ストップ・ザ「むだな開発と環境破壊」
−神奈川の自然保護と財政再建をめざして−
 
報告2.カーリットの森 現状と緑地保全に向けてのたたかい
中村雅雄(カーリットの森を守る市民の会)

★カーリットの森って?
 横浜市の中心部からわずか4.5kmのところに広がる60haほどの緑地(里山)で、現在そのうち16haが開発予定とな っており、すでにアセスを終了している。
 市の中心街から至近距離であるが四季を通して人々のやすらぎの地となっている。また、現在でもクワガタムシやカブトムシ、オニヤンマなどもおり、こどもたちの自然との接点ともなっている。5本の沢が良好な水辺環境を形成し、ゲンジボタルの発生では多い日には600頭と奇跡ともいえる発生をしている。さらに、サワガニなどとともに絶 滅危惧種のホトケノドジョウも生息している。哺乳類では、しばしばホンドタヌキが目撃され、畑のネットの噛み痕からハクビシンの生息も確実視される。
 この地は海抜最高点が87.2m、複雑な谷頭と谷戸を形成しており、市沢と仏向の沢は住民のアメニティとして整備 されている。
 
 現在、カーリットの森では、確認されているだけでも表のような多様な動植物が記録されている。かつては当たり前であったが、現在では全国的に減少しこのままでは絶滅を余儀なくされる種類も数多く含まれている。
 
★現状の問題点

・現在、一部ゴルフ練習場の夜間照明(23時すぎ)が直射し、光公害が心配される。また、雨水や洗浄水などが沢に流出し動植物への影響が心配されている。焼却場もあり今後ダイオキシンなどさまざまな環境破壊が心配される。
・ゲンジボタルが生息する沢の上流部や緑地の周辺に、資材置場や駐車場があり、さらに不当投棄が年々増えて雑木林を侵食している。
・ゲンジボタルが発生する沢に、1997年ごろよりアメリカザリガニの侵入があり生態系の変化が心配される。
・雑木林の管理が行き届かない箇所が増え「里山」としての価値が失われつつある。

★大型の開発に伴う問題点

・提供公園用地の場所が新設10.5m幅員道路のルートにおいて緑地保全の考えと矛盾している。
・周辺緑地を多様に(市民の森、ふれあい樹林、公園など)保全していくことを横浜市が検討しているが、今回の開発のよってさらに複合的な里山の破壊に進行する。

★新設「東西道路」の問題点

・仏向の谷戸の緑地を分断し、良質な斜面林を伐採・掘削し、谷戸の源流部を埋め立てることになる。
・保土ケ谷区にはない市民の森や緑地の保全など、市の「緑の基本計画」の推進と矛盾し、その障害となる。
・16号線や環状2号線への抜け道となり、周辺の道路事情や環境の悪化を招く。
・環状2号線の影響および接続道路である川島岩間線と水道道の狭隘性という現状が考慮されていない。
・資材置場や駐車場・ゴルフ場などにより、開削・埋立てが進んでいる。不法投棄も多い。また、今後暴走族の格好の場となることは確実である。
・当地周辺は、すでに保土ケ谷バイパス・横浜新道・環状2号線・16号線に囲まれており、ますます大気汚染が進むことは明らかである。
・もっとも影響を受ける新桜が丘・仏向・星が丘・睦が丘などの地元住民の意見が反映されていない。
・藤塚水道道はもともと水道局の私道であり、接続する道路として不適切である。

★なぜ東西道路の全ルートを認めることができないのか

 東西道路(地図B地点)以降水道道に通じる部分のルートでは、数十頭のゲンジボタルが観察されている。しかし、この場所は南側がゴルフ練習場による強力な夜間照明が夜中の12時近くまで漏れており、わずかに照明の届かない地点を中心にゲンジボタルの発生を見ている。東西道路はアメニティーの北側を道路が通り、緑地の分断という大問題もあるが、湧水が漏れる心配と夜間の照明によるゲンジボタル絶滅へ深刻な影響を及ぼすのは必死である。

 一方、この「カーリットの森」に生息するチョウゲンボウなどの猛禽類の行動半径は0.5〜数kmで、ホンドタヌキ やホンドイタチなどの哺乳類では300〜500m、猛禽類やフクロウの仲間の餌になるネズミ類は250mであり、昆虫、甲 虫類やバッタ類をはじめとして地上移動性のものが少なくない。また、飛翔性の昆虫の
うちトンボ類は昼行性で、イトトンボ類では地上1mほどの高さでしか移動できなかったり、ヤンマなどの大型のトンボ類では梢の上や草原を一定のエリアとして旋回しながら補食するので、エリアの分断は飛翔性の昆虫といえども新設道路の影響を大きく受ける。

 個体群にとってbiotopを形成するための生育地としては、繁殖地(営巣地)、餌場や水場、休息地(塒)としての生活圏とともに、年周期での移動を含む多様な環境が必要である。

 こうしたことからみても、ただでさえ周囲が宅地化し開発によって緑地が消失している現状では、より一層まとまりのある自然として残したり、他の緑地との緑地帯として残さなければ生態系の確保はできない。

 この道路予定地は、工事では30m幅で伐開、掘削、盛り土されることにより緑地の損失はたいへん大きい。また、 開設後の道路交通による影響で心配されるのが、ホンドタヌキなどの車両によるroadkillである。カーリットの森付近の野生動物の中では、哺乳類でもっとも被害を受けると予想されるのがホンドタヌキ
で、全国の統計でもトップである。大型の哺乳類は、目撃数とは逆に個体数は少なくきわめてうれうべきことになろう。鳥類ではフクロウ、爬虫類ではヘビ類、両生類ではカエル類が同様の結果になるであろうことは予測できる。

★私たちの道路についての提案

・東西道路は、川島岩間線の進入口よりおよそ250m地点で南北道路に接続し、藤塚水道道には接続しない。
・一部高架を取り入れ、動物の地上移動活動を可能にする。
・幅員は、車道6.5m、歩道2.0m、緑地帯2.0m とする。
・現在、水道道に接する農道は「遊歩道」として生かす。
・照明灯は夜行性動物に、側溝は地上移動動物 に十分配慮する。

★カーリットの森を守る市民の会 これまでの活動とスタンス

・地権者の立場、地元周辺の要求、自然保護と緑地保全は21世紀の財産、この3つを結びながら 無理のない運動に。
・超党派の原則で。町内会呼び掛け、周辺住民への資料と署名簿の全戸配布などで運動にも広がり ができてきた。
・近郊の里山の価値、カーリットの森の価値の素晴らしさを訴える。
・ウオーキング・観察会・生物生息調査・学習会・署名活動・市との公開交渉や三者協議・シンポ ジウムなどの開催など多彩な活動を展開中。
・現在、市と開発事業者(JC・ゆうゆうの里)と三者での協議中。
・カーリットの森を守るための陳情書署名数13、900名、横浜市に提出。会員数も100名を超える。