場所の自然

  計画地は、三浦半島のちょうど中心部、大楠山(おおくすやま)の麓にあります。 ここは、多摩丘陵から三浦半島までつらなる丘陵の緑地帯に位置しています。しかし、三浦半島の丘陵地は、重なる乱開発によって「虫食い状態」になってしまっています。かろうじて維持されている緑地帯によって、タカなどの広域的な自然が確保されていないと生きていけない生き物たちは生息しています。これ以上、自然を分断すると、多くの生き物が絶滅してしまいます。 芦名には、たくさんの貴重な生き物が生息しています。

 オオタカは国の「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」による制令指定種です。生態系ピラミッドの頂点に立つオオタカが生息しているのは、オオタカの餌となる小鳥類、小鳥の餌となる虫たち…と、豊かな自然がある証でもあります。神奈川県の調査では、5例しか本種の生息を確認していないた
めに、本種は計画地に「生息していない」としていますが、アベトンフォーラムが1997年11月〜1998年8月に調査した結果では138例におよぶ観察例が得られ、また、観察された行動から繁殖している可能性も大きいと考えています。

  また、『神奈川県レッドデータ生物調査報告書』で「危惧種」に選定されているトウキョウサンショウウオも当地には生息しています。トウキョウサンショウウオは、神奈川県下では、三浦半島にしか生息しておらず、さらに生息地は14地域しかありません。この両生類は、水中で産卵・孵化し、大人になると林の地面の下で暮らします。良好な状態で維持されている水辺と林の両方がなければ生きていけないのです。本種が生息していることもまた、横須賀市芦名の自然が優れていることの証であると言えます。

 こうした芦名の自然は、生態学的に貴重であるというだけでなく、地元のこどもたちをはじめとし、沢山の人々が訪れ親しんでいる自然です。レクリエーション価値・教育的価値も高い自然は、私たち現代人が未来から託された借りものであり、子どもたちの代に受け継がなければいけない財産です。

◆産廃処分場計画の問題点

  産廃処分場がもしも造られてしまうと、前述の貴重な市民の財産はゴミの下に埋め立てられてしまいます。また、前述の自然について、産廃処分場の計画をたてている神奈川県環境部は、自らが発行した『地域環境評価書』という文書(1985年発行)で、「A1ランク(特にすぐれた自然)」と位置づけ、県民に保
全を心がけるようと呼びかけています。にもかかわらず、埋立てしまうというのは、廃棄物の排出者責任(産業廃棄物は、排出した企業に処理の責任があり、県民の税金でそれを「肩代わり」する必要はない)をさしおいても、県民の税金の無駄遣いに感じます。 この産廃処分場建設の目的は、「困難性を増している処
分場設置に対して、モデルとなるような施設を設置する。」という事にあります。しかし、県内の企業もすでにゴミをゴミとして出して埋め立ててしまう という従来のゴミ処理の問題点に注目して、「ゴミを出さない」「資源として再生化する」ための研究やシステム作りに熱心に取り組んでいます。にもかかわらず、ゴミの埋立を促進するというのは、企業努力を無視した時代の逆行ではないでしょうか。

  さらには、計画に関する県から地域住民への説明は、計画が発表になって3年目になるのに(アセスに入ったのは、昨年3月)、未だに十分ではなく、アセスの住民説明会では反対の意見しか出ず、意見書は神奈川県アセス史上2位の約3万8千通、アベトンフォーラムも呼びかけ団体になっている計画中止を要望する
署名は、10万通を超えました。こうした状況下で、計画を推し進めればモデルはおろか、寧ろ「処分場設置への不信感」を高めるだけになるのは明白です。

◆ダイオキシン類への心配
 
  住民が心配している理由の一つに環境ホルモン、ダイオキシン類への心配があります。 処分場は、廃棄物の排出元などは未だに確定しておりませんので、どんな性質のゴミが入ってくるかはまったく予想がつきません。また、搬入計画においてのチェックには市民は立ち会えない計画になっているので、処分場が出来
上がってしまいさえすればどんな管理がなされているのかはまったく市民が関与できないのです。(さらには、管理事業主体は未だに確定されていません) 搬入予定品目には、「ばいじん」が含まれています。 これは、環境ホルモン、ダイオキシンを含んでいる可能性が極めて高いものです。にもかかわらず、県のアセス評価書案ではダイオキシンについてまったく取り上げておらず、その後に市民から求めた質問にも、「浸出水に含まれるダイオキシンは基準値以下になる」との回答でした。基準はあくまで基準であり、神奈川県が処分場の計画に乗りだした10年前にはダイオキシンについて取り沙汰されることはなかったのです。だ
からこそ、心配している市民の心情について理解しようと言う意識はまったく見えません。

 こうした市民の心配を早速、裏付けるかのように、環境総合研究所の青山貞一先生は、現地を視察して、「ダイオキシンの飛散」の心配を指摘しました。計画地は東西に延びる深い谷地形です。ここは、夏は江ノ島の方に向けて、冬は横須賀市街地や東京湾・横浜方面に向けて、安定した強い風が吹きます。この風が、ダイオキシンを広く飛散させるという指摘でした。灰の粒子などに付着したダイオキシンは極めて小さいため、予想できないくらいの拡がりで町を汚染していくだろうと予測されました。廃棄物をダンプから埋立地に降ろす際に巻きあがる塵はどこまでもダイオキシンを運ぶのです。しかし、現在、この「飛散するダイオ
キシン」についての確実な対策はありません。
 
  貴重な自然を壊し、市民を危険にさらし、企業活動に逆行するするようなこの公共事業を、環境先進県神奈川県が推し進めることに、なみなみ成らず疑問を、不信を、怒りを感じずにはいられません。

○アベトンフォーラム
設立:1996年5月
会員数:約200名(1998.2現在)
会費:無料
代表:柴田直樹